第13話 七と三

僕は洗面所で身支度を整えた

誰とも会わず、ただ知識を集めにいくだけだが

今日は久しぶりの休日の外出


少しくらい、いつもと違う大人の装いをしてみよう

顔を洗い、髪を分けた

髪には油も少し足したかったが

僕にはあいにく父がいない、したがって髪につける油なんぞあるわけもなく

たった今、七と三に分けた髪を手で左右にかき分けた

いつも通りの僕だ、これでいい

僕は薄汚い寝間着を着替えるべく

自分の部屋に向かうと

母はまだ階段付近で行ったり来たりソワソワしながら、僕を待っていた


「さっきから、ずっといたの?」

「ねぇ!あんた!まさか……恋人でも出来たんじゃないでしょうね?」

僕の質問を無視し、小指をつきだしながら、意味ありげに笑いながら母は問う

「そんな訳ないでしょ?」

「母さんはいいのよ!怒らないわよ!これからの時代は恋愛結婚だって増えていくし!」

「そんな話しないで」

僕の神妙な面持ちにハッとした顔をし

「そうね!母さんが出る幕じゃないわね」

と照れくさそうに言った

「どいてくれる?通れないから」

僕は先ほどと全く同じ台詞を母に言った

「あらら、ごめんなさいね!」

母は明るく言うと、鼻歌を歌いながら台所に戻って行った


軽快な足取りの母の後ろ姿を見ながら

なぜか後ろめたい気持ちになったが、僕は構わず階段を駆け上がった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る