中
その日、シノハラアクアクリエイションJPNは賑わいを見せていた。何せ、新生・
「明日の配信は私も手伝うからね!」
「社長、アバター設定するのちゃんと忘れないでくださいよ? 大切なお披露目の日に放送事故はダメですからね?」
「そんなに私は信用ないかい? 最近は頑張っているだろう?」
その言葉通り、
「それにしても、新生・
新しいアバターは人気のイラストレーターが手掛けた。人気だけあって先まで予定が埋まっており時間はかかったが、それだけの価値があると思わせてくれるものだった。
「
「私、この会社に入れて良かったです! 推しのためなら仕事も頑張れます!」
「これからも頼むよ」
「はいっ」
新生・
「いやぁ、明日が楽しみだねぇ。本当に、コンちゃん様々だなぁ」
350mLのビール缶一つで酔いの回った
「社長、まだうまくいくかわからないですよ」
「そんなことない! だって、コンちゃんは女の子から見て格好良いだろう?」
「
「そうだぞ。今日は
「……はぁ。おじさん、酔っ払い過ぎですよ」
「あははっ。ごめんなぁ」
陽気にケラケラと笑う
「
「は、はいっ。社長は大丈夫ですか?」
「おじさん、家帰るよ。車で送っていくから」
「ちょっと
社長に対する言葉とは思えない声かけに、
「あれ? 私、仕事なくて親のコネで入社したって言いませんでしたっけ? 社長は僕の親と友達なんです。だからこの人、私のこと〝コンちゃんとこの坊主〟って可愛がってくれているんです」
昔から優しい人だったと
「謝らないでください。コネ入社しかできなかった私が悪いんですから」
「
「……知らなかったのに悪いと思わないでください」
「じゃあ、
背を向けたままの
「後はよろしくお願いします」
そう言うと、
置いていかれると思った
「
「大丈夫! 待っててくれてありがとうね!」
「いえ……行きましょうか」
二人横並びで夜の街を歩く。
ビルの影と宵闇の境界がわからなくなってしまうように、
「私、コンちゃんのマネージャーになれて良かった」
「…………」
「私ね、コンちゃんのゲーム実況、好きなの。なんか、リラックスした気分になって、お家でゲームしてるの隣で見てる感じがして」
「そう、なんですか。俺は元々、海の生き物の紹介動画を上げてて――」
「あ、昔のヤツだよね? 海の生き物が好きだから、
古参なのだから知っていて当たり前だと言わんばかりの
「俺が一番好きな海の生き物、知ってますか?」
「クジラでしょ? チャンネルアイコンなんだから知ってるよ」
「正解です。
「
ちょっとした雑学を聞いて
「最初は、自分の好きな物に皆も興味を持って欲しかったんです。それで海洋生物の動画を作って――楽しかった。再生数は少なかったけど、同じような動画主と交流もできました」
「へー。じゃあ、今度その人達とコラボしようよ!」
「…………辞めちゃいました、皆。伸びるコンテンツではなかったから辛いって言う人もいたし、就職活動で忙しくなるからって辞めた人もいます。俺はまだ就活とか関係ないから、ただ何となく伸びそうなことして、昔の動画も見て欲しいなって」
「俺、
「見つけた?」
「
「知らなかった……というか、
冗談っぽく言った
そして
「
「大学かぁ……私は卒業できたらそれで良かったな」
「俺も、そう思ってました。大学に友達はいないから。でも、配信したら話し相手がゼロじゃなくなった」
「実は私、配信でコンちゃんと二人っきりになったことあるんだよ」
「そうだったんですか……。あの、
「私、これからも新生・
「……これからも、
これが最後の会話だった。ただ、駅で別れる時が来るまで、
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