第23話 決着

(魔剣『バルムンク』を使った防御不能の空間断絶、か)


 マリアンナの愛剣(自称)であるバルムンクは武器自体が魔力を纏う魔剣である。

 本来なら剣士は自身の武器に魔力を纏わせることでその強度や切れ味を増強するのが基本で有るが、この魔剣と呼ばれる武器(武器の形状によって『魔槍』や『魔斧』などもある)は武器自体が周囲に漂う魔力や装備者の魔力を吸い上げ、装備者が意識せずとも常に魔力を纏った状態を維持できるという利点が有り、当然ながらそこへ意識的に魔力を流す事により強力な力を発揮する事ができる。

 それに武器に内包された魔力は使わない限り永遠に残り続けるので、基本的に戦闘を終えて使っていない間に周囲の魔力を吸収した魔剣は自然と最大保有量の魔力をチャージする形となるため、次に戦闘を行う際は最初から最大限に強化された状態の武器を使用できるのだ。

 ただ、当然ながら魔剣にはメリットばかりではない。

 魔剣の魔力吸収は自動的に発動してしまうため、戦闘が長期戦になれば魔力残量が少なくなっている装備者からも容赦無く魔力を吸い上げるので、最悪魔剣に魔力を吸われ過ぎた事が敗因となることもあるのだ。

 それに、魔剣に蓄えた魔力はその魔剣を強化する以外ではその魔剣が持つ固有の能力にしか使用できない(例えばエリーの妖刀『焔』は内包した魔力を火系統の魔術にしか変換できないとか)ため、自身の魔力の一部を限られた用途に限定されてしまうデメリットも存在する。


 そんな特徴を持つ魔剣の中で、マリアンナが装備するバルムンクはかなり特殊な力を持った魔剣である。

 そもそも、魔剣にはそれぞれ保持できる魔力に限界があり、一度に所有者から吸い上げる魔力量もそこまで大きいわけではないので余程の事がない限り自身の魔剣に魔力を吸い尽くされる事などない。

 だが、バルムンクにはその保持できる魔力に限界がなく、更に一度に吸い上げる魔力量が他の魔剣とは比べ物にならないため、並みの魔力量では1分と持たず魔力を吸い尽くされて戦闘不能に陥るか命を落とす事になるのだ。

 因みに、俺もかなり魔力量が多い方だがそれでもバルムンクを装備して戦闘が可能な時間は10分あるか怪しいだろう。

 しかしその代わりにこれまでバルムンクに保持されてる魔力量は膨大であり、更にこの魔剣は切った相手の魔力すら吸い出す(流石に装備者から吸い出すよりも微弱な量だが)ため、『魔力喰らいの魔剣』の異名で知られる強力な武器なのだ。

 それとこれは余談だが、過去にはこの武器を扱うために専用の装備として装備者の魔力を封印してバルムンクに喰われるのを防ぐガントレットがあったらしいのだが、この武器に使われている鉱石が特殊な物でかなりの重量となるため、魔力での筋力強化がない状態の人間では一振りするだけでもやっとと言った状況になるため、この武器を使う際には膨大な魔力を持った実力者が短期決戦を決めるためとされてきたらしく、過去にバンダール様が王国に現れた邪竜を討伐するために使用した際もたったの一撃で決着を付けたといわれている。


(魔力を扱えないマリアンナではバルムンクに保有された魔力を自由に扱うことは不可能だが、だが内包する魔力を叩き付けてブレードとその延長にある一定距離までの空間を切り裂くことは可能だ。そして、切断された空間上にある物体がどれ程の強度を持っていようとその膨大な魔力をレジストできる程膨大な魔力を持っていなければその一撃を防ぐことは不可能……。正直、あの魔剣に内包された魔力量は王国の全国民の魔力を会わせた量より上だと言われているから、実質当たれば確実に両断される必殺の一撃だから避けられなかった時点でこの結果は当然なんだよな)


 俺はマリアンナから少し離れた所で呆然とした表情を浮かべ、「そんな…ばかな」とか「神の、器が……たったの、一撃?」と呟く男に視線を移し、この調子ならしばらく放って置いても大丈夫だろうと判断すると無事を確認するために再びマリアンナへと視線を戻す。


「見たか! これが、ボクの力だ!!」


 バルムンクを頭上に掲げながら、マリアンナは既に事切れて倒れる混沌の竜カオスドラゴンへそう告げると、謎のポーズを決めながら決め台詞のようなよく分からない言葉を告げ、それが今一しっくり来ないのか何度も決め台詞とポーズをやり直すと言う訳の解らない奇行を繰り返している。

 正直、他人に見られている状況だったら絶対知り合いだとは思われたくない状況だが、いくら放心状態だとは言え今回の事件を起こした黒幕らしき男がいる状態でいつまでも知らない振りをするわけにもいかないので声をかけようとする。


 すると、そのタイミングで運悪く男がようやく正気を取り戻したのか、先程男がいた位置から俺達とは反対側に走り出す足音が聞こえた。


「――ッ!?」


 瞬時にそちらに視線を向けると案の定走り出した男の背中が目に入り、咄嗟にマリアンナへと声をかけようと視線を動かすが、丁度かっこつけて上空に放り投げたバルムンクをキャッチし損ない、そのまま手で弾き飛ばしてしまったバルムンクをマリアンナが慌てて追いかけよとしていたので、俺はすぐさまマリアンナに声をかけるのを諦め、既に姿が見えなくなっていた男の後を全力で追う。


 先程男から受けたダメージとバルムンクに吸われた魔力の影響で本調子ではなかったせいか思いの外時間が掛って男を見つけた時、男は離れた位置で輝きを放つ転移魔方陣目掛けてで全力で駆けていた。


(くそっ! このままじゃ俺が追い付くよりも先にやつが転移魔方陣に辿り着くな)


 そう判断した直後、俺はマリアンナさえ秘密にしている最大の切り札を切る事を決意する。


 そもそも、生物の死骸、特に人間をアンデットという形で魔物化させる魔術は外法とされ禁術に指定されている。

 その術を躊躇いなく行使しあれだけ多数のアンデットを使役していただけなく、竜の死骸を利用してあのような化物を作り出した危険人物を野放しにする訳にはいかない。

 そのため、もしもここで捕える事が不可能であればなんとしてもその息の根を止めなければ、今後更なる被害を生む危険性が有るのだ。


限定解除リリース!」


 魔力を込め、自身に掛るリミッターを解除するための文言を告げると同時、俺は空間魔術を行使して亜空間に収納していた黄金の輝きを放つ一振りの聖剣、王剣『デュランダル』を抜き放つ。

 直後、体内に溢れた魔力を一気に爆発させて加速した俺は異変に気付き振り返ろうとする男がこちらに視線を向けるよりも早くその距離をゼロまで縮め、そのまま袈裟斬りに男を両断する。


「――!!? ガッ! ば、かな……その、瞳と…髪……。それに、その剣……。まさか、おまえが――」


 男はそう言葉を漏らしながらも最後の力を振り絞って抵抗する姿勢を見せるが、俺はそのまま一切の容赦無しに男の首を跳ねる。

 そして、完全に男の息の根が絶えたことを確認すると深くため息を漏らしながら再び発動した空間魔術に王剣『デュランダル』を収納し、本来・・の金と青に戻っているだろう髪と瞳の色を黒と琥珀色へと戻す。


「はぁ。本当は生きたまま捕えて情報を聞き出すべきだったんだがなぁ。まあ、あのまま逃げられるよりはマシだし、俺の正体を知られたからには生きて返すわけにはいかねえんだよな」


 俺にはマリアンナにさえ告げていない秘密がある。

 その秘密を知っているのは今のところマリアンナの父親であるバンダール・ルベル・クロスロードと幼い頃に俺と面識が有って正体に気付いた特級冒険者エリーことエミリアス・ローゼンクトの2人だけであり、特にマリアンナには俺の正体を知られるわけにはいかない。


「……まさか、こいつもマリアンナと俺を亡き者にするためにバンダール様が放った刺客、とか言わないよな? それにしても、母上が勝手にやったこととは言え突然婚約を申し込む形になった俺を恨むのは分かるが、どうしてあれだけ溺愛していたマリアンナをバンダール様が……。まあ、こいつがバンダール様が放った刺客と決まったわけじゃねえんだし、分からない事をあれこれ考えても無駄か」


 誰に聞かせる訳でもなく俺はそう一人呟きながら思考を整理する。

 そして、いい加減一人で残してきたマリアンナを回収するために俺は元来た道をのんびりと歩いて行くのだった。

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