第19話 問題だらけのパーティーメンバー

 魔動車で移動中、俺は目の前に座るマリアンナとエリーに鋭い視線を向けながら何度目かになる忠告を口にする。


「良いか、おまえら。絶対に…絶対に探索任務中に余計な事をして事態をややこしくするんじゃねえぞ!」


「むぅ。だから、さっきの模擬戦はつい調子に乗っちゃっただけでボクがそんな事するわけ無いじゃん!」


「……そもそも、この探索任務ではわたしがリーダー。だから、わたしが他のメンバーに迷惑をかけること行動なんてするわけがない」


 つい一時間ほど前に2人が繰り広げた数秒程度の模擬戦で、かなり離れた位置のハグジーナの町を轟音と衝撃による振動が襲ったことで慌てて他の1級冒険者達が慌てて模擬戦を止めに来たと言うのに、残念ながらこの2人には全然反省の色は見られなかった。

 そもそも、たぶんこの2人はこの混乱がどれ程周囲に迷惑をかけているのかもほぼ理解していないのだろう。


「てか、エリーは俺より7つ上だったよな? もういい歳した大人なんだから、もう少し常識を弁えて欲しいんだが」


「……失礼な。わたしはちゃんと常識を弁えているからこそ、特級まで上り詰めることができたんだからね」


 一見、エリーは見た目からクールで冷静な大人の女性に見えるが、俺は彼女がマリアンナに負けず劣らずの問題児であり、そして何より強敵との戦闘バトルを好む戦闘狂であることを知っている。

 そもそも、俺が彼女と最初に出会ったのも俺が6つ7つの時で、『幼くしてそこそこの実力がある子供がいる』との噂を聞きつけて決闘を申し込みに押し入ってきたのが最初だったはずだ。


「てか、雑誌とかで顔は見てたが……こうして初めて顔を合わせて直接魔力を感じるまでおまえの正体に気付かなかったのは失敗だったな」


 ハグジーナの町を拠点に活動している特級冒険者はエリーか『黄金』の名で知られるアンドリュー・ゴールデンバークぐらいなので、どちらかが同行すると言うことは事前に予想できていた。

 そのため、もしもエリーの正体に気付いていたのならば相応の準備ができたのだろうが、もはやこうして正体が知られてしまったのであれば既に対策のしようがない。


「……と言うか、『刀神』の正体がおまえだってことは、行方不明の兄であるゼットは……」


「……レオの予想どおり、ゼットの本名はゼクスト・ローゼンクトだよ」


「えっ!? ローゼンクト!!? ちょっと待って! ローゼンクト家のゼクストさんって……まさかエリーさんって、ローゼンクト家の家督争いに敗れたあと、行方不明になったって言うエミリアス・ローゼンクトさんなの!?」


 せっかくエリーの正体がバレないようにぼかして話していたのに、肝心の彼女が口を滑らせた事で呆気なくその正体がマリアンナにバレる。

 だが、エリーは特に気にした様子も無く「……家督争いに敗れたってのは間違い。本当は王国最強の剣士を目指してお兄ちゃんと一緒に家を逃げ出しただけ」と返事を返す。


「そんなにあっさり正体をバラしても大丈夫なのか?」


「? ……だって、レオが知ってるんだから隠しても無駄でしょ? それに、この子がレオの奥さんってことは、マリーの正体ってどこかの商人の娘とか嘘でローゼンクト家と同じ四大貴族の一つであるクロスロード家の『邪眼令嬢』、マリアンナ・ルベル・クロスロードだよね?」


「ええっ! なんで分かったの!?」


 あっさりと正体がバレてしまった事にマリアンナは動揺を見せるが、俺は努めて冷静さを失わないように思考を切替えながら、険しい表情でエリーに問い掛ける。


「もしかして、俺達の居場所をクロスロード家に通報するつもりなのか?」


 正直、俺がマリアンナと姿を消して既に2日が過ぎているため、視察任務中にマリアンナが何者かの襲撃を受けて行方不明だという情報は一般には公開されていないとしても、冒険者組合を始め主要施設には通達が行っているはずだ。

 そのため、職員ではないとしても最高階級の特級冒険者にもそれらの情報は当然ながら共有されているはずだ。


 だが、エリーの回答は俺が予想したものとは大きく掛け離れたものだった。


「……通報? なんで?」


「ちょっと待ってくれ。クロスロード家から冒険者組合に俺達の事で何らかの通知が来てるんじゃ無いのか?」


「…………ううん、キースは別にそんなことは言ってなかったから何も通知は来てないと思う」


(どう言う事だ? あれから2日経っている以上、いくらほとんどマリアンナが公の場にほとんど姿を現さないとしても第三王子の婚約者という立場である以上襲撃の事実と行方不明であることは公表していなければおかしいはずだ。それに、ギルフォード団長がバンダール様に俺の同行を止められていない…それどころか従者の選定を命じられていた上であっさり俺の同行を許可したと言う事は最初から俺がマリアンナの視察に同行することを想定した可能性が高い。そうなると、あの刺客を送り込んできたのが本当にバンダール様ならばあの場でマリアンナだけじゃなく俺のことも一緒に始末しようと考えていた可能性が高い。そうなれば、王宮から余計な詮索を受ける前にさっさと俺達が行方不明である事実を公表して捜索を急ぎそうなもんだが……)


 いろいろと可能性を考えてみても一向に答えが出ることはなかったため、俺はとりあえず目の前に問題に集中するために思考を切替えて再度口を開く。


「それなら良いんだが、一応俺達の正体がバレるのは避けたいから俺はレオンハルト・トロイアド、マリアンナはマリー・トロイアドで、その正体がレン・トワイライトとマリアンナ・ルベル・クロスロードであることは内緒でお願いしたい」


 俺がそう告げるとエリーは少しだけ考える間を置いた後、コクリと肯きながら「……わかった」と返事を返した。


「ボク達も、うっかりエリーさんの正体がローゼンクト家のエミリアスさんだって漏らさないようにしないとね!」


 そうマリアンナが告げるが、正直うっかり口を滑らせるとしたらこいつだけだろうから俺が余計な発言をさせないように注意しておこうと心に誓う。

 だが、そんな俺の誓いをあっさり打ち破るようにエリーは「……別に面倒だから正体をバラしてないだけで、ベル姉もわたしのことをちゃんと把握しているし無理して隠す必要はない」と想定外の答えを返す。


「いやいやいや! 魔力で瞳や髪の色を変えてるんだし、正体を隠そうとしてるから偽名も名乗ってんだろ!?」


「……最初はゼク兄の提案で正体を隠してたけど、結局ゼク兄が行方不明になった直後にベル姉にもバレちゃったから無理して素性を隠す必要は無くなっちゃったんだよね。ただ、ゼク兄がいない状態で正体がバレると周りへの対応とかいろいろと面倒臭いから今も正体を隠してるただけで、同じ立場のレオやマリーがいればもしバレてもどうにかしてくれるだろうから、責任さえとってもらえば別にそこまで必死になる必要は無いかな。それに、瞳の色と髪の色は確かに最初は変装のためだったけど、今は単純にこの色が気に入ったからファッションで変えてるだけだし」


 想定外の答えに俺が言葉を失っているとエリーは俺の目を真っ直ぐに見つめた後にその視線を少しだけ上にずらしながら「それに――」と言葉を続けようとしたが、直感で俺にとって都合が悪い情報を話そうとしていると感じた俺はすぐさま「ちょっと待て!」とその言葉を遮る。


俺は・・本気で正体を隠してるんだから、余計な事は口にするなよ」


「えっ? ……でも――」


「い・い・な!」


 会話の流れがよく分かっていない感じでキョトンとした表情を浮かべるマリアンナに視線を向けながら余計な事を口にしようとするエリーに俺はそう圧をかける。


「…………わかった」


 そして、それだけで俺の言いたい事をなんとなく察してくれたのかエリーはそう返事を返し、そのままこの会話を終わらせ「……それじゃあこれからは任務についての説明をしとこうか」と話題を変えてくれた。


 それから俺達は『竜の塒』に辿り着いた後の方針として、新人冒険者である俺達2人を特級冒険者で今回の捜索隊でリーダーを務めるエリーが指導者として常に同行すること、広大な対象地のどこら辺を俺達が担当することになるのか、そして他のチームがどこを探索するかなどの説明を受けながら『竜の塒』に辿り着くまでの道中を過ごすのだった。

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