第7話 閃光
「凄い凄い! まさか、父上がここまで本格的な刺客を用意しているなんて!」
包囲網を力尽くで突破し、マリアンナは全力で走る俺に並んで走りながら瞳をキラキラさせて興奮気味にそう告げる。
「油断するなよ! 遠距離からの狙撃があったってことは、敵に刺客はあれで全部じゃねえからな!」
「大丈夫! あの程度の攻撃だったらどうとでも――」
マリアンナがそう言葉にした瞬間、咄嗟に俺はマリアンナの体に蹴りを入れて吹き飛ばすが、少し遅かったのかその弾丸が僅かに彼女の額を掠り鮮血が宙に舞う。
そして、すぐさま俺は銃声が聞こえた方向とマリアンナの間を遮るように移動し、再び放たれた弾丸を魔弾で吹き飛ばしながら軽く舌打ちと共に背後のマリアンナに声をかける。
「大丈夫か!?」
「いたた……正直、弾丸が掠ったところよりレンに蹴られたとこの方が痛いんだけど!?」
とりあえず無事なようなので俺は先程の攻撃から敵の戦力について思考を向けることにする。
(実弾タイプの遠距離狙撃用の魔銃で、次弾が放たれるまでにそこまで間隔が無かった事から2人は少なくとも狙撃手がいるな。銃声から考えるとそこまで離れた位置にはいないんだろうが……俺1人でマリアンナを守りながらこいつらを無視して狙撃手の対象不可能、だな)
そう考えながら視線を向けた先には、先程俺達を取り囲んだ刺客と同じ仮面、黒装束の追っ手が3人ほど姿を見せていた。
「レン! 今こそボクにバルムンクを!」
キラキラと表情を輝かせながらそう告げるマリアンナに、俺は一瞬マリアンナに戦ってもらう案が浮かびはしたものの一瞬でその案を破棄する。
(ここでマリアンナが暴れ出したら間違いなく収拾がつかなくなるな。そうなると、狙撃手からの攻撃には完全に対応できなくなるし、下手すると俺1人で戦うより時間が掛る、か……)
そう判断した俺は、即座に「却下だ! こいつらは俺が秒で片付けるから、その間おまえは狙撃にだけ注意して下がっててくれ!」と返事を返し、抗議の声を上げようとしているマリアンナを無視して足に魔力を集中し、瞬きの間に近くにいた刺客の1人に接近する。
「なっ!!? こいつ――」
刺客が戸惑いの声を上げながら身構える間に、俺は両手に構えた小型の魔銃を交互に連射してその体を吹き飛ばす。
そして、他の2人がこちらに攻撃を仕掛ける前に2人内動きが若干鈍かった方の側面に回り込み、魔力を調整して威力を上げた魔弾を二発同時に脇腹に叩き込んで吹き飛ばした。
俺が使っている魔銃は少し特殊で、魔弾の飛距離がそこまで無いのと魔力の属性を切替えられない変わりに、連射性能が高く込める魔力量によってその威力を調整することができる。
なので、最初の相手のように魔術対抗力が高い相手には手数でせめ、次の相手のように魔術対抗力が低い相手には多少威力を上げた魔弾で一気に制圧する、と言った感じで戦い方を変えることができるのだ。
因みに、本来体内で生成される魔力は全てが体外に放出されているわけで無く、一定の魔力は意識せずとも肉体を強化するために肉体に吸収されていている。
そして吸収された魔力はマナと呼ばれる物質に変換され、肉体に含まれるマナの濃度によって魔力を用いた攻撃に耐性ができるのだが、自身の魔力をぶつけてその反応から肉体に含まれるマナの濃度、つまりは魔術対抗力をおおよそ測る事ができるのだ。
(あと一人!)
そして、すぐさま俺は最後の一人を片付けようと一歩踏み出し掛けた時、三度響いた銃声に足を止めて咄嗟に一歩下がる。
すると、今まで俺が立っていた位置と今当に移動しようとしていた地点に一発ずつ弾丸が撃ち込まれた。
(チッ! やっぱ腕が良い狙撃手を後衛に置いてやがるな!)
心の中でそう舌打ちをしながら、俺は即座に2丁の魔銃を腰のホルスターに収納すると、腰の辺りに下げていた武器ポーチから魔弓を取り出す。
そして、魔力によって作り出した光の矢をつがえて弦を引き絞ると、眩い輝きを放つ光の矢を狙撃手がいるであろう場所目掛けて放った。
次の瞬間、閃光が煌めいたと同時に一瞬全ての音が止み、狙撃手がいたと思われる場所から光の柱が天へ昇ると同時に森の中を爆風が駆け巡る。
「ちょっと! そんな大技使って味方を巻き込んだらどうするの!?」
「心配すんな! 魔力探知で味方がいない事は確認した上で撃った!」
少し離れた位置からそう声をかけるマリアンナに俺はそう返事を返しながら、最後に残った一人をさっさと無力化してしまおうと視線を向け、もはや俺とまともにやり合っても時間の無駄だと判断したのか捨て身の特攻でマリアンナに向かっている事に気付く。
「無駄な――」
「手出し無用だよ!」
咄嗟にマリアンナを守ろうと動こうとした俺は、マリアンナがそう声を張り上げたせいで思わず一瞬動きを止めてしまう。
そしてその一瞬の遅れが致命的な遅れとなり、刺客が振り下ろす剣は得意気な表情を浮かべて無防備に腕を組んだままのマリアンナの首元目掛けて振り下ろされ――
「……は?」
ブレードの9割ほどを失った剣はマリアンナの首まで届かず虚しく空を切り、状況が理解できない刺客は驚愕の表情を浮かべながら一言それだけ漏らし――
「だから、おまえは護衛対象らしく大人しくしてろ!」
そうマリアンナを叱りつけながら放った俺の回し蹴りをモロに首へ受けそのまま吹き飛んで気を失う。
「ねえ、どうだった!? 今のはなかなか良く決まってたよね!?」
興奮気味にそう問い掛けるマリアンナに俺は「良く決まってたよね? じゃねえよ! 良いか? 一応俺がおまえを狙ってた狙撃手を排除したが、他に狙ってるヤツがいないとは限らない状況であんな無防備な姿を曝せば万が一もあり得るだろ!」とこを荒げる。
「大丈夫だよ。あの程度ならどうにでも――」
「じゃあ、俺の『閃光』のような切り札が敵にあった場合でも同じ事が言えるか?」
「……」
「おまえ、敵の正体や規模が全く分からないに、これで敵の戦力が全てだなんて楽観視してないよな?」
俺の問いに、マリアンナは視線を逸らしながら「でも、ほら……父上が一日で用意した刺客だったら、そこまで凄い相手がいるとは……」と尻すぼみになりながら言訳の言葉を口にする。
「はぁ。良いか? ギルフォード団長もこの襲撃で動揺していたと言う事は、この襲撃は騎士団にも知らされていなかったものの可能性が高い。そうなると、これはバンダール様が計画していた襲撃とは別口の可能性もあるし、バンダール様が送り込んだ刺客だとしても騎士団にすら内密にする必要があるような危険な組織って可能性もあるんだぞ」
そう告げる俺にマリアンナは言葉を返さない。
だが、彼女の表情から大体何を考えているかは予測できる。
(こいつ、『やっぱり父上は四大貴族として闇の組織と繋がりがあったんだ!』とか考えてワクワクしてやがるな。……ダメだ、やっぱりこんな状態のこいつを戦闘に参加させると余計な事をしでかす可能性があるから、このまま戦闘に参加させないままここを離脱しないと)
そう判断した俺は、内心(武器を没収してたのは正解だったな)と安堵しながら、今後どう動くか思考を巡らす。
だが、まともな思考が頭に浮かぶ前にマリアンナが言葉を発したことで一旦思考を切らざる得なくなる。
「こう言う時って必ず敵の中にずば抜けた実力者が1人はいたりするよね! そしてきっとそいつが今回の襲撃を指揮するリーダーだから、それを倒したら『〇〇様がやられただと!? クッ、一旦引くぞ!』って全員撤退を余儀なくされるのがセオリーだよね!」
「……バカな事言ってないで、真面目にどこへ逃げるかを考えろ」
「バッ!? 失礼な、ボクはこれでも真面目に言ってるのに!」
「あー、はいはい」
俺はそうテキトウに返事を返しながら(ギルフォード様の言葉を信じるのならロンジアナの町にはクロスロード領騎士団の別働隊がいるらしいが……)などと考えていると、マリアンナは「それに、どこに逃げるかなんて決まってるじゃん」と当然とばかりに告げる。
「ん?」
「王国一の冒険者になるためには、国内最大の冒険者組合事務所があるハルジー領のハグジーナの町へ向かうしか無いでしょ! そして、華々しいデビューを飾るために『竜の塒』で火竜を倒すんだから!」
始めて聞くプランに俺は瞬時に反論の言葉を口にしようとしたが、こうやって興奮状態で夢を語るマリアンナには何を言っても無駄だと知っている俺はそのまま口閉じて思考を巡らせる。
(確かに、ここでハルジー領に逃げ込むのは1つの手ではあるな。ハルジー領内に入ってしまえばギルフォード団長始めクロスロード領騎士団は追って来られないだろうし、刺客達がハルジー領に関する人物だったらクロスロード領騎士団が介入する口実を与えないために一旦は追撃の手を止めるだろうし、関係無ければ領境の警備を行っているハルジー領騎士団が味方に付いてくれる可能性があるな。あとは俺達が問題無く関所を通過できるか、だが……まあ、バカ正直に関所を通らずとも俺とマリアンナの2人だけならハルジー領への潜入もそこまで難しい事じゃ無いか)
そう判断した俺は、マリアンナが『敵のボスを探しにこちらから打って出る!』なんてことを言い出す前に「そうと決まればさっさとハルジー領目指して出発するぞ! さっきに一撃を見て騎士団も刺客もこちらに向かって来てるだろうからな」と告げ、何か言いたげなマリアンナが言葉を発する暇も無いように手を引いて再び森の中を駆けていくのだった。
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