第7話 決意
気分が惨めなだけではなかった。
試験の結果は想像以上に悲惨だった。
瑠音はその警告を受け、お母さんとといっしょに呼び出された。
お母さんは、次から次へと瑠音を罵倒することばを繰り出した。
「お母さんの仕事で勉強できなかったんじゃない」
と言っても、
「ふだんから勉強してないからでしょ? 生徒会だか何だか知らないけど、学校から帰ってくるのもいつも遅いし、何やってるんだか」
といやみを言われるだけだった。
ふだんから勉強していない、じゃなくて!
ふだんからお母さんの仕事をしているから、勉強できないんじゃないか。
お母さんにその思いをぶつけてもはね返される。お父さんは一二月は仕事が忙しくて夜遅くにしか帰って来ない。
だから、聴いてくれそうな相手は、やっぱり成美しかいなかった。
瑠音は、帰りに成美といっしょになって、成美にその思いをぶつけた。
でも、成美の反応は冷たかった。
「だから、自分の勉強を優先しな、って言ったじゃない?」
「けっきょくお母さんの言いなりになって、そのお母さんに怒られたわけでしょ? だったら最初から自分の都合を
瑠音がいろいろ言っても、事情を説明しても、成美の反応は変わらなかった。そして、とうとう、成美は言った。
「自分で選んで起こったことの結果なんだから、それは自分で引き受けな! それができないような子は、わたしは嫌いだよ」
「嫌いだよ」!
瑠音は、立ち止まった。
声も出ない。
成美は、瑠音がそうなったのに気づいていたはずだ。
けれども、成美は、瑠音のほうを振り向くこともせず、さっさと行ってしまった。
学校からの帰りの時間はもう暗い。高校の紺色の冬制服はその闇にまぎれて、もう前を行く成美の後ろ姿が見分けられない。
道のまんなかに立ちつくす瑠音……。
「おっと危ない」
瑠音のすぐ後ろでだれかの声がした。
声の主はそのまま瑠音を追い抜いて行った。
あの髪の軽やかな弾みかた。
服の後ろ身頃の下で躍動する肩の骨。
そして。
スカートから突き出した、ベージュのタイツを
忘れるはずもない!
恒子さん。
恒子さんの隣には、相談ごとを持ち込めば何でも解決してくれると評判の、細い銀フレーム眼鏡をかけた生徒会の清楚少女!
瑠音は下っ端。
瑠音はどうでもいい子。
いや。それ以前に。
恒子さんには記憶されてさえいない、いないも同然の子。
たぶん、いないも同然の、肌ざらざらのきたない子。
痛い。
首の後ろのつけ根のあたりをはさみでじゃくじゃくと切られているように、痛い。
そのときだった。
成美を殺そう、という決意が生まれたのは。
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