第6話 惨め

 今度の期末試験のときも成美なるみ瑠音るねを試験勉強に誘ってくれた。

 瑠音はことわった。「お母さんの手伝いで、それどころではない」という理由をつけた。

 事実だ。

 お母さんの前の小説が半年以上遅れたために、次の小説の執筆が進んでいなかった。

 お母さんは新しい小説も遅らせることができると思っていたらしい。しかし、出版社からは

「どうしても年内には完成原稿をいただきます」

と言われてしまった。

 お母さんは原稿を書くだけで手いっぱいだ。資料調べはぜんぶ瑠音の仕事になった。瑠音は、毎日、図書館に通って、お母さんに言われた資料を探し、コピーした。お母さんが言った資料と違うものをコピーして来て

「高校生にもなって、何をやっているのやら」

といやみを言われるのも毎日のことだった。お母さんがご飯を作っているひまはないので、瑠音が作る。うまくできないと

「どうして高校生にもなってこの程度のことができないの?」

と怒られる。

 惨めだった。

 あの日から、成美とは距離を取るようにしていたけど、その日はどうしてもだれかにその話を聞いてもらいたくて、成美にその話をした。

 学校の終礼が終わったあと、もう薄暗い時間だった。廊下は白色の明かりでまばゆく照らされていた。

 話を聞いた成美は、ため息をついて

「瑠音がいいならそれでもいいけど、瑠音は高校生なんだからさ。少なくとも自分の勉強を最優先すべきだよ」

と言った。

 できるならば、とっくにしている。

 家でのお母さんと自分の関係も知らないで、よくそんな他人ごとのような言いかたができる、と、瑠音は怒りを感じた。

 せっかく、許せないと思っていた成美を呼び止めて話をしてやったのに!

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