第5話 裏切り
しかし、そうではなかった。
それがわかったのは、今年の秋、お母さんが新作小説を発表し、その記念の会が開かれたその日だった。
記念の会は
お母さんは娘だからと特別扱いはしてくれない。
成美の家は箕部の家のすぐ近くのマンションだから、それはふしぎではない。成美は、瑠音がスタッフをしているのを知っていて、来てくれたのだ。
うれしかった。
ところが、そのとき、成美は言った。
このパールトンホテルの上の階にも、
そして、
つまり、恒子さんに
しかも、それを知っているということは!
成美もそこに呼ばれたことがあるのだ。
しかし、瑠音は、そんな部屋の存在なんか教えてすらもらえなかった。
下っ端。
恒子さんにとっての瑠音は下っ端!
どうでもいい子。
恒子さんにとっての瑠音はどうでもいい子!
しかし、成美はそうではない。
成美は恒子さんにとってたいせつな子。選りすぐったたいせつな子。
落差!
小さくて、肌もざらざらで、勉強もできない瑠音には絶対逆転できない落差!
今度こそ、裏切られた、と思った。
いや、成美は裏切ってはいない。最初から、成美が「上」にいることはわかっていた。だいたい、瑠音を恒子さんのところに導いたのは成美だったのだ。勝てるはずがない。
でも。
「裏切られた」という思いは、どうにもならなかった。
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