第4話 恒子さん

 成美なるみは、さらに、瑠音るねを生徒会委員に誘ってくれた。

 瑠音は、その生徒会で向坂さきさか恒子つねこさんに気に入られた。

 恒子さんは生徒会のどのメンバーとくらべても美人だ。髪が茶色っぽくて、肌は白い。でも、完全に白いわけではなくて、何でも溶かし込んでしまうクリームのような色だ。茶色くて大きな瞳はたっぷりの好奇心をたたえて世のなかを見ている。少しはにかんだ表情は何でも受け入れてくれる優しさであふれている。

 その恒子さんは生徒会役員みんなのあこがれの的だ。

 あるとき、瑠音はその恒子さんに、「うめ大沢おおさわの別荘」というところに呼び出された。恒子さんは、この地方の大きな会社を経営している家族の一人娘ということで、その別荘を自由に使っていいらしい。

 最初は生徒会の何かだろうと思った。もしかすると、瑠音は大きな失敗をしていて、瑠音自身はそれに気がついていなくて、呼び出されて怒られるのではないか。そんな心配までした。

 だから、成美に相談すると

「いやいや。楽しいことをするために呼ばれたんだよ。だから楽しんでおいで」

とそっけなく言われた。その「楽しいこと」という表現に、何とはないひっかかりは感じたのだけど。

 そして、その梅大沢の別荘に行くと。恒子さんは、いろいろな珍しい飲み物とお菓子を出してくれたあと、瑠音をパジャマに着替えさせてベッドに誘った。

 恒子さんは瑠音の体のあちこちを「お触り」した。

 瑠音も恒子さんの体のあちこちを「お触り」させてもらった。

 その一部始終は高性能の録画機器と録音機器で録画されていた!

 はめられた、と思って惨めな気もちになった。

 しかもそのすべてを成美は見通していた。

 成美は、恒子さんが同じように「お触り」をしたりされたりをしている相手は一人ではないと言った。成美も恒子さんと同じことをしているのは、そのときのしゃべりかたでわかった。

 最初は、裏切られた、と思った。

 しかしその気もちはすぐに逆転した。

 恒子さんが撮って、送ってくれた動画を見ると、手のひらに、腕に、胸に、おなかに、ふとももに、恒子さんの肌触りがよみがえる。

 恒子さんの息づかいまでがよみがえり、自分の息づかいがそれに同期する。

 それに。

 瑠音一人でないのなら、かえって気が楽だ。

 瑠音は、その恒子さんとの「お遊び」を自分から求めるようになり、楽しみにするようになり、いつしか、恒子さんからのお誘いが次いつ来るかとがれるようにまでなった。

 ほかに何人もが恒子さん同じことをしていても、瑠音は、一番とは言わないまでも、いいところまで行っている、と思っていた。

 確実に上にいるのは成美だけ。

 でも、成美は許そう。

 成美は親友だし、成美がいなければ、瑠音はこんなに恒子さんに気に入られることはなかったのだから。

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