第2話 岩瀬成美
「友人」と形式張ったことばで言うのもためらってしまうくらいの友だちだ。
一年生のときに同じクラスだった。
最初のころ、
背の高い、色白の美人だ。ベリーショートの髪が頭の後ろでぴんとはね返っている。低めの声で、そのとき言わなければいけないことを短く鋭く言う。
怖くて近寄れなかった。
瑠音はその成美と数学の授業でペアを組まされた。難しい問題を二人の生徒で協力して解くという授業だった。
瑠音は悲鳴を上げそうになった。実際に悲鳴を上げなかったのは、それが成美に聞こえたら、という恐怖心から。それ以外の理由はなかった。
何も考えないと成美に怒られる。
成美がもし「ふん!」と言ったとしたら。
いや、ただ成美が黙ってしまったとしても、それは瑠音の心臓に突き刺さるだろう。鋭い
そんなことにならないように、瑠音はけんめいに考えた。
問題を解く方法をいくつも考えて、成美に、こういうのを考えたけど、どう思う、と言い続けた。
その全部が却下された。まちがっていたり、ただの回り道だったりだったからだ。成美は、一つずつ、瑠音の案のどこがダメかを説明してくれた。そして、成美が、二人で話している途中に
「ちょっと待って。これで解けるんじゃない?」
と言ってさささささっとノートに書いた解法が二人の答えになった。
それを成美と瑠音で分担して発表して、ベストの答えだと先生に
教室の前に立たされて、成美といっしょに教室中からの拍手を受けてお
成美は堂々とお辞儀をした。
瑠音は、耳たぶの上のほうから頭の横側が熱くなり、髪の毛の下からは汗が噴き出していた。その熱くなっているところから下の顔の感覚はまったくなかった。だから、そのときのクラスメイトがどう反応したか覚えていない。たぶん、何も見えていなかった。
そのとき、成美は
「よかったね」
と言って、向かい合って立って、背の低い瑠音の肩の下、腕のつけ根を両側から
その大きい手で、ぽん、ぽんと。
そこから温かさがじんわりひろがった。熱くて動かなくなっていた体が動き出した。
いままでよりもずっと豊かに体に血がめぐっている。そんな感じだった。
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