第18話 余命宣告

「それではお母様、息子さんをお借りしていきますね。無理はさせませんので」


「ええ、もう、どこなりと連れて行ってください。なんならそのまま引き取ってもらっても……」


 おいおい、こらこら母親。実の息子を初めて会った人に差し上げようとするんじゃないよ。


「大丈夫です、夜までにはお返ししますので~」


 そう言うとカヌカリは「じゃあ、みんな、チャオ~☆」と、まるで自分の配信かのようにオレの配信を切ると、強引にオレを車に乗せた。


 ガヤガヤガヤ……。


 周囲の道には「カヌカリがいるらしいぞ」と、一目見ようとする近所の人達が集まってきている。

 こんな朝方の田舎の住宅街ですら、この知名度。

 さすがはカヌカリ、日本一の配信者なだけのことはある。


「はぁ~い、みんな~? どかないと死んじゃうわよ~?」


 ドゥルルルン……!


 ドゥン──ブルォォォォオ!


「ちょ、あぶ、あぶっ……!」


 急発進。

 道を塞ぐ人混みに思いっきり突っ込んでいくカヌカリカー。

 オレは座席からずり落ちそうになり、あわててシートベルトを掴む。


「あはは、ごめんねぇ~? この車、今日買ったばかりだから慣れてなくてぇ~」


「え、今日買った?」


 カチャカチャとシートベルトを差し込みながら聞き返す。


「ええ、エクストレイル オーテックe-4ORCE アドバンズドパッケージ。ネットで調べて一番振動が少ないっぽかったのが、これなの。あなたのために買ったのよ? あなたの中に入ってる人に影響しないように」


「は? オレのため?」


「そう、私、使うべきものにはお金を惜しまない性質たちなの」


「使うべきもの? まさかオレが?」


「そうよ。まだ気づいてないの? あなたはもう日本どころか世界の有名人なのよ?」


「いやいや、そんな……。ただちょっとネットでバズっただけでしょ? 10chもちょっと荒れてる程度のもので……」


 グォン──!


「うぉっ──!」


 急にスピードが上がる。


。これがどういうことか、本当にわかってる?」  


「え? いや、まぁ、ちょっと変だなぁ~くらいには。オレ、元々体弱かったし……」


「そこっ! そこなのよ。あなたは元々体が弱かった。そういったあなたの個人情報はもうネットに出回ってるわ」


「え、マジすか!?」


「それはいいの」


「いや、よくな……」


「発熱、全身倦怠感、易疲労感、食欲不振、関節炎、頬に出来る赤い発疹。あなたの症状よね?」


「え……あ、はい」


「その症状に心当たりがあるの。私たちは、それを調べに今向かってるところ」


「ということは、今から行くのは……」


「そう。──病院よ」


 車がさらに一段スピードを上げる。

 窓の外に目をやると、日を反射した海がキラキラと輝きながら流れていった。



 埋立地に立てられた大病院に着くと、医者や看護師の大群に出迎えられ、ノータイムで検査室へと案内された。

 流れるように次々と行われていく最新医療機器による検査。

 オレは、今までにも一応検査は受けていた。

 だが、それはあくまで町医者と、その知り合いの古い機材の大学病院で、だ。

 こんなCTスキャンみたいなのは受けていない。

 受診料が気がかりだったが、それはカヌカリが立て替えてくれるらしい。

 う~ん、それはそれで助かるけど、知らない人にお金出してもらうのもなぁ。

 でも、自分の体のことを知っておきたいって気持ちもある。

 それに、どうせこの調子で配信していけば、立て替えてもらった受診料も返せるだろうと思って黙って従っておくことにした。


 そして診察を受け続けること、数時間。

 どうやら、お昼前には全ての検査が終わったようだった。


 検診衣から元の寝巻き姿に着替え終わると、カヌカリが神妙な面持ちで部屋に入ってきた。


「あ、カヌカリさん。帰りって送ってってくれるんですよね? オレ、お金持ってきてないんで……」


「……いい? 今から言うことを落ち着いて聞いて」


「はい?」


 配信でもプライベートでも破天荒なわがままマイペースお姉さんのカヌカリ。

 そんな彼女がうつむき、何かを少し言い淀むとキッとした表情で顔をあげ、震えた声でこう告げた。


「あなた──このままだと、あと一ヶ月半で死ぬわ」

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