第19話 ダンジョン制覇=完治!?
「全身性エリテマトーデス。通称SLE。指定難病49の原因不明の自己免疫疾患」
「それがヨルの病気ってわけ?」
オレの体内。
3Dプリンターで建てられたばかりの新築ほやほやの家に、カヌカリ、恋島ウサ、ミカ、オレの母・平子の四人が集まって話している。
四人は家と一緒に3Dプリンターで作られた白いテーブルを囲み、母の持ってきたミカンを緊迫感もなく剥いている。
そしてオレは……。
体内で行われているみんなの会議に、自室からビデオ通話で参加してた。
「いや、おかしいよね? それ、オレの話なのに
「でもねぇ……3Dプリンターのお家ってのも気になるじゃない? ほら見てヨル、壁なんかもきれいなものよ。最新技術って意外とすごのね。あら、やだ! 意外と、だなんて言っちゃ失礼ね、おほほほ! それにほら、カヌハラさんも車に乗せてくれるって言うじゃない? お母さんも、こんな高そうな車に乗ってみたかったもの。ほら、うち車ないから」
「いや、でもさぁ……『息子の中に車で入る母親』っておかしくない?」
母親を押しのけ、ミカが口を挟んでくる。
「ちょっとヨル、今関係ない話やめてくれない? こっちは真剣な話してるんだから」
「いや、その話に一番関係あるのオレじゃない? しかもさぁ……お前、とうとうオレの中に自転車で入ってくるようになったよね?」
そう。
昨日オレたちが死闘を繰り広げた第一層のボス広場には、今や一軒家が建ち、車とチャリンコがその前に停められている。
なにこれ?
なんかオレの体の中、どんどん文明化されていってるんだけど?
「仕方がないじゃない! ちょうど帰ってきてたら、あんたがカヌカリさんと一緒ん車から下りてきてたんだから! っていうか! 私、今日学校で散々騒がれて大変だったんだからね!」
「それこそ関係ねぇぇぇぇじゃねぇか!」
「はぁ!? 誰のせいでこんなことに巻き込まれてると思ってんの!?」
「は? オレのせい? オレのせいだっつーの? ふざけんなよ、お前が勝手に巻き込まれてきてるだけじゃ……」
パン、パン、パン!
「はいはい、そこまで! 痴話喧嘩は後にしてもらってもいいかな?」
「は? 別に痴話喧嘩じゃ……」
「あのっ!」
今度はウサ。
なんなの今度は……次から次に……。
マジで話が進まないんだけど……。
「ヨルさんとミカさんは、お付き合いされてるんですかっ!?」
「は……はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
顔を真っ赤にしたミカの叫び声。
「な、なに……? ウサ、急に? そんなことよりもさぁ……」
「そんなこと、なんかじゃありません!」
えぇ~……?
「ボク……ボクにとっては、大事な話……なんです」
なぜか、過集中時のボクモードが発動してるウサ。
「ヨル、いいからちゃんと答えて上げなさい」
母親、平子が珍しく真剣な顔を見せる。
えぇ……? なになに……? なんでそんなシリアスな感じで……?
あ、もしかして今後、人間関係を構築していくうえで先にオレたちの関係性をハッキリ把握しておきたいみたいなことか……?
なるほど……。ま、事前に準備して計画を立てていくタイプのウサらしい質問っちゃウサらしい質問か。
腑に落ちたオレはサラッと答える。
「え? ああ、別に付き合ってなんかないよ。ただの友達。一緒にウサの家に行ったのだってほとんどたまたまだし、そもそも二人で出歩くのなんて数年ぶりだったし。なぁ、ミカ?」
ミカは、ズゥ~ン……とした表情で「そ、そうね……」と小さく答えたきり、下を向いて黙り込んでしまった。
対象的に、ウサの顔はパァっと明るく輝いている。
「わかりました! では、お話の続きを!」
「うむ、続けるぞ」
カヌカリは、何事もなかったかのように話を続ける。
「簡単に言うと、SLEは免疫に異常を引き起こす病気で、それが体の中を転々と移動するのが特徴だ。だから常時いろんな部分の体調が悪くなるし、原因も突き止めにくい」
「へ~、だから今まで病名を特定できなかったのか」
「そう、そして。キミの外見には症状が出てなさすぎる。本来であれば脱毛、視力低下、肌の炎症などの症状が出ているはずなのだが、それがほとんど見られない。頬に出来る発疹、
「でも、どうしてお医者さんでも気づかなかったヨルさんの病気にカヌカリさんは気づいたんですか?」
「それは……」
カヌカリは、平子が家から持ってきた百均の湯呑を両手でギュッと握りしめる。
「私の弟が──同じ病気なのだ」
『えぇ!?』
「あらあら、弟さんおいくつなの?」
「二十二です。私の五つ下で……八年前からこの病気を発症しました。それで私はSLEについて独学で調べ続けていたんです。この……今、私がやっている『過激系配信者』というのも、実は弟の医療費と治療方法を探すためで……」
「そうなのね。あなた、まだお若いのに弟さんのために頑張っていらしたのね」
母が、俯くカヌカリの手を握る。
「よかったら……ヨルのことについて、もっと詳しく教えてくれるかしら?」
「ええ、息子さんの体を調べたところ、すでに全身の免疫が完全に破壊されかけてまして、このままでは一ヶ月半後には死に至るとの診断がくだりました」
「一ヶ月半──!」
「…………!」
ミカが声を上げる。
いつもはおちゃらけてる母の手も、心なしか小さく震えているように見える。
「でも、ひとつだけ不思議な点がありまして……」
「……なに? 聞かせて」
「息子さんの、足──正確には両足のつま先から
「足、だけが病気になってないってこと……?」
「ええ。けど、免疫に異常があった形跡は見られました」
「つまり……?」
「急速に回復したんです。ここ一日で」
「一日で回復……? それに、足……? ……! それってもしかして……」
「ええ、そうです」
カヌカリは、画面越しに確信を持った目でオレを見つめてくる。
「昨日、第一層のフロアボスが倒されたのと同時期に回復した──ということです」
「──!」
ガタッ!
一同が立ち上がる。
「じゃ……じゃあ、もしっ! もしダンジョンのボスを全部倒したら、ヨルの病気は全部回復するってこと!?」
「……その可能性はあります」
カヌカリは、握られていた母・平子の手を優しく握り返す。
「そして、私はそれを目指すつもりです。それが、私の弟ユウキの体を治す助けになるかもしれないのですから」
「ありがとう……ありがとう……」
母は、カヌカリの手を強く握ると、小さな声で何度も何度もそう繰り返した。
「しかしフロアボスは手強い。そして、ヨルくんには時間があまり残されていない。そこで、私は第一層のボスを倒したキミたちの力を借りたいと思ってる。どうだろうか。よければ私と一緒に、このダンジョンの踏破を目指してほしい」
立ち上がり、深々と頭を下げるカヌカリ。
「ボクは……再び日本一のVTuberになることを目指してる。そしてボクのことを否定してきた奴らを見返してやるという目標がある。それに……」
ウサは、チラリと通話の画面越しにこちらを見つめる。
「それに、ヨルさんはボクの大事な古参リスナーだからね。ほっとけるわけなんてない。助けるよ、キミはボクが! あ、ちゃんと配信はさせてもらうけどね~」
ウサ……。
オレみたいな一介のリスナー風情のことをそんなに気にかけてくれるとは……なんていい子なんだ!
まさに天使! この世で最も推し甲斐のあるリアル天使だよ!
「わ、私もヨルには元の元気なヨルに戻って欲しいから手伝うよっ! えっと、あの……一ヶ月半? つまり夏休みが終わるまでってことよね!? よし、決めた! 私もここに泊まり込んで夏休み中にダンジョンクリアー! それで二学期からは一緒に学校に通う! いいわね、ヨルっ!」
ミカ……。
お前もただの幼馴染ってだけなのに、ほんとおせっかい焼きすぎるよ……。
でも、ありがとう。オレ、すげ~うれしい。
「二人ともありがとね、うちの息子のために。カヌハラさんもありがとう。病気のことまで調べてもらった上に、治療にまで参加していただくなんて。もうあなたたちには頭が上がらないわ。私たち両親に出来ることがあったらなんでも言ってちょうだい。今まで……息子の体をよくしてあげられなかった私たちを許してね、ヨル……」
泣き崩れながら三人に向かって土下座しようとする母を、カヌカリたちが抱きとめて止める。
「ちょ、お母さん、やめてください。私たちにもそれぞれ理由があってやるわけですから。大丈夫です。ちゃんと配信してガッポリお金は儲けさせてもらいますから」
「そう? じゃあ頼むわね、ちゃんとお金稼いでね? あ、そうそう、ミカちゃんもチャンネル開設したら? しっかりうちの息子を使って荒稼ぎしてちょうだい」
「そのことなんですがお母さん、お話が……」
それから、なんか熱い絆で結ばれたっぽいカヌカリ、ウサ、ミカ、母の四人は、熱く今後の事務所経営について話しだした。
うん、当事者のオレはわりと蚊帳の外みたいな感じで……。
え、オレ、余命一ヶ月半なんだよね?
ダンジョンを踏破してもらわなきゃ死ぬんだよね?
う~ん、我が事ながら結果を他人任せにするしかないこの状況……一体オレは、これからどうなってしまうんでしょうか……?
【ヨル一行の今後のスケジュール】
7月10日(月)今日。病気が判明
7月15日(土)週末
7月16日(日)週末
7月17日(月)祝日・海の日
7月21日(金)終業式
7月22日(土)夏休み開始
8月31日(木)デッドライン
【現在踏破フロア 第一階層】
【残りのタイムリミット 五十三日】
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