第15話 我が家に来たよ、女子二人
あの恋島ウサの親フラ配信の後。
ウサは配信を切ってオレに電話をかけてきた。
「机の上のノートパソコンとカメラを持って、早く家から出てください!」
その場から一刻も早く離れたかったオレは、つい言われたとおりに動いてしまう。
外に出ると、表には黒塗りのタクシーが止まっていた。
この一瞬のうちにウサがタクシーアプリで手配したらしい。
タクシーに乗り込み、とりあえず一旦オレの家へと向かうこととなった。
体内にミカとウサの二人を入れたまま。
「揺れてない? 大丈夫?」
「揺れてるけど、これくらいなら大丈夫」
チャットで会話を交わすも、それ以上言葉が続かない。
(う……気まずい……)
そりゃそうだ。
初めて行った女の子の家で親に見つかって、親子喧嘩からの家出までを目撃しちゃったんだ。
初対面の相手に踏み込んだことも聞けないし……。
「お客さん」
タクシーの運転手さんが話しかけてくる。
「やっぱ若い人は配信とか見たりします? ほら、今話題のダンジョンとか」
えっ!?
「あ、いや、まぁ、たまに……」
今はあんまりダンジョンのこととか考えたくない。
「いやね、私さっきまで見てたんですよ、配信」
「はぁ……」
嫌な予感。
「知ってます? 体内にダンジョンが出来た男」
やっぱりいいいいいいいいい!
オレええええええええ! それ、オレなんですううううううう!
「あ、いや、昨日からちょっと忙しくて見れてなくて……あはは……」
「あれ? 昨日見つかったって言いましたっけ? そのダンジョン」
あ、ヤバ。
「え、あ、そうなんですか? いやぁ~、奇遇ですねぇ、あははは……」
「あれぇ、なんか怪しいなぁ? もしかして、お客さんがダンジョンだったりしてね! このまま近づくとウオノメから吸い込まれちゃったりとか!」
ぎくっ。
「いや、な、なに言ってるんですか……オオオオ、オレがダンジョンだなんて……。それに何なんですか、そのウオノメって……あはは……」
やべええええええ!
めっちゃ配信見てるじゃん、このおじさん!
オレのウオノメからダンジョンに入れること知れ渡っちゃってるよ、タクシー業界にまで!
「……。ま、ですよねぇ。ウオノメの人は日本一の配信者と日本一のVTuber。この二人に二日間で立て続けで会って、体の中に挿れてるわけですからねぇ」
いれてる、の言い方がなんかキモい。
「そんなオーラないですもんねぇ、お客さんに。いや、それは失礼か。すみません、口が滑りました、あはは」
ガツッ!
「いたっ──!」
親指に激しい痛み。
ピコッ。ミカからのメッセージ。
『なに、このオヤジ!? ヨルをオーラないとかムカつくんだけど!?』
だからって蹴るなよ……。
大体、オレが怒るならわかるけど、お前が怒るのはおかしいだろ。
ピコッ。今度はウサから。
『タクシー会社にクレーム入れときましたんで!』
ええ、キミも!?
え、なんでそんなに怒ってんの、この人たち!?
こわっ……。
ザッ、ザザァ~。
タクシー会社からかかってきた無線。
運転手が応答すると、クレームがあったとめちゃくちゃ怒られていた。
うらめしそうな顔でジトリと見つめてくる運転手。
「あ、なんかすみません……」みたいに心の中で謝りつつ、オレはすっかりと静かになった車内で、ウサの部屋から出る際に見たウサパパのことを思い出していた。
ウサパパ。
一見、そこそこの会社の代表っぽいバリバリのビジネスマン風の
そんな彼が呆然自失気味に「そ、そんな……渚が……私が手塩をかけて育てた娘が、私に口答え……だと……? し、しかも家出……? そんな……信じられん……」と小さくつぶやき、プルプルと震えていた。
あんな状態の大人を見たのは初めてだった。
なんか不気味に感じた。
と同時に、妙に可哀想にも感じられた。
実の娘にあんなこと言われるのって……父親からしたらどうなんだろ。
あとでウチのダメ親父にでも聞いてみようかな。
そんなことを考えてるうちに。
タクシーは、オレの家へと着いた。
ちなみにタクシー代はウサがウェブマネーで支払ってくれていた。あざっす。
「ただいま~」
なるべく体を揺らさないように気をつけながら、そろりと玄関を開けて家に入る。
「わんっ!」
いつものようなアホ元気な声で、柴犬のシバコがお出迎えしてくれる。
「シッ」
指を口に当てる。
あんまり大きい音出すと、体の中に響いちゃうからな。
抜き足差し足、そっと階段を上って二階の我が部屋にたどり着く。
「ふぅ~~~」
ベッドに仰向けになる。
なんだか、半日ぶりに気を抜けた気がする。
電車に乗ってどこか行くだけでもオレにとっては重労働。
しかも今日はミカと一緒に、だ。
うん……でも、不思議と今日はあまり疲れなかったな。
それにしても……懐かしかったな、二人で出歩くの。
ギャルになっちゃってからは全くオレの知らないミカになったと思ってたけど、意外と昔と変わらない部分も多かった。
それからウサ──小手川渚。
まず、美少女すぎ。
清廉潔白すぎ。
夏と白ワンピが似合いすぎ。
でも……チラリと垣間見えた昔の偏執的ボクっ子の感じは、今でもそのままだった。
しかも、配信者としては世界初のフロアボス撃破という偉業を達成。
計算され尽くしたダンジョン攻略も、ボスを倒した一撃も、どちらも見事の一言だった。
きっと、どちらもウサだからこそ出来たことだろう。
そして──ウサパパとの確執。
まぁ、なんだ。
色々ありすぎた。
今日は疲れたよ、マジで。
「わんわんっ!」
シバコが尻尾フリフリかまけてくるので、足で追い払おうとする。
ヌギっ。
靴下をシバコに剥ぎ取られる。
まったく、またそんなもの咥えて~。
と思った、その瞬間。
しゅるるるる……!
ドシンっ!
「わっ! やっと出られた!」
ウオノメからミカが飛び出してきた。
「うおっ! 出るなら出るって言えよ!」
お尻をこっちに向けて四つん這いになってるミカに文句を言う。
「は? チャットしてたじゃん、ちゃんと見てよ」
「え? (チラッ)あ~……」
「あ~……じゃないわよ! 私、今から着替え取りに帰ってくるから!」
「え、着替えって?」
「私とウサちゃんの。今日ここに泊まるでしょ?」
「は? 出られるんなら、ウサをお前の家に……」
スッ。
ミカが人差し指をオレの唇に当てる。
「誰でも事情があるでしょ? 今はそっとしといてあげよ?」
「お、おう……」
ミカはオレの唇をなぞるように指を下ろすと。
「じゃ、じゃあ、後でまた来るから!」
と、くるりと背を向けて部屋から出ていった。
ドタドタドタ……。
足音が遠ざかっていき、階下から母親とミカの話す声が聞こえてくる。
「あらあら、ミカちゃんじゃない! 今日も来てたの?」
「はい! あ、私、今日ヨルの部屋泊まるんで、あとでまた来ますね!」
「まぁ! まぁまぁまぁっ! あらあらっ! ついにっ! あらそうっ! それならお肉焼かなきゃね! いっぱい精つけないと!」
「あ、じゃあ二人分用意しといてもらえると嬉しいです!」
「まぁ~! そんなに!? あらぁ~、ミカちゃんったら! やる気満々なのねっ、もう!」
おいおい……この母親、絶対なにか勘違いしてる……。
にしても、もうすぐご飯か。
その前に、お風呂でも入ってこようかな。
久々に外出て汗かいたし。
トントントン……。
ミカと話してすっかりいつもの調子を取り戻していたオレは、普段と同じように階段を降りて。
ガラッ。
脱衣所の扉を開け。
ポイポイっ。
服を脱いで。
ガララッ。
浴室に入った。
シャワ~~~~~~~。
そしてシャワーを浴びていると。
しゅるるるるる!
ドカッ! バキィ!
「うわぁっ!」
「あつ……あちっ……! ヨルさん、熱いです! って、あっ……!」
ローラーブレードを履いた清純派美少女、恋島ウサが。
シャワ~~~~~~~。
素っ裸のオレの前で。
すっ転んでいた。
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