第10話 女の裏の顔
白いワンピースの上から安全ヘルメット、武者鎧、盾、日本刀、膝当て、肘当て、ローラーブレードを身に着けた
「ちょ……あぶなっ……刀……!」
ガッ!
「あっ……」
ローラーブレードをズルっと滑らせた恋島ウサ。
態勢を立て直そうと手足をバタバタ動かしながら、こっちにツーっと滑ってきて──。
ズボッ!
手に持った日本刀が、オレとミカがもつれ合ってるベッドの脇に突き刺さった。
「ちょ……ちょ~~~~~~っ! こわっ! あぶなっ! し、死ぬかと思ったっ!」
「………………」
普段は威勢のいいミカは、顔面蒼白で押し黙っている。
ああ、そうだった。
ミカっていつも強がってるけど、実は怖がりなんだった。
固まってるミカをベッドに座らせ、ウサに文句を言おうと振り返る。
「ってことで!」
顔の真ん前に超絶美少女、恋島ウサの顔が。
「うおっ! びっくりしたっ!」
「始めますよ! さぁ、あなたの中に入らせてください!」
オレの目の前で、キラキラと顔を輝かせて身を乗り出しているウサ。
「いやっ……ちょっ、待っ……」
「ハッ──!」
固まっていたミカが目を覚ます。
「ちょっと待って? ヨルの中に入るって……その格好で?」
「はい、そうです。あ、お二人のお楽しみのところ邪魔して申し訳ありません! でも、出来ればそういうのはホテルなりでやっていただければと! と、いうことで、早く入らせてください! どこですか? どこが入り口ですか? ウオノメちゃん、ウオノメちゃん~♪」
ハァハァと息を荒げながらオレの体を
「……は? なんかこの子、さっきまでとキャラが……」
ウサの豹変ぶりにドン引きしてるミカを横目に、オレは思い出していた。
やりたいこと、夢中になれることが見つかると、一切周りが見えないキモオタ偏執狂モードに入る恋島ウサの特性を!
ウサの配信は、とても理性的で計算され尽くしている。
ただし、それは「最近は」の話だ。
事務所所属になる前。
まだ彼女がフリーで配信をして頃。
リスナーが十数人しかいなかった、あの頃は、よくこうしてウサは暴走していたんだった。
事務所に入ってからは、すっかり消えていた、そんな彼女の一面。
オレのような一部の古参のリスナーしか知らない彼女の一面が、今まさに出てる。
しかも、とってもよくない形で。
「ぐへへ、いいよね? そのウオノメちゃん、はやくボクに見せてごらん? ほらほら、ねぇねぇ? うふふ、うへへへへへ……」
ああ、一人称も昔の「ボク」に戻っちゃってるし……!
これは、本格的によくないかもしれん。
こんな状態でコラボ配信なんて出来るのか?
そう思っていると。
スッ──。
ドンッ!
無言のミカが、昔習ってた合気道の「なんちゃら」とかいう技で、ウサを床に払い落とした。
「ねぇ、聞いてる? 何してるの、あんた? 今まではお金持ちのお嬢様だと思って見逃してやってたけど、私のヨルにそれ以上危害を加えるようだったら私も容赦しないんだけど?」
仰向けに倒れたウサに覆いかぶさって静かにメンチを切るミカ。
あ~、こうなったらミカって怖いんだよな~。
普段はギャンギャン言ってるくせに、本当にキレると静かなんだよ。
逆に怖いっつ~の。
てか……さっきミカのやつ、なんて言ってた?
なんか「私のヨル」とか言ってなかったか?
いやいや、別にオレはお前のもんじゃね~んだけど……。
「う? うぅ……」
そんなこと初めてされたのであろう超お嬢様のウサは、何が起きたのかわからない様子で戸惑っている。
そんなウサに、さらに顔をぐいと近づけてミカは淡々と告げる。
「いい? さっきのは小手返し。他には四方投げ、入り身投げ、隅落とし、三強投げ、呼吸投げ。私が子供の頃に習った合気道の技。なんか知らないけど私、合気道の才能だけはあったみたいで、子供の頃に全ての合気道の技をマスターしたの。でも、ほら? 合気道って可愛くないじゃない? 部活の派手な大会とかもなくて地味だし。だからさっさと辞めたの。ああ、つまり何が言いたいかっていうと、このローラーブレードでヨルの体内を移動してヨルが痛いかもしれないって思わなかった? その刀が壁に刺さってヨルが痛がったらどう責任取るの? その辺、ちゃんと考えた? それから、配信するのはいいけど、ヨルをさらしものにするようなことがあったら、私の他の投げ技が炸裂するかもってこと。ねぇ、わかった?」
ズゴゴゴゴゴ……。
効果音にすると、間違いなくこんな音が出てる、今。
てか、マジでこえ~、ミカ。
すっかり忘れてたわ、大人になってもダークミカはダークミカのまんまなんだな。
いや、むしろ余計悪化っていうか、こじらせてる気がする。
そもそも、オレに対して過保護すぎるだろ、こいつ……。
目に涙を浮かべながら黙ってコクコクと頷くウサを見たミカは。
「よし、それじゃあ、行こっか!」
と、明るく言って立ち上がった。
「え? 行くって?」
「決まってるでしょ、私もヨルの中に入る。だって、この子一人じゃ不安だもん」
「え、そうなん?」
ウサを見ると、まるで本物のうさぎかのようにプルプルと可愛らしく震えながらコクコクと小さく頷いていた。
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