第8話 推しの家へお邪魔しま~す!
「なんで、お前までついてきてるんだよ……!」
「ハァ!? 先に今日の約束入れてたのは私の方でしょ!? ついて行って当然でしょ!?」
「当然じゃね~だろ。そもそも言ったじゃん。『推しの
「で、本当にそのVTuberからのコラボのお誘いが来たからって私との約束をキャンセルしてホイホイ向かってるわけ!?」
「別にホイホイとは向かってね~よ。しずしずと、おしとやかに向かってるだろ? ほら、見ろよ、オレの気品あふれる歩き方を」
「はいはい。っていうかヨル、体弱いわりには、ここまでスタスタやってこれたみたいだけど?」
世田谷区。
一時間電車に揺られて千葉からやってきたオレとミカは、高い壁に囲まれた場違いな高級住宅街の中を二人並んで歩いていた。
「ああ、そういえば今日は体調悪くなってないな。なんでだろ?」
「わ、私といるから……とか、ないかな?」
「あ~、それあるかも」
「え、ほんとにっ!?」
「ああ、ミカと話してると元気だった小学生の頃のことを思い出してさ、なんか調子がいい気がする」
「そ、そうなんだ! じゃ、じゃあさ、これからも私たち二人でいろいろ……」
肩にヒラヒラした布のついた黄色のキャミソール、ショートデニム、茶色の厚底サンダル、手首にはさりげない涼し気なアクセ、何が入ってるのかわからないちっちゃいバッグ、いつもよりちょっと気合の入った化粧のミカを見ながらオレは思う。
はたして、推しの前に連れて行く幼馴染(女)が、この格好で失礼ではないだろうか、と。
オレはファッションとかよくわからないけど、この格好はいくらなんでも露出が多すぎる気がする。
失礼じゃないか?
初めて行く人の家に、これは。
しかもサンダルだぞ?
普通サンダルで行くか? 初対面の人の家に。
だって、スリッパ出てきたら、素足でそれを履くわけだろ?
う~ん……それってさ、もしミカの足に水むs……。
「ちょっと! ヨル! 聞いてる!?」
「え? ああ、聞いてるよ。で? 何だっけ?」
「あ~! 絶対聞いてないじゃん、最悪! マジ最悪なんだけど!」
「またどっか行こうみたいな話だっけ? ってか、別にお前とはいつでもどこでも行けるだろ。近所だし」
「え? あ、うん。あ、うん、そうだね、うん……」
なんか「あ」と「うん」を繰り返して、ミカは急に押し黙ってしまった。
(なんだこいつ、変なやつ……)
そんなことを思ってるうちに、オレたちは恋島ウサに指定された家の前にたどり着いていた。
刑務所のような高い壁の向こうに、でっかい円柱みたいな建物が見える。
「あれが家……ってこと、よね……?」
オレたちの住んでるような田舎の建売住宅ではない、壁がドーン! で、門がガシャーン! で、松っぽい木もワッサ~! だ。
家というよりは、要塞?
そんな感じの建物。
めちゃくちゃ達筆な筆文字で「小手川」と書かれたおしゃれな表札が鉄の門の脇にかかっている。
「うん……ここで間違いないみたい……」
「え……こんなお金持ちなの、VTuberって? 手土産とか何も持ってきてないんだけど?」
「手土産とかいる?」
「いるわよ! こんなお金持ちそうな、おっかない家に手ぶらで入るなんて心細すぎるわよ!」
「そう思うなら駅で買ってくればよかったのに」
「はぁ~!? だって、相手がこんなとこだと思わないじゃないの!」
「世田谷っていえば金持ちが住んでるところだろ? 所田ショージさんとか住んでるし」
「誰よ! 知らないわよ、所田ショージなんて!」
「え、ウソだろ? ミカ、所田さん知らないの!? バイク大好きな所田さん」
「知らないわよ! っていうか何の話よ! それより……」
『あのぉ~?』
親の声より聞いた声。
インターホンをバッと見ると、つられてミカも視線を向けた。
『
「ハ、ハイッ! 小鳥遊です! あ、あの、昨日DMもらった! ハイッ!」
『くすくす。賑やかだったので、中まで声聞こえてましたよ』
(ちょっと! ヨルが騒ぐから恥かいたじゃないの!)
(はぁ!? 騒いでたのはミカの方だろ! オレに迷惑かけんなよ!)
(め、迷惑って、あんた……! 人が心配してついてきてやってんのに……!)
肘で突き合いながら、互いに責任を押し付け合う。
『外、暑いでしょう? 今、玄関を開けますね』
ゴゴゴゴゴ……。
重たそうな鉄の玄関が、ひとりでに左右に開いていく。
「セ、セルフだ……!」
「こんなの海外ドラマのマフィアの家でしか見たことないわよ……!」
とてつもなく間抜けかつ失礼な感想を漏らしながら、オレとミカは、VTuber恋島ウサの家へと足を踏み入れた。
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