act.35


明かりが点ったかのように、闇の中から意識が浮かび上がってくる。

足と胸に衝撃を受けたのがとぎれる前の記憶だ。

ジャニスと、なぜそこにいたのかは判らないがアイスのことをかばって、何かに貫かれたのも思い出してきた。

無意識的に身体を起こす。

目の前が霞んでいるので状況の確認ができなかったが、ザインは自分が意識を手放した場所にいない事だけは理解した。

足の下に布の感触がある。どうやら室内にいるのは間違いない様だ。


息を吸う。


吐く。


すう。


はく。


呼吸を繰り返すうちに、意識がはっきりしてくる。

体のダメージを確認する。

足も胸も怪我をしている様子はない。


さらに数呼吸分経過すると、覚醒段階も上がり、辺りが知覚できる様になってきていた。

覚醒していく意識とともに、ザインは拭いされない違和感を感じていた。

どうにもおかしい。


ザインはゆっくりと周辺を見回した。


やはりどこかの室内にいるようだ。

目に見える範囲には二人の人影が知覚できた。一人はディノンだ。

こちらを心配そうにのぞきこんでいる。

もう一人はマント姿の見知らぬ男だった。


否。


ザインはその男の事を確かに目にしていた。

フラッシュバックする記憶。

路地の奥でこちらを見ていた視線。

自分に向かってくる魔法の輝き。

ザインはとっさに身構えようとして、


ベッドから転がり落ちた。


意識は覚醒していたが、体の方はまだ動かせる状態ではなかったのだ。

それでもザインは視線をその男の方に向けると、叫んだ。


「お前は!」


そのとたん、先程の違和感が何倍にもなってザインを襲った。


頭の中に響く聞き覚えの無い声。

いや、聞き覚えはある。

ただそれが自分の物ではないだけだ。


ザインはその男から視線を外すと、改めて自分の事を確認した。

指先。

白くて華奢だ。

少なくとも自分の見知っている手では無い。

足先から上に視点を移す。

やはり白い肌。どこかで見た気もするが、確実に違う。


自分の身に起きたことをなんとなく予想しつつ、視点を体の方に移そうとしたザインは、視界の隅でマント姿の男が動くのを感じた。


それまでの状況から、敵対していると思っていたその男は、ザインの予想もしていなかった行動を取った。





有り得ないことに、気付いてから数瞬で彼(彼女と言うべきか)は行動を開始した。

呼吸を数回すると辺りを見渡し、知り合いなのであろう少年に目をとめ、次いでこちらを見た。

その瞬間、彼の視線が敵意を持ったものに変わった。

まだ動かせるはずもない体で無理矢理こちらに正対しようとしてバランスを崩し、ベッドからころがりおちた。

尻餅をついた様な体勢になりつつも、彼はこちらに顔を向けて叫んだ。

「お前は!」


その時になって初めて彼がこちらに向けている敵意のわけに気が付いた。

彼にとってこの姿は、自分や知り合いに向けて魔法を放った相手なのだ。それは警戒もするだろうし、敵視もするだろう。

こうなったらやるべき事は一つしかない。

私は即座に頭を床にこすりつけて叫んだ。

「すまない! 巻き込む気はなかったが、結果巻き込んだ」


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