act.34
空き家の割に妙に整ったベッドにジャニスと少女を寝かせると、青年は自分の物入れから布に包まれた石を取り出し、布を外した。光を発する石はランプの代わりに部屋を明るく照らした。
多少埃っぽくはあったが、とりあえず床に敷いてある敷物に座った2人は、同時に話し始めようとして押し黙ったが、すぐに青年の方が口を開いた。
「まずもう一度謝らせて貰う。巻き込んですまなかった」
先程より幾分砕けた声で青年が謝罪した。そしてディノンに自分の名を告げた。
「私は、イスカリス・マインスターというものだ。オヤジは財務卿をしているから姓のほうくらいは聞いたことがあるかもしれないな」
予想外の名前を聞き、顔が引きつりかけたディノンだったが、どうにか押さえ込んで自分も挨拶を返す。
「こちらはディノン・ウィルダと言います。そこで意識のないジャニス・リュシドー様の家人で、今は従者みたいな物です。で、どこに行ったか判らないザイン・ストラトスの友人です」
ジャニスの名前を聞いたとき、イスカリスの表情に一瞬緊張が走る。
ディノンはそれを見逃さなかったが、今はザインのことの方が重要だったため、あえてスルーした。
イスカリスは、ちらりとベッドの上の少女に目をやると、正面からディノンの顔を見て聞いた。
「で、お尋ねのザインの事なんだが、ぶっちゃけ結論だけ言うのと、ある程度詳しく説明するのと、どちらにした方がいいかな」
「それじゃ、結論だけ。もしわからなければその時詳しく聞きますから」
ディノンがそう答えると、イスカリスは軽く頷き、ある意味常識外れだがなんとなくディノンが予想していた通りのことを口にした。
「そこのベッドの上の女の子がつけている銀細工は『万能の十字』という強力な呪物の片割れだ。今、ザインの躰はこの銀十字の呪物の中に収まっている。で、精神と言うか意識は…」
そこまでイスカリスが話したところで、ディノンが口をはさんだ。
「この女の子の中にあるんですね」
「どうしてわかった?」
イスカリスがディノンに聞き返すと、ディノンはベッドの上の少女の方をちらっと見ると、疲れた様に言った。
「さっきあなたが突然現れるのを見ていましたからなんとなく。それに昔からザインと一緒にいると、この手の厄介事は日常茶飯事でしたからね。まあここまで変なのはそう何回もなかったですけど」
その時、ベッドの上の少女が身じろぎをした。イスカリスは怪訝な表情で、
「妙だな、私の時は一昼夜目覚めなかったと言っていたのだが…」
と、呟いたが、その刹那ギョっとした顔になって、傍らの杖を手に取った。
『何があった。四半時も反応なしで』
すぐに杖から声が流れる。その声はいらだちと心配の交じった雰囲気だった。
「すまん、状況が急変した。そっちの魔法の接続時間は残っているか」
そのイスカリスの声に、杖の向こうの反応は素早かった。
『おい、その声、まさか擬躰から出ているのか』
「ああ、そうだ。巻き込んでしまった少年が致命傷を食らったのでな」
『それは…さすがに仕方ないか』
突然杖と会話を始めてしまったイスカリスに戸惑いつつも、ディノンは聞いた。
「イスカリスさん、こちらは?」
「後で改めて紹介するが、私の依頼人で相談相手だ」
そこまでディノンに向かって言うと、イスカリスは再度杖に尋ねた。
「前置き無しで尋ねるが、意識を移したばかりの擬躰が、四半時で目覚めるというのはあり得ることなのか」
『四半時?それは極端だな。まあ、よっぽど入った精神と相性が良ければ無いとは言わないが、少年と言っていたからには男性だよな。それなら一日かかってもおかしくないはずだが』
「そうか、だが現にもう目覚めそうなのだが…あ、起きたようだ」
イスカリスの言葉通り、ベッドの上には身体を起こした少女の姿があった。完全に覚醒していないのか目の焦点が合っていない様であったが。
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