act.31
一方、姿を隠しつつ、目標の人物の行動を追っていたアイスは、黄昏の友の連絡員から有力な情報を得ていた。昨日はうまく繋ぎが取れず、逆に不審がられて追われてしまっていたのだったが、杖の声の相手でもある人物を通して、身元の証明と協力の依頼がなされたため、人に見られない場所なら割と自由に動けるようになっていた。
「東門裏手、か。やっかいなところに潜んだものだ。あのあたりは知らなければ迷路だからな。しかし」
そうつぶやきつつも、アイスは自信に満ちた表情で、一軒の空き家に入った。中は暗かったが意にも介さず部屋の隅に行くと、壁に掛かっている飾りを半回転させた。おもりがはずれる音と歯車の音がしばらく続くと、足下に隠し階段が現れていた。
「下から行けば割と単純だったりするわけだ」
アイスは物入れから、一つの石を取り出すとあらかじめ決められた呪文を唱える。
「一時の明かりよ疾く来たれ」
その言葉と共に石は白い光を放ち始める。アイスは杖の先に石をはめると、迷いもなく地下道を歩き始めた。
たどり着いた場所には一本のはしごがあった。
アイスは明かりの点った石を杖から外すと、明かりが漏れないように布で包み、そのままはしごを登り始めた。
「とうとう追い詰めたぞ、外道魔術師め」
はしごを登り切ったところは、とある空き家の2階にある暖炉の中だった。情報によれば目的の人物はこの真下の路地で何かを待っている様子だという。
急いで窓辺に寄ろうとしたアイスだったが、ふと思い出したように自分の杖をみると、先端の円盤についた宝石に向かって呪文を唱えた。
『どうした、緊急事態か』杖の向こうから不機嫌そうな声が流れる。
「ああ、今、ヤツの真上にいる。いつでも奇襲できる」
『無理はするなと言ったはずだがな。それに逸るな。その躰は特別身体能力が高いわけではない。何か手段を考えろ」
「おまえから預かった、束縛と解呪の呪文石は用意してある。だが相手も魔術師だ。魔法に対する抵抗力は高いだろうな」
アイスがそう言うと杖の声は、
『事ここに至っても相手の正体が、変身を使える力量の魔術師だと言うことくらいしか判らないのが問題だな。とにかく突っ込むのなら確実なときにだけにしておけ』
と、釘を刺した。
その時窓の下で動きがあった。
何かを抱えて小走りで眼下の男の元に近づいてくる少女。
その後ろから走り込んでくる、見覚えのある少年。
呪文を唱えたのか、男の頭上に浮かぶ光の矢。
そして少女から何かを受け取った男が取り出したモノ。
それは今そこにあるとは思ってもいなかったモノだった。
銀色に輝く十字のアミュレット。
それを目にした瞬間、アイスは委細かまわず窓を突き破って飛び降りていた。
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