act.10

「ここは一体?」

 アイスが尋ねる。

 ザインに連れられてきたところは、一見何の変哲もない軽食喫茶だった。ザインはその問いには答えず、店主に挨拶した。

「よう、ナッシュ繁盛してるか……って、してなさそうだな。客が3、4……5人か」

「お前らが入って7人だよ。で、そっちの娘はだれだい。見ない顔だけど。もしかしてお前の彼女か。アーニーがいないときで良かったな、からかわれる種をまかずに済んで」

 ナッシュというらしい店主はにやけ顔でザインに聞いた。ザインは平然と切り返した。

「ああ、なんか足りないと思ったらアーニーいないのか、残念。あ、それとな、今日俺、客じゃないんだ。久しぶりに裏使わせてもらおうと思ってな」

「裏だぁ? お前2年も前に引退しただろうがよ。元隊長の権利って奴か? わかったよ使いな。と言うことは今の隊長を呼べばいいのか、ザイン」

 話の見えないアイスがザインに尋ねる。

「いったい何の話だ、裏とか元隊長とかいうのは」

「ま、もう少ししたら全部説明するよ。とりあえずあの扉の中に入って」

 ザインはそういうと、店の裏手に続く扉を指し示した。釈然としない物を感じながらそれでも一応言われたとおりに扉をくぐるアイス。

「あ、ナッシュ、隊長ってまだエルロイなのか。そんならじきに顔出すんじゃねーか。あいつ時間とかに律儀だし。そうそう、俺やっぱり客になることにしたわ。ソーダ2杯あとでもらうぜ」

そういい残すと、ザインも扉の奥に消えた。


「じゃあ、説明するよ」

 扉の向こうにあったのは、人が10人も入れば狭く感じそうな小部屋だった。その中央に6人掛けの机があり、壁には特大の手描きらしい街区図、棚には多種多様なメモや遊具、床には球技の球や刃引きの模擬剣などかおいてあった。物置と言うには整然としていて、個人の部屋と言うには節操がない。強いて言うなら『秘密基地』だった。

「ここは俺の昔の遊び仲間の溜まり場なんだ。2年くらい前までは、俺がここの連中仕切って暴れてたんだぜ。そのころの敬称が『隊長』今は引退したから元がついてるけどね。で、この部屋が通称『裏』。悪巧み部屋って言うのが正確かな」

 アイスは興味深げに部屋の中を見回した。よく見るとメモの中には出入り口を暗号にした下水道図や廃屋らしきどこかの屋敷の見取り図、花火の火薬をばらして作る破裂玉の作り方などばれたらやばそうな物も混ざっていた。

「どうにもおもしろそうな少年時代だったようだな。そういえば私も……と、これは言うべきことではないな」

ひとしきり感心したアイスだったが、自分の昔のことを言いかけて慌てて口をつぐんだ。

「ま、ね。かなりムチャやったのは間違いないけどね」

 何かいい辛いことでもあるのだろうと察したザインは、その話を流した。

 その時入り口のドアが3回ノックされた。ザインは入り口に向かって問いかける。

「壺の中には」

 扉の向こう側の声が答える。

「密造酒」

 続いて同じ声がこちらに問いかける。

「かまどの中には」

 ザインがそれに応じて答える。

「串焼き3本」

 儀式めいた合い言葉の応酬が終わるや扉が勢いよく開いて、少年が2人と少女が1人入ってきた。

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