act.6
呆れ顔でザインを見送るジャニスとディノンだったが、しばらくしてぽつりとジャニスがつぶやいた。
「……ま、あそこまで変わらないのも珍しいと言えば珍しいのかもしれないわね」
ディノンもそれに相づちを打つ。
「ザインらしいと言えば、あれほどらしい行動もないですけどね。それじゃジャニス様、言われたとおり、荷物の受け渡しをしてしまいましょうか。だけどそれと知らなけりゃ本当にただの荷物ですね、密送って言うのはホントなんですね」
「そうね、とにかくガルシアにだけはばれないようにしなくちゃね。それじゃ半時後にお願いね」
そう言い残すと、ジャニスは現れたときと同様に、門脇の植え込みの奥に消えていった。一人残ったディノンは心の中だけでこうつぶやくのだった。
『もしかして、一番変わったのは僕なのか?』
とある場所で、一人鏡を覗き込んでいた老人が、微笑とも苦笑ともつかない笑みを浮かべていすから立ち上がった。
「嬢様も相変わらずじゃな。まあ、調べた感じ隠蔽の魔法以外には魔力はほとんど感じぬし、強力な薬品ではなさそうじゃな。今回に限っては見逃してやっても良さそうじゃの。しかしまあ、あの小僧、よくよくもって油断のならん性格に育ちおったの」
相談役こと、魔術師ガルシアは魔法の目で一部始終を見ていたのだった。あえて荷物を問題にしなかったのは、その魔法薬だと言う荷物に魔力がほとんど感じられなかったのと、もしジャニスが監視の目をだまくらかして消えても、自分が心得ておけば滅多なことにはならないという確信があるからなのだろう。また、その自信は実力に裏付けされたものでもあった。
老魔術師は鏡に掛けた魔法の目の呪文を解くと、彼が小僧と呼んだ少年のことを思い起こした。
いろいろな意味で、生まれたときからザインの複雑な事情を知り、手助けもしているガルシアだったが、ここしばらくは姿を見かけることが減っていた。
ほんの2年くらい前までは、毎日のように主君の娘であるジャニスの所に忍んでくる彼の一党のために、わざと一部分だけ隙のある結界(といっても実際は子供達への脅かしだったのだが)を作り、どんな工夫でそれを乗り越えるのかを観察して、さんざん楽しませてもらったものだ。
もちろん失敗したときのおしおきも忘れずに。
ひとしきり昔の大騒ぎの光景を思い出したガルシアは、今度ははっきりと苦笑と判る表情でつぶやくのだった。
「しくじったの。小僧の体質やら何やらは別としても、あの性格ならいい見習いになったじゃろうに。やはり多少無理を押しても弟子に採っておくべきじゃったか」
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