act.4
その荷物は、指摘されなければ何も気にせずに、ただ取り次いでしまいそうな何の変哲もない荷物だった。ディノンは改めてそういうことに気づくザインの頭の回転の良さに感心して返した。
「まあ、いつもながらよくそんな風に頭回るよなおまえ。とりあえず言われたとおりにはさせてもらうよ。でも何でそんなものをわざわざ届けに来たんだ」
「なんでって、そりゃ仕事だからだよ。うちの通信局に来た荷物なんだから、中身がなんであろうと依頼先まで届けるのがね。通信局が中身の吟味までしてたら誰も信用して預けてくれなくなっちゃうだろ」
「ま、そりゃそうか。でも俺、ガキ時分のこともあって仕官してからも相談役にはあまりいい印象もたれてない気がするんだよな。届けることは届けるけど……」
魔術師ガルシアの苦虫をかみつぶしたような表情を思いだし、げんなりしながらタグを切って認証し、小荷物を詰め所の机におくディノン。
「それについちゃ、責任の一端は俺にもあるんだよな。なにしろ数え切れないくらい結界破りしたもんな、あの頃は。まあ、ジャニスのところ行くにはほかに手はなかったし。でも爺さんの方も結構楽しんで結界破りをさせてた様な気がするんだけどな」
タグを受け取りつつ、そこまで言ったザインは話の流れから何かを思いだしたかのように続けた。
「そういえばさ、ジャニスにまとまりそうな縁談がきてるらしいな。ま、今の表での評判考えればむしろ遅すぎるくらいだとは思えるけどね。しかしどうにも、『お美しいリュシドー伯令嬢』って言葉の響きと、俺の覚えてるおてんばジャニスがイコールでつながらなくてな。まあ俺も王都から戻ってきた後のジャニスのことはちっとも知らないんだけどな」
そういいつつザインは『おてんばジャニス』の事を思い出していた。ドレスよりも狩猟服が好きで、ちょっとわがままで、頭の回転が速く、ノリとしては男友達に近かった貴族のお姫さまのことを。
「俺は時々声かけてもらうけど、2年前に比べたら見違えるほどお綺麗になられたよ。戻られたときには伯爵様はじめみんな驚いてたくらいだし。まあ、どうも身につけたのは素早く猫をかぶる方法みたいだけどね。中身は俺達を騎馬戦の馬にしていたあの頃のままだと思うよ。あと、時々お前のことも話題に出るぜ。『ザインどうしてるかしらね』とか」
ザインはそれを聞くと、にやにや笑いを浮かべディノンをこづきつつ尋ねた。
「で、ディノンお前はそれにどう答えてるんだよ」
「う、あ、そ、それは……」
うろたえるディノン。だが、その問いに対する答えは予想外の所から返ってきた。
「『仕事には就いてるみたいですけど、その程度であいつが変わる訳ないじゃないですか。どうせ今日もバカやって走り回ってますよ』よね、ディノン」
「うわっ、ななななんでこんな所にいらっしゃるんですか」
ディノンのうろたえ方が二倍になった。
「……立ち聞きしてやがったな。お前ほんっとに中身変わってないな、ジャニス」
「懐かしい声が聞こえたからね。あとそのため口、久しぶりに聞いたわ。近頃誰も彼も敬語でうんざりしてたのよ。1年半振りくらいかしら、ザイン」
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