魔法少女ビリシャン・グリーンの夢

おに…お姉ちゃんは恰好良いんだ

私の憧れの人なんだ

だから私も、絶対あんな大人になるんだ

私はそう思いながら、大好きなお姉ちゃん達の姿を目で追う


私の名前は、明日若葉あした わかばっていうの。

これでも子役タレントなのよ。

本当は学校があるんだけど、仕事で休んでいる事になっているわ。

だけど今の私は、魔法少女が仕事なの。


え?

魔法少女の役?

違う違う


「やああああ

 断罪の鎌サイス・オブ・コンドミネーション!」

「ぎゃあああああ」

シュバッ!


こうやって、魔物を倒すのが仕事なの。

魔物って、普通の人がこんな魔物になるんだよ?

恐くて気持ち悪いよね。


お姉ちゃん達の話では、私達の胸の辺りに魔石が出来るんだって。

魔石が何なのか分からないけど…それが魔物になる原因なんだって。

そして魔石が出来るのは、悪い心を持っていたら出来るんだって。

そういえば武君が、よく野木君をいじめているんだ。

タケシ君も、魔石が出来て魔物になるのかな?


「ビリシャン

 そっちの魔物を頼む!」

「うん

 任せて!」


私は意識を集中して、風の刃を作ったわ。


「はああああ

 逆巻く刃ボーッテク・エッジ!」


私の掛け声に合わせて、魔物達の真ん中に渦巻きが出来上がるわ。

それには刃もいっぱい入れているから、魔物はその中で切られるわよ。

たくさんの刃に切り刻まれるから、さしもの魔物も倒されるってわけ。

でも、普段の私はこんな事は出来ないわよ。

魔法少女になると、自然と強気になっちゃうのよね。


「お姉ちゃん

 倒したよ♪」

「良くやったわ」

「凄いわね、ビリシャン」

「へへへへ」


魔物達を倒したから、みんな元のおじさんやおばさんに戻ったよ。

私達はそのまま、一旦庁舎に向かったの。

ここは警視庁とかいう、警察の偉い人が居る場所なんだ。

私達はここに、いぎょう対策課って部屋を借りてるの。

そこにみんなで、こうやって集まっているの。


魔物は悪い心でなるって言ったでしょう?

あれって半分正解で、半分は間違いかな?

私はよく分かっていないんだけど、他にも原因があるの。

少し前から、風邪みたいな病気が流行っているでしょう?

あれが原因なんだって、刑事さんが言っていたの。


あ、刑事さんはこの部屋の…いぎょう対策課ってとこの刑事さんなの。

その刑事さんの話で、感染症?あの風邪みたいな病気が原因なんだって。

あの風邪みたいな病気になると、魔石の元が出来るんだって。

それで魔石の出来た人が、魔物になる訳なのね。

このいぎょう対策課ってのは、そういう事に対する警察なんだって。


私達は部屋に入ると、少しの間休憩をするの。

ここに居れば、魔物が現れた時にすぐに分かるんだ。

放送が聞こえて、刑事さんが魔物の居る場所を教えてくれるの。

私達はそこに向かって、魔物に変わった人達と戦うんだ。

そうして倒したら、魔物に変わった人が元に戻るってわけ。


「蓮見さん

 戻りました」

「ご苦労様

 討伐報告も入っているわ」

「ふう…

 今日はオーガとケンタウロス

 最近益々強くなっているわね」

「感染症に再度罹る者も増えているわ

 恐らく魔物の王国が、ウイルスを変異させているんでしょうね」


お兄ちゃんとお姉ちゃんは、さっそく刑事さんに報告をしているわ。

私はその間に、自分の鞄からジュースを出すわ。

グーのオレンジジュースが、今の私のお気に入りなの。

それを飲んでいたら、お兄ちゃんが私に近付いて来たわ。

私はジュースを飲みながら、横目にお兄ちゃんを見ていたの。


「んぐんぐ♪」

「ビリシャンは学校は?」

「うーん…

 今日は無理かな?」

「そうね

 今から戻っても、午後の授業に間に合うか…」

「そうなのね

 それじゃあわたしが…

 フォーム・ダウン」

シャラン!


最近お兄ちゃんは、ここで変身を解く様になっていたわ。

前は抵抗があったみたいだけど、今は大丈夫になったみたい。

そのまま変身を解いて、おじさんの姿に戻ったわ。

それでも私は、この人の事をお兄ちゃんって呼んでいるの。

だってお兄ちゃんは、優しくて格好良いんだもん。

そんなお兄ちゃんに、インディゴお姉ちゃんが不満そうに呟いたわ。


「もう!

 変身を解くなら隠れてしなさいよ!

 目の毒なのよ!」

「そうだな

 ここには少女も居るんだぞ」

「す、すまない…」


インディゴお姉ちゃんは、そう言いながらもしっかりと見ていたわ。

顔を真っ赤にして、おじさんの裸を凝視していたの。

蓮見さんでも一応、目を覆っていたのにね…。

やっぱりお姉ちゃんは、朱音兄ちゃんの事が好きなんだね。

素直になれば良いのに。


「さあ

 勉強を見てやるよ」

「あら?

 それは良いわね」

「ええ!

 でも、分かるの?」

「ふん

 小学生の問題だろ」

「そうね

 朱音さんはこれでも、大学を出ているのよ」

「ええ!」

「これでもって…

 酷くね?」


お兄ちゃんに勉強を見てもらっていると、お姉ちゃんも退屈したのかな?


「もう魔物も出ないのかな?

 私も変身を解くわ」

「そうね

 今の内に休んでちょうだい」


インディゴお姉ちゃんは、ロッカーの陰に隠れたわ。

それから変身を解いて、こっちに戻って来たわ。


「ふう

 疲れたわ」

「ご苦労様」

「インディゴって、変身中とは別人だな」

「何よ

 アタイの事より、朱音の方が別人でしょ?

 だって性別まで…」

「そうね

 私も驚いたわ」

「でも、お兄ちゃんも格好良いよ」

「はは…

 ありがとう」


「私ね、お兄ちゃんもお姉ちゃんも大好き」

「そうか…」

「私の夢はね、スカーレットお姉ちゃんみたいな格好良いお姉ちゃんの、お婿さんになる事なの」

「うんうん」

「へえ…」

「いや!

 そこは突っ込むとこでしょ!」

ズビシ!


お姉ちゃんはそこで、お約束とばかりに突っ込みを入れたわ。


「まあ、子供の夢だから」

「そうよ…」

「だからってねえ…

 アタイ達の悪影響受けてるよ、この子」

「そうかなあ?」

「だって女の子が女の子を好きになるなんて…」

「え?

 私、男の娘だよ?」

「ん?」

「え?」

「い?」


ここで大人の人達三人は、顔を引き攣らせていたわ。

私、変な事を言ったかしら?


『ええええええ』

「何で?

 何で驚くの?」

「え?

 あ、いや…」

「私は親御さんに、女の子って…」

「そう?

 確かにお母さんは、私の事を女の子って言うけど…」

「おい…」

「それはマズいんじゃ…」


私の言葉に、お兄ちゃんもお姉ちゃんも頭を抱えていたわ。


「どういう事?」

「んとねえ

 私って子役タレントでしょう?」

「ええ、そうね」

「確か仕事は入って無いって…」

「うん

 それで私、女の子の子役なの」

「はあ…」

「それで?」

「うん♪」


私が登録しているのは、女の子の子役なの。

顔が女の子にしか見えないんだって。

そういった子役の子は、他にも居るんだ。


「いや…

 しかし」

「そんな!

 そんなん詐欺よ!

 アタイより可愛いじゃん」

「まあまあ

 変身しているからな」

「フォーム・ダウン」

シャラン!


私は証拠を見せる為に、変身を解いて見せたわ。

だってお兄ちゃん達の前でなら、変身を解いても問題無いでしょう?

何故かお姉ちゃんは、お兄ちゃんの目を隠していたけど…。


「お、おい…」

「男の子だった…

 男の子だった…

 男の子だった…

 男の子だった…」

「そうね

 確かに男の子だわ」


お姉ちゃんは様子がおかしくなり、ブツブツ呟いてる。

けいじさんは、何故か鼻血をたらしているよ。

お兄ちゃんは改めて、変身を解いた私を見てくれた。


「ううむ…

 これは変わっていない?」

「し、信じられへん!

 何で男なんに、こがいな可愛いんじゃ!」

「ちょ!

 インディゴ!

 落ち着けって!」

「確かに可愛い

 しかしこれは…

 危険だ!」

「危険?」


私は驚いて、けいじさんを見ていた。


「だってアレだろ?

 こんな可愛いのに、男の子だなんて…」

「ちょ!

 蓮見さんも目付きが危ない!」

「はははは…

 けいじさん、何か怖いよ…」

「大丈夫

 痛くない様に…」

「すな!」

パカン!


インディゴお姉ちゃんが、けいじさんの頭をスリッパで叩いたわ。


「はっ!

 わ、私は…」

「危ないな

 道を踏み外し掛けていたぞ」

「確かに危険やね…」


大人達三人は、顔を険しくしてうずくまっていたわ。

私の裸って、そんなに危険なものなの?

そういえば徹君も、私の裸を見たがっていたな。

見せたら見せたで、暫く口を利いてくれなくなったし。

あれも私の、裸が原因なのかな?


「ビリシャン」

「は、はい」


お兄ちゃんが、真剣な顔をして私を見ていたわ。


「今後人前で、着替えるのは注意しろ」

「え?

 何で?」

「それ、え?

 あ…」


お兄ちゃんは慌てて、二人の方に振り返っていたわ。


「そうね

 あなたが可愛い過ぎるの」

「あんたの裸を見て、道を踏み外すもんが出るけえ

 ここでの着替えも見せちゃあアカンで」

「ええ?

 何で?」

「良いから!」

「着替える時はロッカーの向こうで!」

「アカン

 アタイまでドキドキしてまう」


何だか分からないけど、私の着替えは見せちゃあいけないらしい。

そういえば先生も、そんな事を言っていたな。

出来れば体育の着替えも、保健室でする様にって、そう言ってたよな。


「はあ…」

「ふう…

 久しぶりに女を実感させられた」

「蓮見さんがショタって、意外やな」

「私はショタでは…」

「へへん♪

 弱点発見!」

「うるさい!

 ビリシャンの勉強が出来んだろう」

「はあい…」

「すまない」


お兄ちゃんの一喝で、再び室内は静かになったわ。

私はお兄ちゃんの真剣な顔を見ながら、勉強を教えてもらったの。

やっぱりお兄ちゃんって、恰好良いな♪


「私ね、お兄ちゃんも大好き♪」

「お、おう…」

「何よ…

 男の子にデレデレしちゃって」

「してねえよ」

「そおう?」

「ふふふ

 碧璃の方がデレデレしてもらいたいもんね」

「な!

 ちょ!」

「蓮見さん

 止めてくださいよ」

「何よ!

 アタイじゃ嫌って事?」

「ちょ!

 そういう事じゃ…」

「ふふ♪

 何だか二人が、お父さんとお母さんみたい」

「そうね」

「い?」

「そ、そがいな…」


お兄ちゃんもお姉ちゃんも、顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。

お姉ちゃんも素直になれば良いのに。

そしてお兄ちゃん、気付いてあげなよ。


私はそう思いながら、宿題のノートを取り出す。

今回の宿題は、私の夢。


『私の夢は、お兄ちゃんとお姉ちゃんみたいになる事

 二人共優しくて、格好良いんだ

 私のお父さんは、忙しいって滅多に会ってくれない

 そしてお母さんも、私の為に仕事ばかり

 だから私は、二人みたいにいつも子供の近くに居るの

 そして宿題や勉強を見たり、一緒にお喋りするの

 そうしたら、私はいっぱい幸せな気分なの

 だから私も、そんなお父さんになりたいの

 いつも子供の側に居て、一緒に居てあげるの』


私はそうノートに書いて、こっそりと鞄に仕舞ったわ。


いつか魔王も倒して、こんな家族みたいな時間も終わるんだろうな。

お兄ちゃんとお姉ちゃん、その後も一緒に居られたら良いな。

そして私も、ここに遊びに来られたら…。

そんな事を思いながら、私は騒がしい二人の会話を聞いていた。

たまに意味の分からない言葉もあるけど、その時は笑って聞いてるの。

こんな幸せな時間が、いつまでも続きます様にと、神様に祈りながら。


この物語は、ここで終わりになります。

魔王との戦いや、感染症の対策など問題は残されています。

ですが物語は、一先ずの終わりとさせていただきます。

要望がありましたら、続きを書く事もあるかも知れません。


最後まで見ていただいた方は、ありがとうございます。

よろしければ、感想や意見などを寄せてください。

今後の作品の為に、参考にさせていただきます。


なお、一部実際の地名などありますが、関連、関係はございません。

あくまでも物語はフィクションで、実際の事件、団体とも関係ありません。

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魔法少女は嫌だ! 竜人 @seiouden-ryujin

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