そして戦いは続く…
それからのわたしは、暫く荒んでいたと思うの
いつの間にかわたしは、見知らぬ街に来ていたわ
変身はいつの間にか解けて、近くにイグニールも居ない
わたしは一人で、見知らぬ夜の街を歩いていたわ
「うわあああ」
「きゃあああ」
「化け物だ!
魔物が現れた!」
「魔法少女は?
誰か魔法少女を呼んでくれ!」
遠くでそんな声が聞こえた気がした。
オレは走り出して、その魔物達の前に飛び出した。
「うわあ
助けてくれ!」
「ば、化け物が…」
「…」
オレは黙って、彼等の前に立っていた。
そのまま向かって来る魔物に、力任せに殴り掛かる。
そんな事をしても、一般人のオレじゃあ敵わない。
ぶつけた拳が痛み、逆に魔物に殴り飛ばされた。
それでもオレは、立ち上がって魔物の前に立ち塞がっていた。
その時のオレは、魔法少女として戦おうとしていなかった。
誰かを助けたいんじゃ無くて、むしゃくしゃした苛立ちをぶつけたかったんだ。
それで敵わないと分っていても、そのまま無様に向かって行った。
殴られ、血反吐を吐いても、オレは魔物に向かって行ったんだ。
「誰か!
くそ、どうにか出来ないのか?」
「あの男の人が死んでしまうわ!」
「逃げて!
あなたでは敵わないわ」
「はやく!
どうにかあの化け物を…」
くそ!
くそくそくそ!
オレは苛立ち、頭の中が沸騰しそうだった。
周りの声が、あの時の状況を思い出させる。
オレが何も出来なかったから、千夏は死んでしまった…。
オレの心は、暗くその闇に染められていた。
本当なら、オレはそこで魔物に変わっていたんだろうな。
『しょうが無いね』
ふと、そんな声が聞こえた様な気がした。
『これは特別サービスだよ』
『もう
死んだ後も私達に心配を懸ける気?』
魔物に殴られ過ぎて、オレは幻聴を聞いているのだと思っていた。
『ガイアに頼み込んでね…』
『最後の別れの時間を取ったのに…
もう!
朱音はしょうが無いな』
「っ!」
オレは驚いて、周囲を見回した。
そこはいつの間にか、あの女神の神殿に変わっていた。
「全くもう!
死にたいの?
馬鹿なの?
そうなの?」
『女神様
もうその辺で…』
『そうですぞ
時間もあまりありません』
「ブラウンさん?
それに…千夏!」
『そうよ』
『そうじゃよ』
「オレは…
死んだのか?」
オレはいつの間にか、魔物に殴り殺されていたのか?
「馬鹿ね
そんな訳無いじゃない」
『私達が無理を言って、女神様に最後の時間をもらったの』
『あのままじゃあお主、自暴自棄で死にそうじゃったからのう』
二人はそう言って、優しくオレを見詰めていた。
「だって二人は、殺されたんじゃあ…」
「そうよ
確かに二人は死んだわ」
『でもね、特別にお別れを言う時間をもらったの』
『ワシの功績じゃがのう』
『もう
ブラウン様』
『ほっほっほっ』
「そうよ
ブラウンの頼みを聞いて、特別に時間を取ったの
それなのにあなた、魔物に向かって行って…」
『あのままじゃ、あなた死んでいたわよ』
『ガイア様に感謝するんじゃぞ』
「は、はあ…
ありがとうございます?」
「気持ちが籠っていないわ」
オレはあまりの事態に、頭が追い着いていなかった。
『蓮見に頼んでおいたのに…
お主は憎しみに囚われて…』
『駄目よ!
そんな気持ちのままじゃあ』
「魔物に憑りつかれてしまうぞ」
「だって二人は死んで…
それに魔王?
あんな者に勝てるわけ…」
「馬鹿者!」
『愚か者!』
『本当におバカねえ』
「な!
ちょっと!」
三人に揃って、オレは馬鹿者と駄目出しを食らった。
「ちょ!
何で?
だって二人を失ってオレは…」
「だからよ」
『そうよ』
『そうじゃぞ』
「だって…」
「だっても何も無いわ
二人は死んだが、お前の心の中に居る」
「そんな精神論で…」
「それにな、お前にはやるべき事があるじゃろう?」
『そうよ!
私みたいな人を増やさないでよね』
『そうじゃぞ
ワシの代わりに、お主には魔法少女を続けてもらわんにゃならん』
「そんな事…
出来ないよ!」
二人はそう言うが、オレにはもう無理だった。
オレはあの魔王を見て、心が折れていた。
どんなに鍛えても、あの魔王に勝てる気がしない。
それで千夏の仇を討つ自信も無くて、魔物にぶつかって行っていたのだ。
オレは今さらながら、それを自覚していた。
『馬鹿じゃのう
すぐに勝てる訳無かろう?』
『そうよ
魔王は強力よ
朱音はもっと鍛えないと』
「何で?
オレの心を…」
「読めるわよ
彼女達は今、精霊に近い状態だから」
死んで魂だけの存在になった、二人は精霊に近い状態なのだ。
「それじゃあ今後も…」
『馬鹿な事を言うな
ワシはもう疲れたんじゃ』
『そうよ
それにそんな状態で朱音の側に居たら…
色々と見てしまうじゃない、見ちゃいけない物とか』
「ちょ!」
『ふおっふおっふおっ
若い事は良いのう』
『もう
ブラウン様ったら』
「そろそろ良いかのう?」
『あ…』
『そうじゃのう』
『朱音
負けないでね』
『そうじゃぞ
お主が負ければ、日本の未来が危うくなる』
「しかし…」
『あのね
私はあの時、あなたが考えていた様に死んでいたの』
「え?」
千夏は寂しそうに、オレに微笑み掛けた。
『お父さん達と一緒に、私も死んでいたの』
「千夏がお前に会えたのは、あの男の慢心じゃのう」
『あいつはあの頃から、魔物化の研究をしていたわ
それで私は、魔物になってしまって…』
「まさかおじさんとおばさんは?
でも女神様は知らないって!」
「そうじゃのう
正確には、確証が無かったのじゃ」
「そんな!
だってあなたは、神なんでしょう?」
「それでもじゃ
不用意に下界には干渉出来ん」
『ガイア様ものう、何も知ってて黙っておった訳では無い
確証が無いままお主に告げれば、お主はそれで苦しんだじゃろう?』
『私が幹部に選ばれたのは、偶然なのよ
私は所詮失敗作で、あいつはその後も研究を続けていたの』
「恐らく魔物化の因子が完成したのも、ここ数年じゃろう
それで魔王の奴は、私に勝負を挑んで来たのじゃ」
「千夏が失敗作で…
おじさんもおばさんもそれで千夏に?
そんな…
そんな事!」
オレは怒りに、再び目の前が真っ赤に染まりそうだった。
「馬鹿者!
また怒りに我を失う気か?」
『朱音
私の事は良いの
それよりも、これ以上被害者を増やさないで』
『憎しみに囚われるな
そうしなければ、あの魔王には勝てぬぞ?』
「だけど!
けど、千夏をこんな…
それにみんなを…」
『そのみなを救う為にも、お主は強くなれ』
『憎しみや怒りに負けないで!
私の為じゃ無く、私みたいな人を増やさない為に…
お願い、戦って!』
「ブラウンさん…
千夏…」
「お主は幸せ者じゃぞ?
こんなに思ってくれる者が居て
そして世界にもまだ…」
女神がそう言った時、みんなの声が聞こえて来る。
それは蓮見さんやインディゴ、ビリシャンや精霊達の声だ。
みんなが呼んでいる声が聞こえた。
「これでもまだ、自分なんてどうでも良いのかのう?」
「だけど…
だけどオレは…」
その声が暖かく、オレの心の何かを溶かして行く。
それでもオレは、意固地になって言い訳を探していた。
オレを疑った刑事、マスコミ、それに陰で色々と言われていたんだ。
駄目な大人だと思いながらも、オレは言い訳を探していた。
「それでも良いじゃないか?」
『そうじゃぞ
みなに愛されるなんぞ無理じゃぞ』
『それに朱音は、魔法少女なんでしょう?
魔法少女は、みんなに勇気と希望、夢を与えるんだよ!』
「スカーレットたーん!」
「うひいい!」
「はははは」
『ふおっふおっふおっ』
『ふふふ
みんなが呼んでるわよ』
「勘弁してくれよ…」
そう言いながらも、オレの口元は綻んでいた。
あのヲタク達の声援が、何故かオレの気持ちを吹っ切れさせていた。
「さあ
元の場所に戻すぞ」
「へ?
元のって…」
「スカーレット!」
「イグニール!」
イグニールが、オレを呼ぶ声が聞こえた。
女神の憎い演出で、周囲は閃光に包まれていた。
「うわっ!」
「何だ?
これは?」
「眩しくて見えないわ」
「あのおっちゃんは?
どうなった?」
「スカーレット!」
「イグニール!
フォーム・アップ!」
シャラン!
耀く閃光の中で、わたしは魔法少女に変身したわ。
そこにはもう、迷いも悩みも無かったわ。
わたしは今、心から魔法少女に変身していたわ。
魔物化した人々を救う為に。
そして千夏の様な被害者をこれ以上出さない為に。
わたしは魔法少女に変身して、魔王を倒すの!
「魔法少女スカーレット・レッド!」
「おお!
魔法少女だ!」
「魔法少女が来てくれたぞ」
「やったわ
助かったのよ」
「あれ?
あのおっさんは?」
「行くわよ!
魔物」
「スカーレット
敵は今まで以上に強力だよ」
「魔王め、さっそく魔物を強化して来たわね
さしずめこいつは、鬼の魔物オーガね」
「オーガか
人食い鬼の魔物だね」
「関係無いわ
倒して元に戻すだけよ」
わたしはそう言って、魔物に向かって身構えるわ。
「スカーレット?」
「ん?」
「何かあったのかい?」
「どうかした?」
「うがあああ」
わたしは魔物の攻撃を弾きながら、イグニールの質問に答えたわ。
「だって今までと…
雰囲気が変わって…」
「そうね
色々あったのよ」
「色々って?」
「色々…よ!」
「ねえ
何があったんだい?」
「ふふふ
行くわよ!」
「ごあああああ」
ドガッ!
オーガは人食い鬼の魔物だわ。
だけど身体が大きいだけで、それほど怖い魔物では無いわ。
勿論、魔法に対する抵抗は、今までの魔物以上だわ。
それでも今のわたしは、気持ちが高まっているの。
そしてそれに合わせて、わたしの魔力も高まっているわ。
「やあああああ
灼熱の拳!」
ゴウッ!
ゴガガガガ!
「え?
これってこんなに強力だった?」
「ごがあああ」
「やああああ
せりゃあああ!」
ドガガガガ!
ドゴン!
止めの一撃が、魔物の防御を食い破って突き刺さったわ。
拳だけじゃなく、今では私の全身を炎が纏っているわ。
それが魔物の攻撃を防ぎ、その身体を焼いていたの。
そして最後の突きは、魔物を吹き飛ばして燃え上がったわ。
「ふうっ
決まったわね」
「ああ
魔物化が解けて行くよ」
「さあ
それじゃあ帰るわよ」
「その前に!
先ずは庁舎に帰ろう?
みんなが心配してるよ」
「あ…
そうだったわね」
わたしはさっき、そのまま庁舎から飛び出したの。
蓮見さんだけじゃなく、インディゴも心配してるでしょうね。
「仕方無いか」
わたしは飛翔の魔法で、宙に浮き上がったわ。
先ずはここが何処か、把握する必要があるわね。
わたしは頭を掻きながら、周囲の景色を見回したわ。
「イグニール
ここが何処か…」
「知らないよ!
おいらも必死になって追っ駆けたんだもん」
「でも、そこまで遠くじゃあ…」
「分かんない」
「くうっ…
仕方が無いわね
先ずは交番でも探しましょう」
わたしは再び地上に降りると、先ずは交番を探しに向かったわ。
ギャラリーに聞く事も出来たけど、さすがに聞けなかったわ。
彼等はわたしの勝利を見て、興奮しながらインストにアップしてたからね。
恥ずかしっくって、そんな彼等に聞けなかったわ。
それから1時間…。
何とかわたし達は庁舎まで戻って来たわ。
そこでは心配する蓮見さんと、怒って般若みたいな顔をしたインディゴが待っていたわ。
「えっと…
ただい…」
「遅い!」
「良かった
無事だったのね
討伐の報告は届いているわ」
「はははは
ごめんなさい」
「ふん!」
「ふふふ
吹っ切れた様ね」
「はい
ご心配をお掛けしました」
わたしは素直に、二人に頭を下げていたわ。
特に蓮見さんには、心配して声を掛けられていたわ。
それを無視して、わたしは飛び出して行ったのよね。
それが申し訳なくって、わたしは深々と頭を下げたわ。
「まあ…
反省しているなら…」
「もう
インディゴって素直じゃ無いから」
「あああああ!」
「何?
何々?」
「言うなワレ!
言うんじゃ無い!」
「インディゴ
地が出てるわよ」
「あ…
こほん」
「あはははは…」
「インディゴ…
折角のチャンスなのに…」
「マリン?」
「ひいいい」
「待ちなさい!」
「お助け~!」
インディゴはマリンを追って、ドタドタと駆け出して行ったわ。
「もう…」
「はははは
この方がわたし達らしいわね」
「そう…ね」
蓮見さんは何か言いたげに、わたしの方を見ていたわ。
「もう…
大丈夫なの?」
「ええ
お陰様で」
「でも、たった数時間前に…」
「その間に、色々ありまして」
「聞いても良い?」
「それは…」
さすがに蓮見さんでも、女神の事は話せないわ。
わたしは多少心苦しく感じながらも、彼女に頭を下げていたわ。
「すいません
話せない内容でして…」
「そう…」
「でも、もう大丈夫です」
「本当に?」
「魔王が憎くないと言ったら、嘘になりますね」
「それじゃあ!」
「でも、今はそれよりも、千夏の様な被害者を出さない事が重要だと…
そう教えられました」
「それは…」
蓮見さんは誰にと、一瞬口にしかけたわ。
だけどわたしの様子を見て、肩を竦めて頷いたわ。
「分かったわ
あなたを信用して良いのね?」
「はい
もう、迷いません」
「そう
それじゃあ私からは、これ以上は何も言わないわ」
「ありがとうございます」
「ううん
こっちこそ、ありがとう
東京を…
日本を守ってくれて」
「いいえ
これからです」
「そうね
まだ魔王が居るんですものね」
わたし達はそう言って、頷き合ったわ。
本当の戦いはまだ、始まったばかりなの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます