遂に現れた秘密結社
その動画は、ヤーチューブだけでは無かったわ
他のテック・トックや、動画サイトにまで上がっていたわ
これによって、いよいよ魔物化が世間に完全に認識されたの
政府はこの事に対して、厳戒態勢として外出禁止令を布告したわ
「外出禁止って…
それだけ?」
「仕方が無いわよ
まさか感染症の事まで言えないでしょう?」
「だけど…」
「スカーレット
無理は言わないの
蓮見さんもそこまでの権限は無いのよ?」
「そうだけど…」
わたし達は、警視庁の一室に集まっていたわ。
ここに居るのは、蓮見さんとわたし達の四名だけ。
ブラウンさんも呼び出されているけど、まだこちらに到着していなかったわ。
それでわたし達は、異形対策課に集まっていたの。
「それにしても…
魔物の王国か」
「彼等の主張は、魔物への回帰と人権の確立なの?」
「そういう主張だな」
犯行声明には、魔物の王国という名前が使われていたわ。
その文面には、嘗て日本には魔物が溢れていたとしているわ。
そして人間が滅ぼした、魔物が再び蜂起すると主張されているわ。
魔物化して、魔物になっているというのに…。
「確かにわが国では、妖怪が居た事は確認されている
しかし今回の魔物は…」
「人工の魔物なのよね」
「それに魔物の王国だなんて…」
「学校に行けなくなっちゃうよ」
魔物の人権を認めて、魔物にも生きる権利を与える。
声明にはその様な主張が記されているわ。
確かに妖怪が居たのだから、彼等の主張なら正当性もあるわね。
でも、実際にはこれは、人工で作られた魔物が関わっているの。
この声明には正当性は無いわ。
「政府はこの事態に、ようやく魔物化を認める事にしたわ
そして魔物化を抑制する為に、ワクチンの接種も勧めるみたいね」
「ようやくね…」
「ええ
これで大分、魔物化を抑えれると思うわ」
「だけど、この声明で難しくなるわね」
「どうして?」
「それは魔物を認める事になるからよ」
「そうね
彼等の正当性を認める事になり兼ねないわ」
「ええ?
何で?」
ビリシャンは子供だから、この声明の危険性に気が付いていないわ。
この声明を見て、賛同する者は少なからず居るわ。
いつの時代にも、そういった者達は少なからず居るのよね。
そして正当性を主張する者が居る限り、ワクチン接種の妨害も出るでしょうね。
「魔物になるから、それを抑制するワクチンが必要
それは分かるわね?」
「うん…」
「だったら魔物は、存在するって事になるの」
「どうして?
魔物は誰かがそうなる様に…」
「その組織が、魔物の正当性を掲げているの
いくら彼等の陰謀と言っても、それを信じない者は少なからず出て来るわね」
「そしてそうした者達が、ワクチンの反対運動を起こすわ」
「ワクチンは魔物を殺す為で、政府は魔物を滅ぼそうとしている
そう言って主張するでしょうね」
「何で?
そんなのおかしいよ」
「そうね
でも、それが大人の世界なの」
「ええ?」
いつの時代にも、必ずそういった者達が現れるものよ。
そうして主張の正当性を求めて、争う事になるわ。
それに魔物化する者が、誰だかハッキリしていないのも問題ね。
隣の人が、魔物になる可能性がある以上は怖いでしょうね。
そういった事が、魔女裁判を起こすのだから。
「魔女裁判…
起こりますよね」
「そう…だね」
「わたし達も危険ね」
「え?
どうして?」
「魔物化がわたし達の仕業だって事になったら?」
「何で?
どうしてそなるの?」
「そう言われれば、疑う者は少なからず出るわ
そもそも魔物化に関しても、証拠が無いもの」
「でも、あの人達がしたんだよね?」
「そう…だと思うわ」
「でも、証拠が無いのよ
ウイルスの感染経路を、探して証明する事は出来ないわ
ウイルスは喋らないから、確認も出来ないしね」
「そんな…」
状況は悪化する一方だわ。
このままでは、誰が魔物か分からないから、国民同士で争いが起きるわね。
それにわたし達を認めたく無い者達が、わたし達を断罪しようとするわね。
その前に、どうにかしてあの組織を倒さなければね。
「時間も手段も乏しいわね」
「そうね
こうなってしまって、申し訳ないと思うわ」
「どうすれば良いの?」
「こうなったら、あの幹部を捕まえる必要があるわね」
「捕まえても、証言が得られるか…」
「記憶が残っている可能性は低いわね
でも、先ずは試してみないと」
「そうね…」
彼女も幹部ではあるが、魔物化された被害者の可能性もあるわ。
そうなれば、倒したところで記憶が残されている可能性も低いわ。
それでも、今可能性があるのは、あの幹部からの証言なの。
だからわたし達は、逃げた幹部が再び現れるのを待つしか無かったわ。
「しかし…」
「どうしたの?
スカーレット」
「いや、何でも無い
そんな筈は無いんだ」
「ん?」
「お姉ちゃん
大丈夫?」
「ええ
兎に角、今は情報が欲しいわね
組織は日本だけなの?」
今のところ、魔物被害は海外ではほとんど無い様だったわ。
その事が、この組織が日本独自の物だと告げているわ。
それに妖怪って単語も、日本独特の物だもんね。
「そうね
海外にも、異形対策課の様な組織はあるわ
だけど今回の件は、海外には見られていないわ」
「そう…
そうなると、因子も日本で作られた可能性が高いのね」
「え?」
「そうなの?」
「そうね
私もそう考えているわ」
感染症のウイルスに、魔物化の因子が組み込まれているのよね。
だけど被害は、ほとんど日本でしか起こっていないわ。
そうなると、日本でウイルスを確保して、因子を組み込んで散布した可能性が高いわ。
そう考えると、この組織は日本の物だと思うのよね。
「え?
それじゃあ日本の組織なの?
悪の組織って、日本のなの?」
「その可能性が高いわね
海外の被害は少ないんでしょう?」
「ええ
だから私達も、日本で感染したと考えているわ」
「なるほど
だから日本で作ったと…」
「ええ
だから日本だけの組織だと思うの」
「それは早計よ
だけど今活動しているのは、日本の組織で間違い無さそうね」
組織自体は、海外にもある可能性は否定出来ないわ。
組織の全貌が掴めていないからね。
だけど今主に動いているのは、日本における組織なのよね。
時刻は夕方に近付き、いよいよビリシャンは帰宅しなければならなくなったわ。
親御さんは魔法少女の活動を認めていたけど、門限は設けていたわ。
あまり遅いと、心配を掛けるからね。
「今日は動きは…」
「警視庁に入電!
魔物が現れました!
魔法少女は現場に急いでください!」
「ちっ!
このタイミングで…」
蓮見さんはそう言って、パソコンで場所を確認したわ。
「場所は…近いわ!
大手町の駅よ!」
「また帰宅者を狙って…」
「そうね
会社員が魔物化されていると見て間違い無いわ」
「急ぐわよ!」
わたし達は庁舎を出て、すぐに飛翔の魔法を使ったわ。
この時間は車も多く、道路は混雑している筈だわ。
歩いて行くより、飛翔の魔法の方が早いわ。
「気を付けて!
魔物は以前より強力よ!」
「大丈夫!
十分回復出来ましたから」
「行くわよ!」
「うん」
わたし達は飛翔で宙に舞うと、そのまま駅を目指したわ。
そこでは既に、魔物が溢れていたわ。
今回は何故か、日本の鎧を着たコボルトが主になっているわ
その数は千人に近く、駅の周りで通行人や車に襲い掛かっていたわ。
「数が多い!
先ずは合体魔法を使うわ」
「うん
任せて」
今度はさっきよりも、数も多くて装備も良くなっているわ。
わたしとビリシャンは、合体魔法の呪文を唱え始めたわ。
インディゴが魔法を唱えて、魔物と通行人との間に障壁を築いたわ。
魔法の水球が、先頭の魔物達を包んで動きを止めたわ。
「
「炎よ!
わたしの意思に従ってちょうだい!」
「風よ!
お願い、私に力を貸して!」
「燃えろ、燃えて燃え盛れ!
激しく燃えて、渦を巻け!」
「お願い!
お姉ちゃんの手助けをして!
ぐるぐる渦巻いて、炎を強く巻き上げて!」
「
「
「行っけー!」
「やあああ!」
『
ゴウッ!
シュゴオオオ!
再び火炎旋風が巻き起こり、駅前の道路で渦を巻いたわ。
人や車に被害は無く、魔物だけを巻き込んで行くわ。
だけど魔物も、鎧で身を固めているだけあるわね。
ほとんどの魔物が焼かれたけど、中には耐えている魔物も居たわ。
「強い!」
「耐えているわね!」
「インディゴ!
避難してる人達を守って!」
「うん!
任せて」
「ビリシャン
行くわよ!」
「うん」
わたし達は飛翔して、一気に駅前に辿り着いたわ。
そしてわたしは、拳を燃やしながら魔物を殴って行ったわ。
魔物は鎧で身を守り、手にした日本刀で切り掛かって来たわ。
わたしはその日本刀を叩き折りながら、魔物を直接殴って倒して行ったわ。
「やああああ!
「ぐぎゃん」
「ぎゃいん」
シュバババ!
ビリシャンの魔法で、小さな竜巻が巻き起こったわ。
その竜巻は風の刃を放ちながら、ビリシャンの周りを回っているわ。
それでビリシャンも身を守れるし、近付く魔物を倒せるわ。
そうしてビリシャンも、魔物を少しづつ倒して行ったわ。
だけど魔物も、やはり強くなっているわ。
わたしの
「くっ
数が多いわね」
「お姉ちゃん
私の魔法じゃなかなか倒せないよ」
「ビリシャン
良いからそのまま続けて
今は倒す事より、身を守る事を優先して」
「うん」
わたしはビリシャンにそう指示を出して、自身が倒す事に集中したわ。
そうして殴り続けていると、突如高笑いが聞こえたわ。
「ほほほほ
現れたわね、魔法少女!」
「え?」
「な、なあに?」
「あそこよ!」
少し離れている、インディゴが声の主を見つけたわ。
それは駅の入り口の上で、腕組みをしていたわ。
彼女はレザーの妖し気な服を着て、まるで女王様の様だったわ。
あんな恰好をして、恥ずかしく無いのかしら?
いえ、魔物だから恥ずかしいって感覚は無いのね。
「あなたは誰?」
「ほほほほ
よくぞ聞いたわね
私は魔物の王国の幹部、メドゥーサよ!」
「幹部って…」
「やっぱり悪の組織の幹部?」
「悪の組織では無いわ!
私達は正当な、日本国民よ!」
「日本国民ね…」
「確かに国民だろうけど、魔物化は人工だけどね」
「何を言うか!
これは人間の魂の根幹を解放し…」
「はいはい
大体悪役は、そうやって言い訳するのよね」
「ぐぎぎぎ…」
彼女は悔しそうに、歯軋りをしていたわ。
しかしその顔を見て、わたしは確信をしていたの。
髪は蛇に変わっているが、その顔は見間違い様は無かったわ。
「まさかと思っていたけど…」
「スカーレット?」
「お姉ちゃん?」
「千夏!
どうしてなの?」
「ふはははは
私の名はメドゥーサだ
千夏なんぞ知らんな」
「え?
どういう事?」
「ええ!」
「間違い無いわ!
その声…
その姿!
あなたは鈴木千夏よ!」
「知らんな!
それに私は、過去の名は棄てている」
「くっ
何で…」
そう、その悪の幹部の姿は、千夏に間違いが無かったわ。
女神が真似ていた、数年成長した姿に酷似していたわ。
それに何より、彼女の腕には傷があったの。
幼い頃にわたしが、誤って付けてしまった腕の傷…。
千夏が思い出だと誇っていた、あの傷痕が残されていたの。
「何て事なの!」
異形対策課の本部では、蓮見さんが叫んでいたわ。
わたし達は知らなかったけど、現場はライブ放送されていたの。
そして蓮見さんは、資料を引っ張り出して確信していたわ。
彼女も千夏の、腕の傷に気が付いていたの。
「間違い無いわ
朱音さんが子供の時、木から落ちた時の傷だわ…」
わたしが幼い頃、二人で庭の木に登ったの。
そこから降りれなくなって、二人で泣き出してしまったわ。
それで一郎兄さんが、わたし達に気が付いたの。
「何だ?
二人して降りれなくなったのか?」
「うわあああん」
「ぐすっ
お兄ちゃん」
「しょうがないな…」
一郎お兄さんは、わたし達を降ろそうとしてくれたわ。
先ずは千夏を降ろして、次にわたしを降ろそうとしてくれたの。
その時にわたしは、怖さから手を放してしまったわ。
「あ!
まじい!」
「あぶない!」
「うわああん」
どさっ!
わたしはその時、頭から落ちていたらしいの。
そしてお兄さんよりも早く、千夏がわたしの下に入ったの。
「うわああああん」
「えええん」
「だ、大丈夫か?」
わたしが落ちた事で、千夏に当たってしまったの。
それで千夏は、左手に大きな切り傷を負ったわ。
それでも他には外傷は無く、二人は両親にこってり絞られたわ。
そして千夏は、その腕の傷を大事にしてたの。
わたしを守って作った傷を、大事に残していたの。
女の子の腕なのに…。
「千夏…」
「何言ってんの?
私はメドゥーサだって…」
「オレだ!
朱音だよ!」
「知らないわよ!
しつこいわね」
「くっ
本当に違うのか?」
「お兄ちゃん
今は魔物に集中して!」
「そうよ、スカーレット
魔物はまだ居るのよ」
「くっ…」
「さあ、コボルト達よ
その訳の分からん小娘を殺せ!」
「やるしか…
無いのか?」
わたしの感情は、混乱していたわ。
千夏が生きていたのは嬉しいわ。
だけどよりによって、魔物の側の幹部だなんて…。
まるで物語の様な展開に、しかしわたしは攻撃の手が鈍っていたわ。
千夏と戦うなんて、わたしには出来なかったの。
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