悪の幹部登場

わたし達は、その後も魔物化した人々を救って行ったわ

ワクチンに関しては、依然国会での照会に時間が掛かっていたの

それで試しに作ったワクチンも、実践投入は見送られていたわ

あれがもう少し早く、使われれば良かったのに…


「いっけー!

 断罪の鎌サイス・オブ・コンドミネーション

「ぐがあっ」

「怯んだ?」

「ここね!

 灼熱の拳バーニング・フィスト

 はああああ!」

ドガガガ!


わたしの放つ、炎に包まれた拳が炸裂したわ。

この魔法の効果は、数分間継続するの。

その間に身体強化で、一気に拳を魔物に叩き込むわ。

蹴りも同時に叩き込むけど、こっちは燃え上がる事は無いわ。

炎に包まれているのは、わたしの拳だけなの。


ズガガガガ!

「あああああ…!」

「ぐごがぎがあああ…」

「えりゃあああ!」

「があ…

 ぐがあ…」


魔物は炎に包まれながら、そのままゆっくり倒れたわ。

そして炎が、ゆっくりと魔物の魔力を焼き尽くす。


カシャン!

「何とかなったわね…」


魔石が壊れる音がして、魔物の姿が元に戻って行くわ。

今回の魔物は、男が二人で魔物になっていたわ。

だから手前の魔物を燃やしても、すぐには元に戻らなかったの。

それに手前の男の人は、一旦は戻りかけていたのよね。


「ビリシャンの魔法は凄いわね」

「そう?

 スカーレット兄ちゃんの方が凄かったよ?」

「こら

 お兄ちゃんって言わないの

 この格好の時には、魔法少女なのよ」

「はあい」


ビリシャンの魔法は、主に飛行や速度上昇、防御力の上昇だわ。

所謂支援魔法ってやつね。

だけど攻撃に関しても、鋭い風の刃を飛ばす魔法があるわ。

その一つが、さっき使った大きな風の刃ね。

あれだけで魔物も、手前の方は魔物化が解けかけていたわ。


「さっきのは危なかったわね

 魔物化が解けたのに、また魔物に変わっていたわね」

「たぶん二人で一人だったんだろうね

 だからもう一人の魔石が壊れないと、元に戻らなかったんだと思うわ」

「へえ…

 二人で一人なんだ」

「ええ

 二人がくっついて一体の魔物、ケンタウロスってところね

 あれに変身していたのね」

「最近は強い魔物が多いね」

「そうね

 魔物が段々とパワーアップしているわ

 やはり操る者が…」

「そうね

 そう考えないと納得出来ないわ」


誰かが意図的に、魔物化を進めているんでしょうね。

そうして段々と、強力な魔物が生まれているの。

昨日だって、ゴブリンが少し強くなっていたわ。

あれも何か操作してなんでしょうね…。

もっと魔力を収束して、魔法の威力を上げないといけないわ。


「誰かが操っているの?

 それって悪の幹部ってやつ?」

「そうね

 悪の幹部…

 そういうのがしっくり来るわ」

「幹部ねえ…

 じゃあ、誰かそのうち現れるのかしら?」

「かもね

 まあ、わたし達には関係無いわ

 誰だろうと、悪い奴等は改心させる

 わたし達の魔法で」

「そうね」

「うん♪」


わたし達は、街中のホームセンターの駐車場で戦っていたわ。

今日は平日の昼間という事もあって、車は少ないわね。

いえ、今は感染症対策で、外出を控える様にって言ってたっけ?

どちらにせよ、人が少なくて助かったわ。

わたし達はそのまま、ホームセンターから出ようとしてたわ。


ヴヴヴヴ!

「な、何?」

「分からない

 警報?」

「スマホからだよ!

 お兄ちゃん」


わたし達はそれぞれ、鳴っている端末を取り出したわ。

そこには緊急事態という表示と、場所が記されていたわ。

総武線水道橋駅付近と記されていて、都内だと分るわね。


「何?

 どういう事?」

「分からない

 しかし何かあったんだわ!

 蓮見さんからみたいだわ」

「タップしてみたら出るよ」


ビリシャンがタップして、スマホの画面にニュース映像が映し出されたわ。

そこには謎の組織という見出しと、緊急特番に慌てている様子が映っていたわ。


「一体何者なんだ?」

「情報を集めて!

 記者クラブにも詳細を問い合わせて!」

「カメラ入っています」


カメラの確認も忘れるほど、局内は騒ぎに包まれていたわ。

テロップも新たに差し代わり、何者かが声明を発表と出ていたわ。

そしてその声明が、いよいよ映像で流されたわ。

そこには一般の通行人が、いきなり魔物化するところから流されていたわ。


「ご覧ください

 この映像自体は、先月から動画で上げられていた物です」

「こんな事が本当に?」

「特撮や加工された映像ではありません

 政府では詳細を伏せていますが、実は三ヶ月前からこの様な事例が増え続けており…」

「三ヶ月前という事は、例の感染症が始まった頃ですか?」

「ええ

 厚生労働省では、関連は無いという説明ですが、どうも怪しいですね」

「それではこの現象と、感染症の関連が疑われると?」

「ええ

 はっきりと確証は持てませんが…」


その様に、有識者とかいう人達が、映像に関してコメントしていたわ。

だけど肝心の映像は、彼等の後ろのモニターで流されるだけ。

その映像で何者かが、何かを話しているけどその映像は流されないわ。


「ちょ!

 肝心の映像が流れてないじゃない」

「うーん

 何言っているのかも分からないわね」

「こっちの映像で確認出来るよ」


ビリシャンは端末を弄って、別の映像を流したわ。

そっちはニュース特番じゃ無くて、問題の動画をアップした物だわ。

その映像には、魔物化した人々を先導する者の姿が映っていたわ。

それはどう見ても、人間の姿をしていなかったの。


「今こそこの腐り果てた大地を、我々魔物の手に取り戻すのだ!」

「うごおおおお」

「ぎゃあぎゃあ」


そこにはオークやゴブリンを引き連れて、国道を歩く魔物の姿が映っていたわ。


「これはライブ映像です

 繰り返します

 これはライブ映像で…うひゃあ」

「ぐがあああ」


映像を映している人の傍で、急にその仲間が魔物化したわ。

スマホが投げ出されたのか、映像は空を映していたわ。


「マズいわね

 これじゃあ都内は…」

「今まさにパニックでしょうね

 急ぎましょう!」

「急ぐって?

 電車は停まっているよ」

「あなたの魔法があるでしょう?」

「ああ!」


ビリシャンが呪文を唱え始め、飛翔の魔法を全体に掛けるわ。

先程の映像に、あちこちの列車が停まっていると流れていたわ。

恐らく他の交通機関も、影響を受けているでしょうね。

ビリシャンは魔法の操縦を、わたしに委ねて来たわ。


「お姉ちゃん

 操縦は任せるね」

「ええ

 ここからなら、都内もそう遠くは無いわ」

「それじゃあ…

 飛翔フライ


魔法の効果で、わたし達の身体は浮き上がったわ。

わたしは東北東に向きを変えると、先ずはその先の山を目標にしたわ。

そのまま飛んで行き、快速線の線路を目印にするわ。

線路を辿る様に、海を右手に空を飛翔して移動したわ。

そのまま高速で移動すると、1時間ほどで浮力が落ちて来たわ。


「お姉ちゃん

 一旦下りて」

「魔法の効果が切れたの?」

「うん

 やっぱり1時間が限界みたい」

「そう

 一旦下りて休むわね」

「スカーレット!」

「急ぎたいけれど、わたし達がへばっていたら意味が無いでしょう?」

「それは…」


わたし達は道路に下りると、近場の自販機でジュースを買ったわ。

ビリシャンにはオレンジジュース、わたしはPPレモンを購入したわ。


「ぷはー♪

 やっぱり運動の後にはこれね」

「親父臭いぞ」

「中身はおじさんなんで」

「むう…」

「そういうインディゴは、ほ~い♪お茶ばっかりね」

「うるさい」


飲み物を飲んで、わたし達は一息を吐いたわ。

それから再び飛翔して、映像に映っていた場所に向かったわ。

少しして、新宿の駅が見えて来たわ。

そこからさらに、東に向かう必要があるわ。


「映像に出てたのは、この少し左手の東京ドームだわ」

「そうね

 確かにドームに向かっていたわね」

「お姉ちゃん!」


ビリシャンの報告で、その後の映像の話が分かったわ。

彼等はドームの入り口に集まり、警備員と衝突していたわ。

それで何体かは、警備員に殴られて一時的に昏倒出来たの。

でも、魔石を破壊した訳じゃ無いからね。


「魔物は再び起き上がったと…」

「うん

 それと警備の人達も魔物に…」

「あ…

 増えちゃったのか…」

「うん」

「それで?

 東京ドームが占拠されたの?」

「ううん

 今も入り口で、警備の人達が…」

「急がないと」


遠くにドームの白い屋根が見えて来たわ。

間も無く到着するけど、空から見れば一目瞭然だわ。

ドームの前に人だかりが出来ているのが、魔物の群れね。

ここから見えるだけでも、数百人ってところだわ。


「数が多過ぎるわ」

「でも、主にゴブリンばっかりだから

 私とお姉ちゃんの合体魔法なら…」

「そうよ!

 この前試してた、あの合体魔法なら!」

「だけど…

 あれは危険だわ」

「ここなら大丈夫

 魔物はまだ気付いていないわ」

「うう…」


わたしは二人の意見を聞いて、諦めるしか無かったわ。

それにどんなに危険な魔法でも、魔物以外には影響はほとんど無いわ。

むしろ広範囲に発動する魔法だから、魔物化の兆候のある者にも当たるわ。

それで未然に防げるのなら、却って好都合だしね。


「分かったわ

 炎よ!

 わたしの意思に従ってちょうだい」

「か、風よ

 私のお願いを聞いてちょうだい」


二人の詠唱に合わせて、イグニールとウェンディが力を解放するわ。

精霊力が周囲に集まり、凄まじいエネルギーの畝りが辺りを包んだわ。


「燃えろ燃え盛れ

 激しく燃えて、渦を巻け!」

「お願い!

 お姉ちゃんの魔法の手助けをして

 ぐるぐる回って、炎を強く巻き上げて!」

渦巻く焔スゥィリング・フレームズ

渦巻く風スゥィリング・ウィンド


わたし達二人の魔力は、両腕から東京ドームの前の交差点に向けて放たれたわ。

そこで魔力は捻じれて、渦巻き始めるわ。

その様子に気が付き、魔物の内の1体だけが慌ててその場を離れたわ。

でも、残りの魔物達は、そのまま警備員や機動隊と交戦していたわ。

いつの間にか追い着いた、機動隊が後方から挟撃していたのね。


「いくわよ!」

「うん!」

合体魔法ユニゾン・マジック火炎旋風ファイヤー・ストーム

ゴウッ!

ブオオオ!


二人の魔力が一点に集まり、炎の渦巻きが発生するわ。

そのまま炎は渦を巻き、周囲一帯を巻き込んで燃え上がったわ。

これが他の物にも影響があれば、辺りは大惨事だったわね。

だけど炎は、魔物しか焼き尽くさなかったわ。


「う、うわああああ」

「ひいいい

 炎の竜巻だ!」

「大丈夫だ!

 あれは味方の攻撃だ!」

「安心しろ!

 警視庁の寄越した、魔法少女の魔法だ!

 我々人間には効果が無い」

「怯むな!

 今の内に魔物化の解けた者達を回収しろ!」


機動隊員達が、声を上げて指示を出しているわ。

どうやら機動隊員には、わたし達の事は伝わっているみたい。

それで魔物化の解けた人達を、彼等は回収し始めたわ。

でも、まだ火炎旋風の中には魔物が残っているわ。


「まだよ!

 全ての魔物が倒された訳では無いわ」

「さすがに抵抗するわね」

「後は各個撃破だね」


焔の渦巻く中でも、多くの魔物が抵抗していたわ。

だけど魔力は弱っていて、力を失っていたわ。

機動隊員達が、そんな魔物達を拘束して殴り倒していたわ。

倒された魔物は、渦巻く炎に焼かれて元に戻って行くわ。

そうしてわたし達が到着する頃には、ほとんどの魔物は元に戻っていたわ。


「残りはわたし達に任せて」

「いやああああ

 水の一撃ウオーター・ジェット

「はああああ

 風の刃ウインド・エッジ

灼熱の拳バーニング・フィスト

 うりゃりゃりゃりゃあああ」

「ぐごおおおお」

「がああああ」


わたし達は乱戦に飛び込み、魔物を次々と倒して行ったわ。

魔物は先の一撃で、既に弱っていたわ。

だからわたし達は、警備員や機動隊を守りながら魔物を倒して回ったの。

そして機動隊員達が、魔物化が解けた人々を回収して行ったわ。

彼等はほとんどが、仕事で出勤中の会社員だったわ。


「これで!

 終わりよ!」

「ぐがあ…」

ドガッ!


最後の一体を、わたしは殴り倒して元に戻したわ。


「うわああああ♪」

「さすがは魔法少女だ!」

「やった!

 助かったぞ」

「ありがとうございます」


ドームの中では、今日は野球の試合が行われていたわ。

観客は少なかったが、このままでは大惨事になっていたでしょう。

付近に人が少なかったのも、被害を抑えていたわ。

感染症対策が、功を奏した訳ね。


「助かりました

 同僚達まで魔物に変わった時は、もうお終いだと思いました」

「機動隊が来てくれたけど、それでも数が減らなくて…」

「死ぬかと思った…」

「良かった

 観客が巻き込まれなくて」

「観客?

 こんな時に?」

「野球の試合が行われていたんです」

「そしたら駅から魔物が溢れて来て…」


「列車が停められて、そこから魔物に変えられたみたいです」

「列車?

 もしかして地下鉄?」

「ええ

 この時間帯は少ないとはいえ、通勤や移動に使う者も多いので」

「それはまた…」

「それにしては会社員らしき人が多いわね?」

「それは…」


詳細は不明だが、普段はこの辺りに来ない者も巻き込まれていたらしいわ。

それも魔物化の影響で、何者かに操作されていたんでしょうね。

それで普段乗らない地下鉄で、ここまで来た訳だわ。

問題は、彼等が何を目的にしていたかよね。


「しかし何故?

 何でここに魔物が向かって来ていたの?」

「恐らくドームを占拠して、犯行声明を出そうと…」

「報道を見ていないのですか?」

「え?

 そ、そうね、慌てて来たから…」

「お姉ちゃん

 続報が出ているよ」


動画のテロップには、犯行声明が上げられていたわ。

そこには東京ドームを占拠して、人質にするつもりだったみたい。

観客がこの事に、気付いていなくて良かったわ。

気付いていたら、この出入口もパニックになっていたわね。


「悪の幹部…」

「まさか本当に現れるとはね」

「うん…」


そして動画には、その主犯と思しき女性が映っていた。

彼女は組織の幹部として、今回の事件を引き起こしたらしいわ。

そしてその様子が、動画で流されていたの…。

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