第三の魔法少女

その魔法少女は、恐らく一番幼かったわ

見た目も少女らしく、小学生の高学年に見えるわ

それにも増して、口調や仕草も子供っぽかったの

どうやらそれは、中身にも影響されているのね


「やったー♪

 すごいよお姉ちゃん達」


その少女は、嬉しそうにピョンピョンと跳ねていたわ。

彼女は小学生の様な小さな身体で、軽やかに跳ねたわ。

緑を基調にしたドレスは、子供服の可愛らしい物だったわ。

アニメの魔法少女の服を、子供用にアレンジした感じだわ。


「君は?

 君も魔法少女なの?」

「うん♪

 私は魔法少女ビリシャン・グリーン

 風の魔法少女だよ」

「へえ…

 風なんだ」

「そうなの」

「これで魔法少女は、私の水を含めて4人居るのね」

「ブラウンさんが土で、インディゴが水

 わたしの炎が火だから四大属性が揃った訳ね」

「え?

 四大属性ってなあに?」

「ちょっと

 ラノベの読み過ぎじゃない?」

「はいはい

 これでそれぞれの特性は分かったわよね」


蓮見さんの言葉に、わたし達は一斉に振り返ったわ。

今日は蓮見さんの紹介で、三人目の魔法少女との顔合わせだったの。

そこに居り悪く、魔物化した人が現れたの。

それも今回は、コボルトの群れだったわ。

近くのイベントか中止になって、荒れる若者が暴れ出したらしいわ。


「最近イベントの中止が増えていますね」

「そうね

 感染症が原因なんだけど…」

「休みになった店も多いわよ

 そのせいで不景気だって」

「それは大変だわ

 益々魔物が増えるわね」

「え?

 どうして?」


ビリシャンは本当に子供なのだろうか?

魔物が増える理由に気付いていなかったわ。


「そうね

 若葉わかばちゃんはまだ子供だから

 そういうのは分からないわよね」

「うーん

 分んない♪」

「若葉ちゃん?」

「そう

 明日若葉あした わかばちゃん

 まだ小学生なのよ…」

「え?

 小学生?」

「そうよ

 あなた達成人と違って、本当の意味で魔法少女よ」

「へ、へー…」


わたしはジト目で見ている、蓮見さんから視線を逸らしたわ。

そう、わたしは成人である。

それもわたしは、いい年したおじさんでもあるの。

とても魔法少女とは言えないわ。


「はははは

 バレちゃったの?」

「そうね…

 インディゴはしょうが無いわよ

 まさかあんな仕事だなんて…」

「い!

 そ、それは言わないで!」

「え?

 インディゴって仕事してるの?」

「駄目!

 絶対に駄目!」


インディゴは焦って、地声が出てしまっていた。

それはとても、若い女性の声では無かった。


「スカーレットもよ」

「え?」

「調べたらすぐに分かったわ

 でもまさか、あなたが男性だなんてね」

「はははは…

 バレたのか…」

「え!」

「ええ!」


インディゴもビリシャンも、驚いて声を上げていた。

わたしはこの前、幼馴染の千夏の事を調査する様にお願いしたの。

その事を調べれば、すぐに気が付いてしまうわ。

千夏は失踪の少し前に、わたしと事実上付き合っているも同然だったわ。

本人達は否定しても、それは恋人と違わない仲だったもの。

そして事件を調べれば、彼女の交友関係にも気が付くでしょうね。


「千夏さんの周りに居た友達では、そこまで調べようとする人は居ない筈だわ

 あなた以外にはね」

「そうよね…

 みんな巻き込まれたく無くて、避けていたもんね」

「ちょ!

 男って!

 どういう事なの!」

「え?

 お姉ちゃんはお兄ちゃんなの?」

「ちょ!

 インディゴ

 苦しいって…」


わたしが男と聞いて、インディゴが一番焦っていたわ。

わたしの肩を掴んで、ガタガタ揺さぶったわ。


「何で?

 男の人が…

 そこまで可愛い魔法少女になり切れるものなの?」

「え?

 変身したら、性格も変わるんじゃないの?」

「そうだよ

 インディゴも元に戻ったら、イケイケの…」

「シャラップ!

 黙れこの魚!」

「うわあ…

 お姉ちゃんのキャラが崩壊してる…」


ドスの利いた声で、インディゴはマリンの首根っこを掴んだわ。

その様子を見て、ビリシャンも思わずドン引きしてたわ。


「あ、あら失礼

 ほほほほ…」

「インディゴ…

 猫被ってたの?」

「あなたが言わないでよ…」

「はいはい

 そこまで

 あなたは朱音あかねさんで…間違い無いのね?」

「そうよ」

「朱音って…

 やっぱり女の子じゃ…」

「違うわよ

 確かにその名前で、よく弄られていたわよ

 でも男よ」

「名前でも負けてるのね…」

「え?」

「まあまあ

 インディゴも碧璃あいりって可愛い名前じゃない」

源氏名げんじめいじゃ嬉しく無いわ」

「え?

 源氏名?」

「ちょ!

 黙れ!」


わたしは思わず、源氏名という単語に反応してしまったわ。


「忘れろ!

 今すぐ忘れろ!」

「ちょ!

 インディゴ

 苦しいって」

「はいはい

 地が出てるわよ

 それとも昔の名前で呼ばれたい?」

「あん?」

「私は警視なのよ

 当然あなたの過去も…」

「あばばばば!

 止め!

 それは、そこはばらさないで」


蓮見さんの言葉に、インディゴは慌てて土下座をしたわ。

魔法少女が刑事に土下座するなんて、滅多に見れない光景でしょうね。

あ、ビリシャンがスマホで写真を撮っているわ。


「やーめーろー!」

「きゃはははは

 インストにアップしよ♪」

「消せ!

 今すぐに消せ!」

「きゃはははは」

「良いんですか?」

「あの子も今では、加減を知っているわ

 大丈夫でしょう?」

「加減って…」


不穏な内容が聞こえそうで、わたしはそれ以上は突っ込まなかったわ。


「それで…

 何か分かりましたか?」

「全然

 恐らくあなたが知っている以上の事は…」

「そう…ですか」

「それだけこの事件には、関与する者が少ないの」

「事件って…

 言ってくれるんですね」

「ええ

 立派な殺人と誘拐事件よ

 少なくとも、私はあなたや千夏さんが犯人だとは思っていないわ」

「ありがとうございます」


あの事件では、関与出来る者が少ないの。

そもそもが玄関の鍵を、家族以外では持っていなかったのよ。

勿論わたしも、家族ぐるみの付き合いとはいえ持っていなかったわ。

それなのに犯人は、鍵を開けて中に入っているの。

少なくとも、家族か鍵の所在を知る者の犯行って事になるわね。


「それに遺留品が少ないのも決定的ね

 人間では先ず無理でしょうね」

「それでは蓮見さんも、この事件は人間の仕業では無いと?」

「そうね

 少なくとも、異形対策課に回すべき案件だったわね

 それなのに所轄が認めなかったのよね…」


そうなのだ、この事件には別に根深い問題があったの。

よくある刑事ドラマの様に、所轄と本庁の諍いがあったの。

上の人達は、外部の犯行を疑っていたみたいね。

でも地元の警察は、どうしてもわたしか千夏を犯人にしたかったみたい。

それでマスコミに、ある事無い事流したみたいなのよね。


「これは解決出来なかった、私達にも責任があるの」

「そんな

 頭を上げてください」

「でも…

 それで仕事にも就けなかったんでしょう?」

「それは…」

「え?

 スカーレットって仕事に…」

「ああ

 この事件のせいでね

 犯人扱いされたり、内定も取り消されたりで…」

「それだけじゃ無いわ

 マスコミが就職先に突撃して、それでクビになったそうじゃない」

「ははは

 そんな事もありましたね」

「酷い!」

「そんな事って…」

「まあ、わたしも自暴自棄になっちゃて

 それで引き籠っていましたから」

「だってそれって!」

「私達のせいだ」

「違いますよ!

 悪いのはマスコミで…」

「いや

 リークした刑事は洗ってあるわ

 勿論処分もされていたけど…」

「でしょうね…」


情報を流した刑事は、その事でクビになっていたわ。

でも、それでもマスコミは、面白おかしく書き立て続けたわ。

痴情の縺れで、両親を殺害した凶悪犯って。

そして証拠も無くて、アリバイがあるって話も、協力者が居るって書かれて…。

結局騒ぎが下火になるまで、わたしは怖くて外に出れなかったの。

そしてマスコミも、嘘の報道に関して謝る事はしなかったわ。


「スカーレット…」

「これが事件のあらましよ」

「こんな酷い事って…」

「当時は認められていたのよ

 報道の自由って名目でね」

「自由って

 そんなでたらめを書くなんて…」

「そうね

 でたらめだけど、それを嘘って証明出来なかったの

 だからわたしも、未だに被疑者扱いだわ」

「その件は私が、全力を持って解消するつもりよ」

「どうやって?」

「事件の陰には怪異があったのよ!

 あなたが犯人じゃ無いわ」

「でも、世間は怪異だなんて…認めないでしょう?」

「それはそうでしょうね

 でも、犯人は別に居るって事は、認めさせれるわ」

「どうやって!」

「アリバイもちゃんとあるし、あなたが関与していないって証拠はあるわ」


蓮見さんはそう言ってくれたが、正直なところわたしはどうでも良かったわ。

それが周知されたとしても、今さらなのよね。

あの後の事は、今さらどうしようも無いのだから。


「お気持ちだけ受け取ります」

「何で?」

「どうしてなの?」

「今さらですよ?

 それに…」

「それに?」


「就職していなかったから…

 派遣だったから時間があったと思うの

 わたしはそう思う事にしたの」

「でもそれは…」

「刑事さん」


インディゴはそう言って、首を振っていたわ。

彼女はどうやら、わたしの気持ちを察してくれたみたい。

今さら騒いでも、却って厄介事が増えるだけだわ。

それよりも、今は被害者が増えない事の方が大事だわ。


「蓮見さん

 千夏は見付かりそうに無いのよね?」

「それは…」

「良いの

 わたしも遺体でも、見付かれば良いかなって」

「そんな!

 彼女はあなたの大事な…」

「そうだったかも知れない

 だけど…あの時のわたしは…」


わたしと千夏は、付き合ってはいなかったのよ。

お互いに意識する事はあっても、どうしてもあと一歩が踏み出せなかったわ。

その事が、彼女を死に追い詰めたと思った事もあったわ。

だからわたしは…、事件から目を逸らして生きてきたの。

今さらわたしに、事件を批判する資格は無いと思うわ。


「見付かれば…

 違っていたのかな?

 でも見付からなかったのよね

 だからもう、忘れるしか…」

「スカーレット…」

「スカーレットさん」

「おね…

 お兄ちゃん」


「だからね

 二度とこんな事が起きない様にしないと」

「スカーレット?」

「その犯人である怪異もだけど

 魔物化の犯人も捕まえないとね」

「そうね

 この事件も、被害者が増え続ける一方だわ」

「突き止めないとね」

「そうね

 許せない事だわ」

「だけど犯人って?

 誰がこんな事したの?」

「それは…」


イグニール達精霊達でも、犯人の目星は付いていなかったわ。

早く元凶を突き止めて、対処しなければならないわ。


「イグニール!

 犯人はまだ分からないの?」

「う、うん…」

「難しいわね

 そもそも何が目的なのかも分からないもの」

「目的?

 魔物を増やす事じゃあ…」

「それなら最初っから、魔物化する薬をバラ撒けば良いと思う」

「え?

 バラ撒いているんじゃ…」

「それは正確じゃないね

 確かに因子を形成する遺伝子は組み込まれている

 だけどそれが目的なのかどうか…」

「そうじゃない可能性があるの?」

「うん…」

「私達もそれを疑っているわ」


精霊達は、魔物化が目的では無いと考えているみたい。

この感染症をバラ撒いたのは、目的の第一段階って事かしら?


「それじゃあこの先に、何があるって言うの?」

「それは…」

「分からないわ

 でも、魔物化する感染症をバラ撒くだけって、効率が悪いと思うの」

「そう言われればそうね」

「確かに…」

「人為的であるなら、他に目的があるって事か?

 例えば魔物化で国内が荒れている時に、テロ行為とか…」

「まさか…」

「そうよ

 そんな大規模な事を、一体誰が行うって言うの?」

「何処かの国とか?」

「いんぼう論?」


ビリシャンの言葉に、みなが一斉にびくりと反応したわ。

確かにこれでは、テレビの特番の陰謀論だわ。

でも、目的も無しに、あんな感染症をバラ撒くとは思えないわ。

それがテロ行為の下地なら、確かに効果的よね。


「イグニール

 その因子を破壊するには魔法しか無いの?」

「どういう意味だい?」

「例えば薬を作って、因子を防ぐとか…」

「おいおい

 魔法が絡んだ事なんだよ

 それを薬だなんて…」

「いや

 確かに一理あるな」


今まで黙っていた、ビリシャンの肩に止まっていたぬいぐるみが喋ったわ。


「あなた…

 喋れるの?」

「そりゃあ喋れるさ

 私も精霊だもの」

「いや

 喋らないからてっきりぬいぐるみだと…」

「失敬な

 これでも私は、他の二匹と違って博識な…」

「おい!

 誰が馬鹿だって?」

「もう一度黙らせておきましょうか?」

「誰も馬鹿だなんて…」


そのインコのぬいぐるみの発言に、イグニールとマリンが怒っていたわ。

どうやら二人が、このぬいぐるみに発現させない様に見張っていた様ね。

見た目は可愛らしい、セキセイインコのぬいぐるみなのに…。

どうやら彼は、毒舌みたいだわ。


「ウェンディ

 どうしたら良いの?」

「そうだね

 例えば薬に…

 私達精霊の魔力を加えるとか?」

「精霊の魔力?

 私達が魔物を攻撃するみたいに?」

「そう、それだよ!

 精霊の魔力が籠った薬なら、因子ぐらいは消せるんじゃないかな?」

「なるほど…」

「でも、どうやって試すの?」

「そうだね…」


やり方はこれから考えるとして、わたし達はワクチンを作る事にしたわ。

それは感染症が、今のところ効果的な薬が無いから。

ワクチンならば、みんなが予防の為に接種するわ。

そのワクチンに、精霊の魔力を込めておくの。

そうすれば、暫くの間は因子に抵抗出来るわ。


「しかし既に因子がある者はどうするんだい?」

「それは魔法でどうにかするしか無いだろう?

 これまでもそうして来たんだ」

「それもそうか…」

「そうね

 物は試しで、ワクチンを作るって事で

 先ずはそれを試してましょう」


しかしすぐには、そんな事は認可が下りないわ。

蓮見さんが、その意見の陳述書を作って警視庁のトップに渡す事になるわ。

それから国会で討論して、ようやく許可が下りるみたいね。

わたし達はそれまでは、地道に魔物を倒すしか無かったの。

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