新たな魔物

囲んで来た警察官は、総勢で24名だったわ

少女二人と刑事とはいえ、女性の刑事一人でしょう?

この人数は多過ぎると思うわ

しかし彼等は、手に手に警棒を持って迫って来たわ


「そいつ等を抵抗出来ない様に、コテンパンに伸してやれ」

「はい」

「え?

 逮捕って手錠を掛ける物じゃあ…」

「そんなに甘くは無いわよ

 あいつ等は鬱憤を晴らすつもりよ」

「え?」

「最低ね!」

「そう

 最低の連中よ」


この警察官達は、仕事での鬱憤をわたし達で晴らそうって考えみたい。

実際に手にする警棒には、思いっ切り殺気が籠っているわ。

手加減なんか無しで、それこそ殺す気なんでしょうね。

実際に威張ってる刑事は、この後とんでもない発言をするわ。


「その小娘共は殺しても構わん

 殺すつもりで掛かれ」

「え?」

「良いんですか?」

「構わん

 どうせ殺して解剖する予定だ

 キッチリ止めを刺しておけ」

「はい」

「こ、こんな子供を…

 こ、興奮する」

「一度事故に見せて殺してみたかったんだ」

「ひ、ひへへへ」


「信じられない!

 殺すって…」

「何か様子が変だわ

 ここまで腐っているとは…」

「そんな事言ってる余裕は無いわよ」


「こいつ等には日本国民の住民票は無い

 人権が無い以上殺しても問題にはならん」

「拳銃を使っても良いですか?」

「構わんが…

 当てられるのか?」

「へへへ…

 猫以外には初めてだ」

「簡単には死ぬなよ

 楽しめねえ」


「どういう事なの!

 今の発言は問題に…」

「何が問題だ?

 貴様も死ぬ事になっている

 そこの小娘共に殺された事になってな」


蓮見刑事さんの言葉に、刑事はニヤニヤ笑いながら答えたわ。

どうやら蓮見さんも、一緒に殺すつもりの様ね。

しかし警察官達が、真昼間から人殺しをしようなんて…。


「あなた!

 その発言の意味が分かっているの?」

「うるせえ!

 黙れ!」

「な!」

「女は黙って、茶でも汲んでれば良いんだ

 それを生意気にも…」

「何が生意気よ!

 私は資料室に居ただけでしょう?

 それともセクハラをバラされた事?」

「う、うるせえ!

 貴様のせいで、ワシの輝かしい経歴が…」

「輝かしいのはその頭だけじゃない?」

「ぷっ」

「ちょ!

 厭だ、視線がそこに向いちゃうわ」

「ぐ!

 ぬぐうう…」


蓮見さんの言う通り、彼の頭部は輝いているわ。

微かに残滓は残されているけど、それも時間の問題でしょうね。

しかもその残りも、セクハラで謹慎を食らってから減る一方らしいわ。

わたし達は後で、その話を聞く事になるんだけど…。

しかし今は、襲い掛かって来る警察官達が問題だったわ。


彼等はどう見ても、様子がおかしかったの。

目付きもだけど、口元からは涎を垂らしていたわ。

刑事の様子もおかしかったけど、彼等はそれ以上だったわ。


「蓮見さん

 彼等はどうやら…」

「魔物になろうとしているのか?」

「ええ」

「その様ですわ

 目の焦点も合っていませんわ」


「ぐがああああ」

「あひゃあああ」

「くっ!」


わたしは炎を出しながら、殴り掛かって来る警察官の攻撃を止めたわ。

拳から炎が伝わり、2人の警察官が燃え上がったわ。

やはり彼等は、魔物化し始めているのね。

わたしの炎で燃え上がっているのが、何よりもの証拠だわ。


「こ、このっ!

 抵抗する気か!

 射殺しろ!」

「本気なの?」

「マズいわね…」

「大丈夫だ!

 当たらなければどうって事無いさ」

「言ってくれるわね」


イグニールは、簡単そうに言っているけど難しいわね。

しかも拳銃での攻撃は、わたしにとっては初めての経験だわ。

あの時だって、わたしは警棒で殴られただけだったの。

拳銃の弾が、避けられるか自信は無かったわ。


「食らえ!」

「し、しにぇえ」

ダンダン!


警察官が死ねだなんて、物騒よね。

わたしは拳銃の先が、赤く光るのを見たわ。

それに合わせる様に、身体にひりつく様な感覚を覚えたの。

そこを動かして、拳銃の先からずらしたわ。

するとそこに、何かが飛んで抜ける感覚がしたわ。

今のが拳銃に撃たれるって感覚なのね。


「な!」

「避けただと?」

「こいつ…」

「やはり化け物だな!

 早く殺せ!

 こいつを野放しにするな!」

「はい」


刑事の言葉に、警察官達は銃を乱射したわ。

わたしはそれを避けながら、インディゴの方を見たの。

わたしは避けれても、インディゴには無理だと思ったの。

そしたらインディゴは、魔法でそれを防いでいたわ。


「くうっ」

「インディゴ?」

「大丈夫

 悪意が籠っているから

 私の魔法でも防げるわ」


それは即ち、警察官が悪意に染まっている証拠ね。

そして警察官達は、無茶苦茶に発砲して来たわ。

インディゴが押さえた弾以外は、辺りに跳弾して飛んで行ったわ。

周りに警察官以外居ないけど、居たら大変な事になっていたわね。


「ちょ!

 これは!

 危険だわ!」


蓮見刑事さんは屈んで、インディゴの後ろに避難したの。

それで取り敢えずは安心だけど、警察官達の方に跳弾が飛んだわ。

彼等は跳弾を受けて、数人が負傷していたわ。


「くそっ!」

「よくも撃ち返して来たな!」

「何言ってんのよ

 あなた達の跳弾でしょ?」

「うるせえ!」

「小娘が!

 とっつ構えてヒイヒイ言わせてやる!」

「うわっ!

 キモ…」


わたしは気持ち悪い発言をする、警察官達を睨んだわ。

だってあの警察官達は、わたし達を捕まえていかがわしい事をしようと考えているのよ?

なんて事かしら。

彼等も負の魔力に侵されて、負の感情に包まれているのね。

それで悪い感情が、大きくなっているのだわ。

そして案の定、負の感情が爆発したわ。


「ぐ…があ…」

「ああああああ」

「何だ?

 どうしたんだ?

「がああああ」


先ずは数人の警察官が、オークに変貌し始めたわ。

次いでそれを見て、残りの警察官達もコボルトに変わり始めたの。

オークはわたし達に欲情していた警察官達ね。

そして残りは、欲情よりも暴力に酔っていた警察官達だわ。

彼等は負の感情に酔いしれて、魔物化し始めたの。


「がああああ」

「ひ、ひいっ!」

「くそっ!

 魔物化したのか?」

「ええ

 あれだけ醜い感情を晒していればねえ…」

「全く…

 厄介だわ」


しかし魔物化した事で、彼等は拳銃を持てなくなったわ。

魔物の手では、拳銃が小さくて持てないのね。

ゴブリンみたいに小型の魔物でなくて良かったわ。

わたし達は魔力を持って、魔物を攻撃する事にしたわ。


「蓮見さん!

 魔物はわたし達がなんとかするわ

 他の人が巻き込まれない様に…」

「大丈夫よ

 ここには滅多に人が来ないし、裏口には警備も居るわ」

「え?

 だけど誰も来ないけど?」

「それは…」


裏口の警備が居る筈なのに、誰もここには来なかったわ。

拳銃の発砲音が聞こえた筈なのに、誰も来なかったの。

これは警備の警察官達も、この件に絡んでいると考えた方が良いわね。


「うがあああ」

「邪魔よ!

 燃えなさい!」

ボウッ!


わたしは最近覚えた、拳を燃やして殴り付ける攻撃で魔物を殴ったわ。

蹴りにも炎を着けれるけど、意識するのが難しいのよね。

だから蹴りよりも、なるべく殴って弾き飛ばすわ。


「インディゴ!」

「任せて!

 水の障壁ウオーター・フィールド


インディゴは腰の杖を引き抜くと、そこから水の玉を出したわ。

それで数体の魔物を包み、動きを鈍らせたの。

そのままでも倒せるけど、元々攻撃が目的の魔法では無いの。

だから閉じ込めて、動きを鈍らせるのが主な使い方だわ。

魔法の水玉は、オーク6体を包んで閉じ込めたわ。


「今の内に…

 てやあああ」

ドガッ!

ガスッ!


わたしはその隙に、残るオーク2体を拳で殴り付けたわ。

そうして怯んだところで、そのまま掴んで燃やしたの。


「やああああ」

「うがああああ」

「があああ…」


オーク2体は燃え上がり、そのまま元の姿に戻ったわ。

わたしはそのまま、気絶した警察官を放り出したわ。

そして残る、コボルトの群れに視線を向けたわ。

コボルトは、人数で士気が大きく変わるわ。

しかしオークが簡単にやられたので、わたしの視線に怯えていたわ。


「炎よ!

 燃え盛り魔物の悪しき力を焼き尽くせ!」

「詠唱?」

「いっけー!

 スカーレット!」

燃え盛る炎ブレイジング・フレイム

ズゴオオオ!


わたしは詠唱をして、両腕を前に突き出したわ。

そこに魔力を集めて、一気に魔物の群れに放ったわ。

突き出した掌から、炎が噴き出して魔物を包んだわ。

炎は魔物だけを包み、周りの木には引火しないから安心ね。


「な!

 これでは火事に!」

「大丈夫よ

 私達の魔法は、魔物にしか効かないから」

「え?」

「見て

 木は燃えていないでしょう?」


蓮見さんは慌てていたけど、木は燃えていないわ。

魔物化した警察官だけ、包んで燃やしているわ。

そうして魔物化が解けた警察官は、元の姿に戻って倒れるわ。

そのまま放って置けば、直に意識も戻るでしょう。

わたしは一気に、コボルトの群れを燃やし尽くしたわ。


コボルトはそこまで強く無いけど、厄介な魔物なの。

数に物を言わして、一気に襲い掛かって来るわ。

怯んでくれたお陰で、楽に倒せて良かったわ。


「ふう

 後はオークを…」

「な…」


残るはオークになった警察官と、煽っていた刑事だけになったわ。

だけど問題は、あの刑事が魔物化していない事ね。

感染症に罹っていないのなら、魔物化しなかった事も納得出来るわ。

だけどあの刑事は、警察官と一緒に居たの。

魔物化していないのが不思議なのよね。


「だけど先ずは…

 火球ファイヤー・ボール


わたしは意識を集中して、一気に三つの火球を作り出したの。

それをオークに向けて、投げ付けたわ。

インディゴがタイミングを合わせて、魔法の水玉を解除したわ。

それで弱っていたオークに、魔法の火球が命中したわ。


ボガン!

「ぐぎゃあああ」

「ごがあああ」


「な、何て事を…

 私の部下達が!」

「何が部下よ!

 勝手に警察官を動かして

 責任問題よ!」

「うるさい!

 おのれ…」


この段になって、刑事の様子がおかしくなったの。

そこに騒ぎを聞きつけたのか、数名の刑事と機動隊員が現れたわ。

彼等は透明な盾を手に、警戒しながら警察官達に近付いて行ったわ。

だけど刑事は、様子がおかしくなっているのよ。

危険だわ。


「よし!

 魔物化の確認と鎮圧を確認した

 警察官達を確保しろ」

「亀戸刑事も確保しろ」

「おい!

 大人しく…」

「ぐ…

 があああああ

 よぐもよぐもおおおお」

「おい!」

「こいつ!

 魔物に!」

「危ない!」


刑事の身体が、急激に大きくなったわ。

まるで特撮の様に、彼の身体は2mを超える大きさになったわ。

そして体色は赤銅色になり、筋骨隆々とした姿になったわ。

そして危険を察して、インディゴが障壁を機動隊員達の前に張ったわ。


魔法の障壁マジック・シールド

「うわっ!」

「ひえええ」

バシュッ!


インディゴが咄嗟に張った、魔法の盾が魔物の攻撃を防いだわ。

だけど力が強くて、その一撃で障壁は消えてしまったわ。


「危ないから離れて!」

「あわわわ」

「急いで!

 くっ!

 このおお!」

「ぐもおおおお」

ドガッ!


刑事だった男は、大きな牛男に変わっていたわ。

ゲームに出て来る、ミノタウロスって奴ね。

わたしは咄嗟に前に出て、ミノタウロスの追撃を受け止めたわ。

それは思ったよりも重く、身体強化したわたしでも受け止めるのがやっとだったわ。


「ぐうっ…

 重い…」

「スカーレット!」

「わたしは大丈夫!

 みんな離れて!」

「分かったわ

 みんなあの魔物から離れて」

「あ、ああ」

「急ぎなさい!

 足手纏いになるわよ」

「みんな距離を取って…

 警察官達を運ぶんだ」


蓮見さんと、後から来た刑事さんが機動隊に指揮を出したわ。

それで機動隊員達も、警察官達を運ぶ事に集中したわ。

わたしはそれを横目に見て、魔物の方に向いたわ。

こいつは強いから、油断は出来ないわ。


「スカーレット!

 無茶だ!

 今の君では、まだその魔物の魔力には…」

「そんな事言ってる場合じゃ無いでしょう!

 やるしか無いのよ!」


この魔物には、さすがに拳銃は効かないでしょうね。

あの筋肉の鎧は、見せかけだけでは無いと思うわ。

それにわたしの攻撃も、効いている様には見えないわ。


「負けないわ…」

「ぐがああああ」

「くうっ!」

ドガッ!

ガスッ!


魔物は太い腕で、乱雑に殴り掛かって来たわ。

わたしはそれを、力を込めて殴って弾いたわ。

だけど炎を込めても、魔物にはやはり効いていなかったわ。

わたしはなんとか、力で魔物の攻撃を防ぐ事しか出来なかったわ。


「くうっ

 つ、強い…」

「ぐがあああ」

「スカーレット!

 ああ…

 どうすれば…」

「インディゴ

 何か魔法で攻撃出来ないか?」

「無理よ!

 元々私は、攻撃の魔法なんて知らないし…」

「ゲームや物語の真似でも良いんだ!

 必要なのはイメージと魔力なんだ!」

「だけど…」

「イグニール

 無理を言うな!

 元々インディゴは、防御と回復の魔法が主なんだ」

「だけどこのままじゃあ…」


わたしは魔物の攻撃に集中していて、彼等の会話は聞いていなかったわ

だけど聞いていても、わたしも反対したでしょうね。

インディゴは優しい性格で、攻撃は得意じゃ無さそうだし…。

それにゲームをしている様には見えなかったわ。


「ぐがあああ」

「くっ…

 この…」


わたしは必死になって、魔物の攻撃を防いでいたわ。

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