広まる不安
わたしは刑事さんに会った後、再びインディゴと出会う事が出来た
お互いの連絡先を交わす事は無かったが、それは仕方が無い
わたし達は魔法少女で、その正体は隠す必要があった
だから身元が割れる様な、連絡先は明かせなかった
「ふうん…
それで給料も入る様に?」
「そう
先ずは魔物化した人達を救った分が支払われて…」
わたしはインディゴに、刑事さんから給金を頂いた事を話した。
最初はインディゴは、あまり興味無さそうにしていた。
インディゴも魔物と戦う為に、仕事が出来ない事は悩みだった。
しかし彼女は、ある程度は生活費に余裕がある様子だった。
「なるほどね
だけどそうなってくると…」
「定期的に警察と連絡を取る必要はあるわ」
「それって鈴を付けられたって事よね」
「鈴?」
「そう、鈴
あなたは気付いていないけど、警察にマークされているのよ」
「うえ?」
インディゴの説明は、警察がわたしをマークしているという物だ。
犯罪者でも無いのに、わたしを見張っている事になる。
それは警察が、わたしを危険視している可能性があるという事だ。
あの刑事さんは、その様な素振りは見せていない。
むしろ同情して、心配していてくれていたと思った。
「でも刑事さんは…」
「甘いわね
その刑事も閑職に就いていたのよね?」
「それは…」
「そして上では、魔物という存在を認めていない
そうなってくれば、あなたが暴行して気絶させた事に出来るの」
「そんな!
わたしは魔物になった人が、暴れない様に…」
「そうよね
だけど実際には、あなたに暴行されて気絶した市民が倒れていた
しかも魔物化していた記録は無い」
「だけど目撃者も…」
「目撃者が居ても、証明出来ないでしょう?
それに加害者は、記憶を失っている
あなたには不利な状況よ」
「う…」
インディゴに言われるまで、わたしはそれに気付かなかった。
「今度刑事に会う際には、気を付ける事ね」
「気を付けるって…」
「その刑事は兎も角、他の警察はあなたを疑っているでしょう?
犯罪者に仕立て上げられない様に気を付けないと」
「そ、そうね…」
わたしもそうだが、インディゴも警察には思うところがある様子だった。
わたしは過去の事を思い出して、怖くなっていた。
そんなわたしを見て、インディゴは優しくわたしを抱き締めてくれた。
「ほら
そんなに震えないの」
「だ、だって…」
「あなたも辛い過去があるのね…」
「え?」
「私も…
いえ、詳しく話せないわね
だけど警察には、悪い奴も居るわよ」
「悪い…奴」
「そう
真面目に市民の為にって人も居るけど、中には自身の利益しか考えない者もね…
だから気を付けてね」
「うん…」
インディゴは、次に警察に向かう時は一緒に着いて来てくれると言ってくれた。
それはインディゴも、魔法少女だからだ。
彼女も魔法少女である以上、いずれ警察にマークされるだろう。
その前に、警察に有利な状況で交渉しようというものだった。
「あなた一人では心配よ
わたしも一緒に行くから」
「でも…」
「大丈夫
それまでに手は打っておくわ
それには一般の市民の手助けも必要ね」
それは少し危険だが、一般市民に協力してもらう事だ。
彼等に魔物を証明してもらって、世間に広く公表しようという物だ。
それは単なる証言だけでは無く、証拠を提示する事だった。
それは流行りの動画で、魔物を公表するというものだった。
「動画って…」
「最近流行っているでしょう?
動画を手軽に投稿するサイト」
「う、うん…」
わたしも、その手のサイトのお世話にはなっている。
ニュースや流行歌、最近では事件の検証動画なんて物もある。
インディゴが言うのは、そのサイトに一般人から投稿してもらおうというものだ。
そうなれば、証拠となる映像がアップされる事になる。
市民からの投稿なら、やらせで撮影された事にはならない。
「でも、それならわたし達が…」
「ううん
私達だと駄目なのよ
やらせだと思われるわ」
「でも、それなら投稿も…」
「投稿なら大丈夫
それも一件や二件じゃなければ信憑性が増すでしょう?」
インディゴの考えは、数件の投稿を目撃者にさせる事だ。
実際に既に、何件か投稿されている。
後に削除されているが、これは政府か警察がそうしているのだろう。
パニックを助長するとして、アップロードされた物を削除している。
「既に削除されていたけど、私も何件か見たわ」
「それは警察じゃないかな?
人間が魔物になるだなんて…」
「そうね
信憑性が増せば、パニックの原因になるわ
それは政府も警察も、黙っていられないでしょう」
「それなら…」
「重要なのはそこじゃ無いわ
勿論、魔物化への警告も必要だわ
だけど私達に重要なのは、魔法少女が実在するって事」
「あ…」
「あなたや私が、魔法を使ったところ
それから飛翔しているところも映っていたわ」
「へえ…
そうなんだ」
「何をのんきな…
スパッツとはいえ、真下から撮影していたのよ?
それも下半身を念入りに拡大して…」
「うえ!
キモい!」
「そうね
本人はロープやワイヤーが無いか検証したかったって言ってたけど
案の定叩かれていたわ」
「それは…まあ…」
どう言い訳をしようと、少女の下半身を下から熱心に撮影していた。
しかもそれを、動画投稿アプリで公表したのだ。
見る者も当然、そういった興味で見ていただろう。
わたしは下半身を、じっくり見られる感触に身震いする。
それは中身がおっさんでも、やっぱり気持ち悪いと感じるものだ。
「そんな動画なら…」
「ええ
即時削除されていたわ
だけど私は、その動画であなたの存在を知ったの」
「え?」
「仲間が居るって事は、マリンに聞いていたわ
だけど動画を見るまでは、その事は信じられなかった
というより、私が魔法少女になれた事の方が信じられなかったけどね」
「ふふ
それはわたしも」
わたし達は笑いい合いながら、投稿された動画を探した。
探してみれば、確かにその様な動画が投稿されている。
しかも元の動画は消されていたが、ご丁寧に誰かがコピーして拡散していた。
それを加工したり、自身の動画チャンネルの為に公表していたのだ。
「スカーレットたんカワユス!」
「はあ、はあ
生足が下から見えるウ」
「キモっ!」
「これはさすがに引くわ…」
「新しい魔女っ娘発見!
水色の清楚系キター!」
「私って清楚じゃないのにね」
「そうなの?」
「そうよ
夜はこれでも…
ってそうじゃない!」
「え?」
「聞かないで!
今のはナシナシ!」
インディゴは何か言い掛けたが、慌てて首を振っていた。
夜と言っていたが、夜になるとどうなるのか?
気にならない訳じゃ無い。
だけどインディゴに悪いと思って、それ以上は尋ねなかった。
「とにかく!
これである程度広まっているのは分かったわよね」
「そうね」
「だから疑って来る警察がいれば、これを見せれば良いわ」
「あ…
でも、いつまで残っているかな?」
「それは大丈夫よ
結構拡散されているから」
「そうなの?」
「ええ」
動画は二次加工や三次加工を含めると、結構な数に上るらしい。
それも日に日に、新たな動画が公開されている。
実は先日の、列車内での戦いも記録されていた。
しかもご丁寧に、刑事さんに連れて行かれるところまで。
「これは…」
「モザイク掛かっているけど、大丈夫かな?」
刑事さんは、撮影者に警察とバレていた。
一応私服なのだが、スーツなのがマズかったのだろう。
こんな状況で、親族や関係者が現れる筈も無いだろう。
だから私服警官に、事情聴取を受けていたとされていた。
しかもこの映像は、喫茶店の中の会話まで記録されていた。
ほとんど聴き取れないか、加工されて音声は消されている。
その中には、魔物がどうやって現れるか言及されていた。
しかしそれは、あくまでも負の感情で魔物化する事だけピックアップされていた。
そして画面には、強い負の感情を持たない様にしましょうと注意喚起がされていた。
「これ…
撮影は分からないけど、この動画は警察か政府の関係者よ!」
「え?」
「だってこの動画の加工技術って、普通じゃ出来ないレベルよ」
「そうなの?」
最近の動画投稿アプリは、手軽に色々と出来ると聞いている。
それにパソコンでも、簡単に動画編集が出来るらしい。
そう考えると、インディゴの考えは間違いな様な気がした。
「最近のパソコンって…」
「違うわよ
それは私も知っているわ
だけど技術の問題なの」
インディゴはそう言って、動画の画像を拡大する。
ピンチアップで拡大しても、画像は粗くなる事は無かった。
それだけこの画像が、鮮明に作られている事が窺える。
しかも文字フォントや、色も工夫してあるらしい。
これだけ手間暇掛けた物なら、テレビか大物の配信者としか考えられないらしい。
「大物の配信者なら、自身のチャンネルに投稿するでしょう?」
「それもそうか…」
「それにこの文字の特徴…」
インディゴは政府主催の、啓発動画のサイトを開く。
その中には、飲酒や喫煙の注意なども記されている。
そういった啓発を、動画で公開しているのだ。
「これなんか似てるでしょう?」
「え?
これって…」
「いや、私も女の子だし
少しは気になるでしょう?」
「そりゃあ…まあ…」
そこには乳がん検診の注意点や、重要性を訴えてあった。
そしてその文字の使い方は、確かにこの動画に似ていた。
「ね?
この文字とか似てるでしょ?」
「そりゃあ同じソフトを使えば…」
「それじゃあ、これは単なる偶然だと?」
「確証は無いんじゃない?」
「それはそうだけど!」
言われてみれば、確かにその動画の文字はよく似ていた。
動画は政府が推奨する、乳がんの定期健診の紹介をする動画だ。
乳がんは罹る可能性も高く、リスクの大きな病だ
しかし定期検診を受けるのは、仕事をしているとなかなか難しい。
わたしはこの時、わたしも検診を受けるべきか考えていた。
身体は元は男だが、変身中は魔法少女になっている訳だ。
この状態なら女性特有の病に罹る可能性があるのか、わたしは確認していなかった。
わたしは後で、イグニールに確認する事にした。
「そもそも政府の、啓発動画を作る会社?
なんでそこがこんな動画を作るの?」
「私の考えでは、これは公表する為に作ったんじゃないかな?
そう考えているの」
「公表する為?」
「そう、魔物の事を発表する為ね」
「何で?
発表するならそのまま政府が公表すれば良いじゃない」
「さっきも言ったけれど、それじゃあ駄目なのよ
市民がパニックになるわよ」
インディゴが考えていたのは、政府が公表する為の布石という事だ。
いきなり発表するのでは無く、先ずは負の感情で魔物になると公表する。
それと同時に、魔物から戻す為に謎の魔法少女が戦っている。
こう発表する事で、少しでも安心させようという魂胆なのだ。
「魔物化の発表は重要だけど、治ると分れば安心でしょう?」
「それでこの動画が?」
「そうね
この動画を見れば、今までの魔法少女の動画が真実だったとなる
政府が私達を認めたって事ね」
「認めたか…
それなら刑事さんに会いに行けば…」
「それは確証は無いわよ」
「え?」
「政府が認めただけで、警察に確認された訳じゃ無いでしょう?」
「でも刑事さんが…」
「あなたねえ…
甘いわよ」
インディゴは、警察との間に何かあったのだろうか?
警察の事を信用していなかった。
「刑事さん?
この女性に会って、魔法少女として認められているか確認しないと
場合によっては暴行未遂で捕まる可能性もあるわよ」
「え?
何で暴行未遂?」
「こっちは助ける為にやっていても、それを実証できないでしょう?」
「実証って…
現に魔物化から戻った人達が…」
「それが私達が戻したって証拠は?」
「へ?」
「意地悪を言いたいんじゃないのよ
そう言って、認めようとしない可能性があるの」
「そうよね
確かにその可能性もあるのね…」
わたしも言われてみれば、そういった経験がある。
これは刑事さんに会った時に、念入りに確認する必要があった。
「ねえ、インディゴ」
「今度刑事に会う話よね」
「ええ」
「勿論一緒に行くわ
あなただけだと心配だし
私にも関りがある事だからね」
インディゴはそう言って、ニッコリと笑っていた。
彼女はこうやって、しっかりとした判断を出来る人だわ。
わたしみたいに突っ走るだけでは、色々と問題もある。
彼女がいる事で、わたしは安心して戦いに専念出来るわ。
「それで?
どうやって会いに行くの?」
「それがね、ちょうどこの日に会いに行く約束があって…」
「その日は大丈夫だけど…
どうやって行くの?」
「それは列車に乗って…」
二人で乗る列車を決めて、その時刻を決める事にした。
スマホで検索をして、詳細な時刻を決める。
「ふふふ
魔法少女が乗り込んでいるなんて
気付かれたら騒ぎになるわね」
「大丈夫よ
中にはじろじろ見る人も居るけど、案外気にしないわよ」
「日本人特有の文化ね」
「あ…
あはははは」
わたし達は列車と時間を決めてから、その場で別れた。
次に会う約束をしているのは、警視庁に向かう時になる。
それ以外に、魔物と遭遇しなければだが。
わたしは周囲を調べ、魔物化の兆候が無い事を確認する。
それから安心して、家に向かって帰る事にした。
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