魔法少女、街に行く

新たな仲間を得て、オレは魔物と戦い続けた

しかしオレも、生きて行くには生活費も必要だった

一月経った頃、オレはその事に直面する

魔物と戦う事で、オレは仕事をしていなかったのだ


「今日もコンビニ弁当かい?」

「うるさいなあ

 しょうがないだろう」

「ブルーは自炊らしいぞ

 見習ったらどうだい?」

「自炊って…

 そんな暇が無いだろう」


オレは日中はそこまで、魔物と戦う機会は少なかった。

しかしいつ来るか分からなくて、派遣の仕事は受けていなかった。


いや、魔物の件が無くても、派遣の仕事自体が無かったというのもある。

そもそも感染症が流行していて、あちこちの工場が休業している。

それに加えて、政府でも最近では外出を控える様に呼び掛けている。

それでスーパーでも食材が不足して、コンビニ弁当が買えるだけましだった。

買えない日には、スパゲッティやうどんを茹でるしか無かったのだ。


「栄養が偏るぞ?」

「野菜は食ってるさ」

「野菜って…

 そのサラダ?」

「うるさい」


懐に余裕があれば、もう少しマシな食事が出来る。

しかし収入が止まっていて、オレは食費を抑えるしか無かった。


「そもそも魔物を倒しても、金が入る訳じゃ無いしな…」

「え?」

「ん?」


ここでイグニールが、急に動きを止める。


「おい!」

「いや

 魔物化した人から、財布を回収とか…」

「それは犯罪だろう!」

「だよね」

「はあ…

 お前に期待したのが馬鹿だった…」


「そもそも

 お金が無いって何でなの?

 政府から資金はもらって無いの?」

「政府って…

 警察じゃああるまいし」

「え?

 警察からもらえるでしょう?」

「はあ?」

「あれ?」


ここで先日の、インディゴとの会話を思い出す。

インディゴも給料が止まって、助成金で何とか食い繋いでいた。

その話を聞いて、オレは貯金を切り崩している話をした。

その時もマリンが、何か言い掛けていた気がした。


「なあ

 何か隠していないか?」

「そ、そんな事…」

「怒らないから、素直に言いなよ」

「そう言って、言ったら怒るくせに」

「怒る様な内緒な事があるのか?」

「え?

 まさか?

 はははは…」


「例えばさっきの言い方から、先代の魔法少女は警察官だったとか…」

「それは無いよ

 彼女は単なる非常勤の外注異形対策課だから」

「害虫偉業…

 何だそりゃ?」

「違う違う!

 外注の異形対策課だよ

 異形に対する非常勤の捜査官で…」

「それで魔物を倒して、金をもらっていたと?」

「ちょっと違うかな?

 魔物じゃ無くて、異形と呼ばれる正体不明の化け物ね

 魔物はその頃は…というかそもそも魔物という概念が…」

「要は化け物退治のスペシャリストか」

「そんな感じかな」


オレの言葉に、イグニールはうんうんと頷いた。


「そうなると、オレもその異形…何たらじゃ無いのか?」

「そうだね

 まだ政府が、魔物を認めていないから…」

「認めたのなら、オレにも給金が入るのか?」

「そうだねえ…

 そもそも既に、給金はもらえる基準に達している筈なんだ」

「それじゃあ何で?」

「誰がどうやって、魔物を人間に戻しているのか確認が取れていないからね」

「先代がやったと思われているのか?」

「それは無いよ

 スカーレットの姿も目撃されているし」

「それじゃあ何で?」

「そりゃあスカーレットの正体が不明で…」


そこまで話したところで、イグニールはハッと動きを止める。


「イグニール?」

「あはははは…」


イグニールはやっぱり、オレ達に言い忘れている事が多い。

その後に連絡を取って、オレは警察の異形対策課に面会する事になる。

ただし変身して、魔法少女になった状態でだ。

彼等は魔物を倒したのは、スカーレットという魔法少女と認識している。

それにオレとしても、中身を知られる事は死活問題だった。


「それで?

 何処で待ち合わせる事になったんだい?」

「それが…」


しかし異形対策課ともなれば、地方には支所も存在しない。

元々が都内に本部があり、そこから一々出向いていたのだ。

だから最初のコンタクトも、当然都内に出て来いという事だった。

向こうも本物か分からない相手なので、警戒をしていた。


「何でこっちが出向かなきゃ…」

「まあまあ

 向こうは信用していないみたいだし

 わたしの様な少女と侮っているんでしょう?」

「そうだとしたら、馬鹿にしているよ

 誰が代わりに戦ってやってると…」

「そう言わないの

 わたしも給料が入るだけ助かるわ」


異形対策課の方でも、謎の魔法少女は把握していた。

しかし正体が分からず、その活動も疑問視されていた。

しかし契約であるので、討伐費は用意されていた。

そして専用の口座に、それは纏められているという事だった。

わたしはブルーの分も、代表して預かる事にした。

それで都内に向けて、列車に乗って移動する事にする。


「目立っているよ…」

「仕方が無いでしょう?

 既に魔法少女は都市伝説になっているわ

 それに…」


我こそは魔法少女だと、コスプレした偽物も出回っている。

しかしそんな者が、本物の魔物に遭遇したら大変な事になる。

わたしはその事も、対策課に報告しようと思っていた。

なんせ駅に向かう間にも、既に3人の痛いお姉さんを見掛けたのだ。


「だからって何も変身して…」

「だって変身してないと、途中じゃ変身できないでしょう?」

「トイレとか…」

「それはそれで、マズいでしょう

 それにあちこちに監視カメラもあるのよ」

「見られる可能性があるのかい?」

「ええ

 だから多少目立っても、変身してた方が良いの」

「そうかい?

 スカーレットがそれで良いなら…

 おいらは構わないけど」


イグニールが不満そうなのは、何となく解る。

この格好だと目立つし、イグニールも注目される。

しかし変身して行かなければ、何処かで変身する必要がある。

まさか異形対策課の前で、変身する訳にはいかない。

それは何も、変身するのが見苦しいだけではないからだ。


「身バレは嫌だからね

 それに変身を見られたく無いし」

「そうだね

 あれは見せる物じゃあ無いよ」

「分かってるなら言わないで」

「そうだけど…」

「大丈夫よ

 今は変身してるから、危険も少ないでしょう?」

「だけど悪意ある人間からは…」

「え?」


イグニールの心配は、スカーレットが悪意ある人間に遭遇する事だった。

人間の中には、自分の思い通りにしようとする者も多い。

そんな者がスカーレットに近付けば、無用な争いに巻き込まれるだろう。

イグニールは、それを心配してたのだ。


「だって…

 千夏ちゃんだっけ?

 あの子の事もあるし…」

「ああ

 そういう事ね

 だけど悪意は感じれるんでしょう?」

「そうだけど…

 スカーレットは人間と争いたくは無いでしょう?」

「それはそうだけど…」


悪意を持つ人間は、無理矢理従わせようとする。

それも自分がそうするのが、当然だと思って行動する。

だからスカーレットに、武器を突き付けて襲い掛かる可能性もある。

特に魔法少女なので、見た目は可愛らしい女の子なのだ。

相手は力尽くで、何とか出来ると考えるだろう。


「大丈夫よ

 わたしの今の力なら…」

「だけど拳銃が…

 どこまで防御が効くか保証出来ないよ」

「ありがとう

 そうならない様に、わたしも気を付けるわ」

「うん…」


わたしはイグニールを撫でながら、そのまま快速に乗り込む。

その姿を見て、周りの人達もひそひそと話していた。

そして相変わらず、男の目線は厭らしかった。

可愛いとか言いながら、目線はその身体を嘗め回す様に見ている。

わたしは溜息を吐きながら、その視線を無視する事にする。


しかし都内に近付くに連れて、その視線は増えていた。

こんな目立つ格好をしているのだから、それも当然だろう。

そしてこういった時には、必ず馬鹿な男が近付いて来る。


「おい!

 お嬢ちゃん!」

「オレ達と遊ばないか」

「へへへへ

 良い薬があるぜ」

「はあ…」


既にこいつで、何人目だろう?

わたしは溜息を吐いて、その男達を睨んだ。

男達はわたしの視線に、少しだけ怯んだ。

しかしこいつ等は、先ほどまでの雑魚とは違っていた。


「おい!

 シカとかよ!」

「オレ達を舐めんなよ」

「ひん剝いてやろうか?

 ああん?」


こいつ等は、少し腕に自信がある様子だった。

睨んだ程度では、わたしから離れようとしない。

しないどころか、無理矢理手を掴んで押さえ込もうとして来た。

しかしわたしも、身体強化の魔法がある。

この程度の男では、わたしには敵わなかった。


「くっ!

 こいつ…」

「下手な抵抗は止しな!

 痛い目を見たいのか」

「あら?

 抵抗?」

「スカーレット」


わたしはわざとらしく、すっとぼけてみせる。

しかし男達は、ナイフを取り出して構えて来た。

こんな白昼堂々と、列車内で刃物を出すなんて…。

わたしは呆れながら、男の手を逆に捻る。


「何だこいつ?」

「ぬいぐ…あ痛ででで!」

「おい!

 何しやが…ぶっ」

ガッ!


わたしは軽く、裏拳で一人の顔面に入れる。

その際に、魔力も少し込めておいた。

そうする事で、負の魔力を持って入れば消し去る事も出来る。

案の定、そいつは転げ回って痛がっていた。


「ぎゃああああ」

「こいつ!」

「ふん!」

「おがあ…」

ドスッ!


二人目の男も、少し負の魔力が漏れていた。

しかし殴って事で、その魔力も霧散する。

やはりわたしの魔力は、負の魔力を打ち消せるみたいだ。

この調子なら、魔物化する前に無効化出来るだろう。

こんな所で魔物化すれば、色々と厄介だ。


「こ、こい…

 があああ」

「スカーレット!」

「ええ!

 せい!」

「ぐぎゃあああ」

ドグッ!


膝蹴りが入って、男は炎に包まれる。

魔物化していたので、負の魔力に炎が反応していた。

しかし不完全なので、そのまますぐに火は消える。

後には襲って来た男達が、3人共伸びていた。


「すごい!」

「暴漢をやっつけたわ」

「しかし燃えていたぞ?」

「いや

 その前にあの男…

 少しおかしかったぞ?」


中には男達が、魔物に成りかけていたのに気付いていた者もいた。

しかしすぐに制圧されて、安心している様子だった。


「大丈夫ですか?

 何かありましたか?」

「ええ

 こいつ等がナイフを出したからね

 少し眠ってもらったわ」

「はあ?」


車掌が慌てて入って来たが、男達が伸びている事に驚く。

そしてわたしが、彼等を気絶させた事にも驚いていた。

見た目が中学生ぐらいの女の子が、大人の男をのしたのだ。

それは驚くだろう。


「取り敢えず事情を聞きたいのですが…」

「良いわよ

 次の駅で降りましょう」

「助かります

 おい!

 誰か彼等を起こしてくれ」


男達はその後、車内に居た人達によって起こされる。

しかし自分が何をしていたか、彼等は覚えていなかった。

しかし親切な男性が、わたしの証言を裏付けてくれる。

それに車内に居た人の、大半が証言を肯定してくれた。

それで私は、そのまま駅で降りる事になる。


「こちらに連絡していただける?」

「警視庁ですか?

 しかし…」

「面会の約束があったの

 これでは遅れてしまうわ」

「わ、分かりました」


駅員さんはそう言って、慌てて連絡先のメモを受け取る。

それは今日、わたしが会いに行く予定だった人の連絡先だ。

わたしはその間に、男達と駅の交番に向かった。

彼等が覚えていないとはいえ、障害未遂だったのだ。

彼等はそのまま、警察に留置される事になるだろう。


「それで…

 お嬢さんの名前は?」

「スカーレット」

「はあ?」

「だからスカーレットだって」

「いや

 名前を聞いているのであって…」

「しょうが無いだろう?

 この子は魔法少女、スカーレット・レッドっていうんだ」

「魔法…

 って!

 ぬいぐるみが喋った!」

「おいらはマスコットの、イグニールっていうんだ」

「あわわわ!」


駅員は驚き、わたしとイグニールを交互に見る。

まさか彼も、喋るぬいぐるみと対面するとは思っていなかっただろう。

その間に、連絡をしに行った駅員も戻って来る。


「電話をしま…」

「おい!

 ぬいぐ、ぬいぐるみ!」

「はあ?

 何だ?」

「ぬいぐるみが、喋った!」

「何をいっているんだ?

 それよりも、連絡が取れました

 担当者がこちらに来るそうですよ

 良かったですね」


事情を知らないので、駅員さんはニッコリとわたしに微笑み掛ける。

どうやらその刑事が、わたしの保護者とでも思っているのだろう。

しかし相棒の彼が、そんな駅員さんの胸倉を掴む。


「ぬいぐるみが!

 ぬいぐるみが…」

「落ち着けって

 どうした…」

「なにをそんなに騒いでるんだ」

「そうだぞ

 ぬいぐるみがどうしたって?」


駅員さんの横に、イグニールはふわふわと漂う。

数秒間、駅員さんは硬直していた。


「な!」

「おいおい

 おいらが喋るのが、そんなに珍しいかい?」

「しゃ…

 え?」

「喋ってるだろ?」

「あ、ああ…」


そこから暫く、駅員達は混乱していた。

しかし何度も事情を説明する内に、彼等の表情には諦観の色が浮かんでいた。


「はあ…」

「魔法少女…

 都市伝説や漫画じゃ無くて?」

「そうよ

 この子が見えるでしょう?」

「あ、ああ…」

「ははは…

 確かに認めるしか無いが…」


片方の駅員さんは、未だにイグニールを恐れていた。

しかしもう一人の駅員さんは、意外に柔軟な思考の人だった。

イグニールが話す事も受け入れて、わたしの話を聞いてくれた。

その上で、車内の出来事にも納得してくれる。


「なるほどね…」

「おい!

 納得するのか?」

「しょうが無いだろう?

 事実彼等はナイフを所持していたし

 記憶が無いというのも間違い無さそうだ」


こうして駅員さん達も、わたしの証言を理解しようとしてくれた。

しかしこうなると、彼等の処遇が問題だった。

魔物化や記憶に関しても、それを証明する術は無いのだ。

このままでは、彼等は凶器を所持した凶悪犯として逮捕される。

これには交番の警察官も、どうすれば良いか頭を抱えていた。

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