これが属性魔法
高らかに声を上げて、その少女は颯爽と現れる
わたしのドレスに似た、水色の可愛らしいドレスを着ている
その肩の上には、可愛いイルカのぬいぐるみが乗っている
どうやらその少女も、わたしと同じ魔法少女の様だった
「お待たせ!
大丈夫だった?」
「あなたは?」
「私の名はインディゴ・ブルーよ
あなた達と同じ、女神に選ばれた魔法少女よ」
「やっぱり?
そんな気がした」
少女の姿を見れば、同じ女神の趣味だと見て取れる。
それに肩には、わたしと同じ様な精霊が乗っている。
これで違ったら、女神に文句を言ってやるところだわ。
わたしは彼女の方を向いて、今の状況を説明する。
「こいつ等は素早いわ
インディゴ・ブルーの魔法で…
って倒せていない?」
「あちゃあ…
私には攻撃魔法の相性は悪いのかしら?」
「相性?」
わたしは驚いて、魔物から離れながら話を聞く。
「私の得意な魔法は、癒しの魔法なの」
「まさか…
怪我を治療するとか?」
「そうね
後は精神の回復とか?
元の職業がそうだから」
「え?
って事はお医者さん?」
「違う違う
でも…言えないわね」
「あ…
わたしも言えないわね」
「そう言う訳で、さっさと倒しましょ♪」
「そうね…」
インディゴ・ブルーの攻撃で、一匹は吹き飛ばされた。
しかし今は、再び立ち上がって向かって来ていた。
だが立ち上がってはいたが、積極的には攻撃に加わっていない。
どうやら魔法は、全く効果が無い訳では無さそうだった。
「インデ…
呼びにくいからブルーで良い?」
「ええ
あなたの名前は?」
「わたしはスカーレット・レッド」
「スカーレット・レッド…
それじゃあスカーレットね」
「ええ
それで良いわ」
互いの呼び名を決めて、改めて魔物に向かう。
しかし癒し専門と言うだけあって、ブルーの攻撃は精彩に欠けていた。
わたしの攻撃が2回当たる間に、1回でも殴れるかどうかだ。
その代わり、魔法の盾で攻撃を弾いている。
それで魔物は、ブルーに向かって集まっていた。
「好機!」
「え?」
「はああああ!」
「ちょ!
私ごと?」
「大丈夫
仲間の攻撃は効かない筈だから」
「筈って!」
「行くよ!
わたしは両手に集めた魔力を、右手を突き出して左手で引っ張る。
そのまま真っ赤な炎を、引き絞って狙いを付ける。
「ちょっと!
それはさすがに…」
「大丈夫よ
光の魔力はわたし達には効果が無いから」
バシュバシュ!
わたしが左手を離すと、一気に魔力が放たれる。
それは無数の炎の矢になって、魔物に降り注いだ。
インディゴ・ブルーを巻き込んで、そのまま炎は爆音を上げて燃え上がる。
「ほんぎゃああああ」
「ぎゃいん」
「きゃんきゃん」
炎の中で、魔物の悲鳴とインディゴ・ブルーの奇声が響く。
しかし燃え尽きた後には、倒れた青年達と無事なインディゴ・ブルーが立っていた。
「へ?」
「ね?
言ったでしょ」
無事なインディゴ・ブルーを見て、わたしはVサインをする。
「えっと…
あなた見た目ほど若く無いわね」
「え?」
わたしはブルーの言葉に、思わずギクリとなる。
言われてみれば、今時Vサインなんてする者は少ないだろう。
だからと言って、全く居ない訳では無い。
「そ、そんな事、な、無いわよ
体育系の部活動に入っていれば…」
「そう?」
「それよりもあなた、さっきの発言じゃあ…」
「え?」
逆にわたしの突っ込みで、今度はブルーがギクリとした表情になる。
あんな事を言ったという事は、彼女も相応な年の筈だ。
そもそも、彼女じゃ無くて彼なのだろう。
「あなたも年なんじゃ無いの?」
「そ、そんな事は…」
「はあ…
お互い秘密なんだから、詮索するなよ」
「そうですよ
ここは腹の探り合いなんて止めて…」
「そうね…」
「そうよ!
ほ、ほほほほ…」
その笑い方が、また年が行っている様な感じがする。
しかし下手につつけば、また探り合いになるだろう。
わたしは話題を変えて、探り合いを止める事にする。
「あなたも魔法少女って事で良いのよね?」
「ええ
さっきも言いました様に、女神に選ばれましたの」
「そう…」
その言い方も…
おっと、詮索は止めましょう
「それでブルーは、回復魔法なのね?」
「ええ
後は防御魔法かしら
元々人を殴るのって苦手なの」
「そうなの?
わたしも苦手だけど、こうして攻撃魔法を…」
「それはスカーレットが、火の属性だからだよ」
「火の属性?」
ここで初めて、イグニールから属性の話が出た。
わたしは見た目通りの、火の属性だそうだ。
そしてインディゴ・ブルーをは、やはり水の属性だ。
色が水色を基調にしているから、当然よね。
「インディゴ・ブルーは水属性になるよ」
「へえ…
それで、火の属性ってどんな感じなの?」
「その前に、このままここに居るのは…」
「そうね
ここでは目立つわ」
「ああ
何処かに移動しましょう
ブルーは飛翔の魔法は使えるのよね」
「ええ
私にも使えるわ」
二人は精霊を連れて、人気の無い場所に移動する。
そしてそこで本来なら、変身を解くところだろう。
しかしお互いに、変身を解く事は躊躇われた。
「どうしたんだい?
変身を解かないのかい?」
「ええっと…
わたしは解くのはちょっと…」
「あ…」
「私も嫌だわ
あまりにも見た目が…」
「ブルーも?」
「そうなのよね
何で魔法少女なのかしら?」
「そうよね
年齢や性別とか…」
「え?」
「あ!
あはははは…」
わたしは慌てて誤魔化して、話題を属性に戻した。
「それで火の属性って?」
「主に攻撃に特化していて、身体強化による攻撃性を有している…
というのが仕様かな?」
「身体強化って言っても、わたしは元々喧嘩は苦手よ?」
「そうは言っても、適正ではスカーレットは肉弾戦向きだよ?
本人が気付いていないだけさ」
「そうなの?」
「ああ
そしてインディゴは、攻撃よりは防御向きなんだ
これは元々の性格によるんだ」
「元々ねえ…」
そうは言われても、わたしは喧嘩というか争い自体が苦手だ。
それで過去にも、苦い思いをしている。
それなのに攻撃向けと言われても、納得は出来なかった。
「それで…
飛翔は属性には関係無いの?」
「飛翔の魔法に関しては、無属性の魔法になるよ
だから魔力を扱えるなら、誰でも使える可能性があるんだ」
「なるほど…」
「因みに、インディゴはゆっくりな飛翔になるんだ
それに対して、スカーレットは魔力で加速出来るよ
炎を上手く扱えれば…」
「ちょっと!
まさかジェット噴射みたいに?」
「そう!
まさにそういった事も…」
「危ないわよ!」
「慣れれば便利なんだけど…」
「危ないって!」
イグニールは簡単そうに言うが、炎で加速する事になる。
それに制御を誤れば、それこそロケットやミサイルの様に飛ぶだろう。
そして飛んだ先で、上手く減速出来なければ…。
ブルーもその事に気が付き、顔を顰めてわたしを見ていた。
しないわよ!
そんな危ない事は!
「火で加速って事は、ブルーには出来ないでしょう?
それに危険だから、わたしは使わないわよ」
「便利なのにな…」
「私は使えても嫌よ!
車だって運転出来ないもの」
「インディゴは修検でぶつけるぐらいだもんな」
「ちょ!
言わないでよ!」
ブルーの精霊の言葉から、彼女は車の運転も苦手らしい。
しかも修了検定を受けているあたり、成人ではあるのだろう。
しかも彼女の言い方から、少女では無いのだろう。
しかし彼女が、男である可能性は低かった。
だからわたしは、その話題は避ける事にした。
「それで?
ブルーは攻撃出来ないの?」
「出来なくは無いけど、元々の威力は低いよ
その代わりに魔力を通せば、魔物化を緩和出来るよ」
「魔力化を緩和?
それって…」
「ちょっと!
何よそれ!
私は聞いていないわ」
「あれ?
説明していなかった?」
「はあ…」
彼女の精霊も、あまり説明が上手くないみたいだ。
わたしは彼女の精霊に、インディゴ・ブルーの特徴を聞く事にする。
スペックが分からなければ、彼女も上手く扱えないだろう。
そうなって来れば、致命的なミスを犯す可能性も出て来る。
「ええっと…
ブルー
この子の名前は?」
「マリンよ」
「マリン
ブルーの仕様を説明してよ
キチンと聞いておかないと、何か起こってからでは遅いわよ」
「仕様って?」
「わたしが火の属性で、攻撃に特化しているのよね?」
「ああ
だから普通の打撃も、魔力を乗せれば燃やしたり出来るよ」
「ちょっと、イグニール!
それは知らないわよ?」
「え?
あはははは…」
イグニールの言葉に、わたしは呆れてジト目で見ていた。
そしてこの遣り取りで、ブルーも危機感を持ったらしい。
「私も、知らない事がいっぱいありそうだわ」
「そうよね
こいつ等はっきりと話さないから」
「こいつ等って…」
「言わないからでしょう!
反省しなさい!」
わたしの叱る様な厳しい口調に、イグニールもマリンも項垂れる。
彼等がしっかり説明していれば、さっきの様な危険な事も無かっただろう。
それにこの様子では、まだまだ知らない仕様がありそうだ。
「イグニール
この際ハッキリ言わせてもらうわよ
このままでは、危険でわたし達は戦えないわよ」
「どうしてなんだ?」
「だって知らない事が多過ぎるわよ」
「だけど戦えているじゃないか」
「だけど魔法の打撃を知っていれば、この前の戦闘でも…」
「あ…」
「何かあったの?」
「ブルーは戦闘は?」
「実は今回が初めてなの」
「そう…
わたしはもう、何度も戦っているわ」
「スカーレットはベテランなのね?」
「それがそうでも無いのよ
イグニールが教えた事は、殴る事や火の魔法が使えるって事
それもさっきみたいに、魔力を込めるって話は聞いてないわ」
「えっと…」
わたしの言葉に、思わずブルーもジト目でイグニールを睨む。
キチンと説明していないので、戦闘も格段に難しくなっていた。
「最初っから魔力で殴っていれば、さっきも衣服が破れるなんて…」
「え?
衣服が破れる?」
「ええ
ダメージを肩代わりして、派手に破れるのよ
もう趣味としか思えないわ」
「それは…」
「ブルーは防御主体だから、そう簡単には…」
「ねえ
私も盾を出せるの」
「え?
そんなの当然…」
「スカーレットは攻撃主体だから、満足な防御は…」
「何言ってるんだ?
上手く魔力を乗せれば、魔物をそのまま燃やす事も…」
「へえ…
それじゃあブルーも魔力を乗せれば?」
「それは魔物の魔物化を弱める…」
「それは魔力を乗せて殴るのと同じなの?」
「そうだよ
場合によっては、ブルーはそうやって単独で魔物を討伐出来るよ」
「そう
それも教えていなかったのよね?」
「あ…」
「う…」
2体の精霊は、気まずくなって視線を逸らそうとする。
しかしわたし達は、それでハッキリと確信した。
「他にも無いの!」
「キチンと教えなさいよ!
そんなの来店の段で教える様な当たり前の事よ!」
「ん?
来店?」
「ん、こほん
な、何でも無いわよ」
ブルーの来店発言は、微妙に気になった。
しかし今は、この2体の説明不足が問題だった。
結局わたし達は、暫く2体に詰問を続ける。
しかし肝心の精霊達も、実は詳しく無かった。
魔力に関しては理解していても、そもそも魔法少女自体が不完全なのだ。
「元々天然の魔法少女は別物なんだ
だからそれと比較して、出来そうな事を模索しているんだ」
「模索って…
それじゃあさっきの魔力の事も?」
「ああ
先代の魔法少女を参考にして、出来る事を言っただけだよ」
「待って!
それじゃあ試した事は…」
「無いよ?」
「ある訳無いだろ?」
「いや…
それじゃあ確証は…」
「出来る筈さ!」
「出来て当然だろう?」
「はあ…」
「あのねえ…」
詰まる所、魔力を込めた攻撃や防御も、先代が使っていた方法なのだ。
だから理論上は、それが出来るという事だ。
実際には試してみないと、効果は確認が出来ないだろう。
「わたしの防御は…」
「そうね
私の攻撃も、試さないと危険だわ」
それでわたし達は、次に魔物が現れた時も協力する事にする。
そうしなければ、単独で戦えるか怪しいからだ。
それに使い慣れないと、いざという時に使え無いだろう。
暫くは協力して、魔物と戦う事を約束するのだった。
「スカーレットは何処に住んでるの?」
「あ…」
「え?
あ、ごめんなさい」
「はははは
詳しくは言えないけど、この県に住んでいるわよ」
「そう
私は隣町なの」
「繁華街の方か…」
「ええ
スカーレットは工業町の方かしら?」
「まあ…
その辺かな?」
詳しく言えば、わたしが男だってバレてしまう。
わたしは曖昧に答えて、また協力する約束をした。
そうして笑顔で手を振って、わたし達は帰路に着いた。
わたしは先の話で出た、飛翔に火の魔力を加える。
最初は危険なので、少しだけ手から炎を出してみる。
「
ボウッ!
「さっそく使ってみるのかい?」
「危険だけど、移動が早くなるのは重要よ」
「そんなにかい?」
「ええ
早く移動出来れば、それだけ被害が抑えれるわ」
「そう…」
「それに…」
わたしはそれ以上は、口には出さなかった。
魔法少女が、男のロマンなんて言うのは変だろう。
それにそれを言えば、イグニールが調子に乗りそうだった。
だからわたしは、少量の炎で軽く加速する事にした。
「や、あひゃああああ」
「スカーレット!」
そしてわたしは、その事を後悔する事になる。
それから暫く、わたしは加速を封印する事にした。
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