第6話 俺が“王子様”になったわけ(中編)
事態が急変したのはチャンネルがスタートして二ヶ月ほどたった頃のことだった。
再生数もチェンネル登録者数も鳴かず飛ばずが続く『カメラのオウジ』Nowtubeチャンネルに他チャンネルとのコラボの話が舞い込んできた。
親父はそれを一も二もなく受けてしまった。
コラボ相手は『
過去には何度かバズったこともあるものの、いわゆる“バラエティ・エンタメ系”は今や数が増えすぎて飽和状態にあるので『
「はい! というわけでね、今日は『電子レンジで卵を温めたらどうなるか』っていうのをやっていきたいと思いまーす」
コラボ相手であるNowtuberが軽快に切り出す横で、俺はひきつった笑みを浮かべていた。
よりにもよってそんな危険な実験に呼ばれるとは……。
「もちろん、安全にはちゃんと配慮します。ということで、今日は家電の専門家のゲストをお呼びしてます! つまりはコラボ! ご紹介します『カメラのオウジ』チャンネルの家電王子さんです!」
「お招きありがとう! 家電王子、です……!」
どんなに恥ずかしくても、この衣装を着てカメラを向けられるとついついポーズを決めてしまう。
それが俺の悲しい性だ。
「そしてもう一人、お料理Nowtuberの『もえみ』さん! レンジ卵を美味しく料理してもらっちゃいます!」
「よろしくお願いしまーす」
わりとスタンダードな感じで収録は始まった。
後から知ったことなのだが、ここしばらくはチャンネル登録者数が減る一方で動画ごとの再生回数も右肩下がりな『
しかも彼らが目指す新たな路線とは、少々過激な“イタズラ系”だったのだ。
今回の趣旨と関係ないコーラとメントスが隠されているのを発見した時に、嫌な予感はしてたんだけど。
いや、今どきメントス×コーラって……。
しかし事件というのは、そのメントス×コーラではない。
『
「あれ? 爆発しませんでしたね。たまご」
『もえみ』さんはそう言って、無造作にレンジの扉を開けてしまった。
「危ない!」
俺は咄嗟に飛びだして『もえみ』さんをかばった。
次の瞬間──
バンッ!
破裂音とともにレンジで温めた卵が時間差で爆発した。
沸騰した卵の中身が飛び散り、『もえみ』さんをかばった俺の背中に降り注いだ。
衣装のマントがなかったら俺も大やけどしていたかもしれない。
「あっ、やばっ!?」
『
どうやら卵が爆発するのに合わせてメントス×コーラで驚かそうとしていたらしい。
最悪のタイミングだ。
しかし同時に最高のタイミングでもあった。
屋外収録。
降り注ぐコーラの雨が作る虹。
女性を庇い、抱きかかえる『王子』。
そして王子はコーラに濡れた彼女の頬を真っ白なハンカチで拭う──
『
いつもの十倍の再生回数を叩きだし、SNSのトレンドに入り切り抜き動画がいくつも作られた。
危険なイタズラをした『
これをキッカケに『カメラのオウジ』はチャンネル登録者数が急増し『家電王子』は一躍有名になったのだ。
高校受験の失敗。
Nowtuberデビュー。
そして人生初バズり。
それらがこの春先に俺に起こった人生を変える出来事の数々だ。
そしてもう一つ──
「『
Nowtubeでの大バズりの後、自宅に届いた一通の入学案内にはそんな名前が書かれていた。
「あのバズった動画を見て、星彦に『ぜひ入学してほしい』って連絡が来たんだ」
「あれで……?」
俺は思わず顔をしかめた。
はっきり言ってアレは俺にとっての黒歴史だった。
『家電王子』だけでも相当恥ずかしいのに、あんなバズリ方は不本意このうえない。
いや、そっちはこの際おいておこう。
問題はこの、俺を招きたいと言ってきた学校のことだ。
聞いたこともない学校だった。
というか、ネットで調べてもほとんど情報が出てこない。
しかしながら場所は都内の一等地。おまけに創立はなんと明治時代だという。
百年以上の歴史があるらしい。
「なんでそんな学校が俺を……?」
「さあ? 学校の人がおまえのファンなんじゃないかな」
「んなふざけた理由なわけないだろ」
何か他に理由があるはず。
そう思うが、皆目見当がつかなかった。
「どうするんだ?」
「どうするも何も、もう堀西学園に願書だしちゃったし」
今さら、断ってこの『鴛央学園』とかいう謎の高校に入るわけにもいかないだろう。
そんなわけでせっかくのお誘いだがきっぱりと断るつもりだたt。
ところが──
「はあっ!? 不合格……!?」
翌日、堀西学園からわざわざ電話で連絡が来た。
願書を出せば不合格になることはほぼないという一般科。
それなのに、俺に出た判定は『不合格』だった。
「で、できれば不合格の理由を教えていただけないでしょうか……」
『うーん、それはね。うちもいろいろ事情があってね……大事な出資者だし……』
「は? どういうことですか」
「とにかく! あっちの高校での活躍に期待しております!』
「ちょ、ちょっとあっちのってどういう──」
電話は一方的に切れた。
「どうなってるんだ……」
ふと視線を移すと、そこに『鴛央学園』の入学案内があった。
最後にもう一つだけ伝えておこう。
この後、学園に入学した俺はさらに人生を大きく変えられてしまう。
いや、この時すでに俺はあいつらに振り回される運命だったのかもしれない。
日崎誾千代を含む『七人の姫君』たちによって──
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