第3話 リマインド
ハードな1日が終わった。そのため普段よりは少し早めに仕事を切り上げることにした。他の社員と違い家が近いためハードワークができてしまう環境だ。いかにルーティンが続く毎日とはいえスーパーの買い出しは三日に1度程度。消耗品や買い忘れ、早く終わった日に弁当を狙いに行くとなると頻度は変わるが基本はそんな程度。今日は作り置きがあるし、買い忘れや買い足したいものもない。明日乗り越えれば週末だと自分を鼓舞し足早に帰ろうとしたところ、水道代支払いを思い出しため息をついた。
進行方向を変えかけた時横からふいに
?「◯◯さん、お疲れ様です♪」
と名前を呼ばれた気がしたため振り向いた。あや気のせいか?関東の中でも田舎に位置するこの地は国道やら大きい通りでもない限り普通の道路は必要最低限の街灯しか設置されていない。聞き馴染んだような、そうでないような女性のお淑やかな声のような。。発信された方向を向くとパッと見た印象は大人っぽく、清楚な都会っ子がそこには佇んでいた。話しかけられている意識があまりなかったためコンビニへ向かう信号に視線を戻そうとしたところ先程と同じ声が聞こえてきた。
?「私のことわかります?よね?そこのスーパーの、、わかりますよね!?」びっくりした。
やっぱり僕に話しかけていたのか。
距離が先程より近いからか内容まではっきりと聞き取ることができた。興奮しており少し圧も感じた。僕の脳は一瞬停止した。僕自身オフモードに切り替わっていたこともあるし会社関係意外知り合いのいない田舎の環境で声をかけられるイベントなんてこれまでなかったからだ。
ほんの数秒の間が出来たが"スーパーの"というヒントから確信のある答えを導き出すことができた。「あーレジの、お疲れ様です」という思えば失礼で事務的なリアクションを取ってしまった。やっと反応があったからか安堵した様子でニッコニコの笑顔で目線を合わせてきた。
困った。普段なら女性から話しかけられるイベントなんて内心大喜びのお祭り騒ぎだがここは生活圏内。そして顔見知りのはるか年下であろう女性から話しかけられている。既に思考は変に思われないかなどと自己防衛のシフトへと切り替わっていた。しかも普段していた雑談の内容を1ミリも思い出すことができない。
そんな思考を巡らせている最中女性は距離もさらに近づき、打って変わって真剣な顔つきで僕の顔覗き込み
?「いつも遅いから心配してたんです。早く帰れることもあるんですね。昨日来たから明後日まで買い物はないはずですよね?そっちのスーパーに今日は行くんですか?」と矢継ぎ早に会話を続けてきた。思考がまとまらないままほぼ反射で
「いや、水道代払おうとコンビニ寄ろうかなって」
「ならよかったです。」と食い気味に、落ち着きを取り戻した様子で笑顔に戻っていた。信号へ目を配る。と同時にまさか進行方向同じなのか?こちらは早く世間話を切り上げ用事を済ませ安寧の地我が家へと向かいたいのに。。と心では拒絶の感情が芽生えだした。信号は心を読んでくれたのか開放宣言のライトが点灯した。
せっかく話しかけてくれたという感情よりは負の感情が強くそそくさと僕は「またよろしくお願いします」と社交辞令な挨拶と会釈をコンビニへと向かったのだった。買うつもりもなかったが疲れに効きそうというイメージだけの体に悪そうな色の微炭酸を手にし、自動ドアをくぐる。店を出て封を切りながら信号の方向へ無意識に視線を向けた。10分前の出来事を思い返し彼女もきっとバイトの帰りか行きだったのだろうなとぼんやり頭に浮かべ自己解決をしたのだった。そしていつものルーティンに戻っていった。
「やっぱ今日相当疲れてたんだね。いつもより50分早くお布団に入ってるもんね。帰りも疲れてたのに呼び止めてごめんね。嫌われちゃったかなぁ。どうしよう、どうしよう。どうしよう。許して?私なんでもするよ?
ここ1ヶ月特に遅いもんね。たくさんよしよししてあげたいな。誰がそんなに嫌なことを押し付けるの?教えて?タイミングよく旦那様に帰りにも会えて自制できなくて話しかけちゃった♡今日はたくさん会って、たくさん話せて幸せで心がおかしくなりそう。でも気をつけないと、名前で呼び止めてしまったわ。。もっともっと気にかけてもらえるように好きを表現してもらえるように私頑張るね。おやすみ貴方。。」
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