第7話 私が君の耳になるから

「それってどういうこと?」


「……」

//首を傾げながら


「君の耳が悪いことなんて気にするわけないやん」


「迷惑なことなんて1つもないよ」


「耳が聞こえないことってさ、君が思ってる程悪いことじゃないと思うに?」


「耳が悪い人の絶対数が少ないから、大変そうやなって思われたり、みんなから好奇の視線に晒されることもあるやろうけどさ」


「視力が悪い人と一緒やと思わん?」

//SE 話し手が聞き手の目の下を触る


「視力が悪い人はメガネをつける。耳が悪い人は補聴器をつける。ただそれだけのことやと思うけど」


「まあ君からしてみればそう簡単な話しではないんかもしれんけどさ」


「これまでいろんな苦労があったやろうしね」

//SE 頭を撫でる音


「とにかく君は、私と付き合えばええの」

//SE 手をギュッと握る音


「私が君のこと、絶対幸せにするから」


「想像してみ? こうやって毎日私から耳元で囁かれるん」


「どう? 嬉しい?」


「そりゃ嬉しいよなぁ。私みたいな声も見た目もかわいい女の子と付き合えるなんてそうそうある話とちゃうし」


「なんて、冗談」


「私たちもう恋人同士なんやでさ、君の体も私の体の一部みたいなもんやん?」


「耳が聞こえないことだけじゃなくて、怪我をした時も、心がキュッて苦しい時も、2人でわけ合えばええんよ」


「今回みたいに補聴器が壊れて君が困っとったら、私が絶対に助けるから。それが理由で嫌になったり別れようなんて絶対に言わんから」


「こんなこと言ったら怒られるやろけど、むしろ私としては嬉しいんやに? 仮に今日みたいに補聴器が壊れたとしても、こうして君と近付く口実ができるし」


「本当に安心して」




「私が君の耳になるから」




「それにさ、助けるのは私だけじゃなくて、私が君に助けてもらうことも多くなると思うんよ」


「私だってできないことたくさんあるもん」


「今日だってカッパ持って行こうと思ったら忘れて足元びちょびちょだし、靴下左右違うやつ履いてきちゃったりするし、炊事洗濯なんて全くできんのやから」


「け、結婚⁉︎ べ、別に、そ、そんなつもりで炊事洗濯って言ったわけしゃ……いや、付き合うからにはそんなつもりで付き合うんやけど……ってそうじゃなくて⁉︎」


「と、とにかく! そんな時は私も助けてもらいたいから。お互い様やろ!?」


「君は我慢しちゃいがちやからさ、これからはなんでも言ってね」


「夫婦円満の鍵は、お互いが全てを曝け出すことやと思うからさ」


「ふふっ。私今、いいこと言ったでしょ」


「だーい好きやでっ」

//耳元で囁くように


「これからずーっとよろしくねっ。ダーリンっ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

耳が悪い僕の耳元で方言幼馴染がわざとらしく囁くお話 穂村大樹(ほむら だいじゅ) @homhom_d

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ