第5話 ベッドの中の君と僕

//SE 布団の中で動く音


「やっぱり布団の中で一緒に寝転がると無理して近づこうとせんでも距離近いで楽やわ〜」


「……」

//聞き手を見てキョトンとする


「ってなんで私と反対の方向向いとるん? 別にこっち向いたらええやん」


「ねぇ、ほら、こっち向いてよ。そっぽ向かれとるとちょっと寂しいんやけど」


「もっと近づかんと声聞き取りづらいやろ?」


「まあ君がそのままがいいんならそれでもいいけどさ」


「それにしてもほんま災難やったね、まさか補聴器が水で濡れて壊れるなんて」


「見るからに疲れとる君が車に水かけられてびちょびちょになる状況ってまさに泣きっ面に蜂って感じとちゃう?」


「いや、でもそれでこうして私と同じベッドに入れてるのは不幸中の幸い……いや、どっちかっていえば棚からぼたもちかな」


「ふふっ。ごめんね、私、1人でわけわからんこと言っとるね」


「……こんな近くに君がおるの、初めてやんな」

//SE 後ろからぎゅっと抱きつく音


「そんなビクッとせんといてよ。近づかんと声聞こえづらいやろ?」


「うん、確かに君のいうとおりこんなに近付かんでも私の声は聞こえると思うに? でも、やっぱり疲れてる時とか寂しくなった時って人肌恋しくなるもんやん」


「やでこの距離でええの」

//SE 強く抱きつく音


「……昔さ、私が迷子になった時のこと覚えとる?」


「まあそりゃ覚えてないやろね。もうかなり昔の話やし」


「私が1人で近所の公園に遊びに行った時、まだ小さかった私は帰り道が分からんくなってどうしようもなくて、公園にあった噴水の前で座っとったん」


「そしたら息を切らした君が私の前に現れて、手を差し伸べてくれたんよ」


「1人でどこにいるかも分からんくてどうしようもないなかった時に君の姿を見た時の安心感は半端じゃなかったんやに?」


「それはもう、思わず好きになるくらいには」

//耳元で囁くように


「ふふっ。驚いた声出してるね。私、昔君のことが好きやったん」


「そりゃ気づかれんように振る舞うし、君が知らんのも無理ないよ」


「誰にも言ってなかったしね。私だけの秘密やったから」


「私がやりたいって言ったことに嫌な顔一つせず付き合ってくれたり、物静かで頼りないように見えるけど、いざという時は誰よりも早く私を見つけてくれる頼りがいのある男の子」


「そんなん好きにならん方がおかしない?」


「小さい頃なんかさ、足が速いってだけでその子のこと好きになっちゃうくらいなんやで、そんなきっかけがあれば好きになる理由としては十分やろ?」


「ねぇ、今も私が君のこと好きって言ったらどうする?」


「……」

//不安そうに


「ごめん。急にそんなこと訊かれてもわけ分からんよね。ずるい聞き方しちゃった」


「もう今までみたいに疎遠にならんようはっきり言うって決めてたのになぁ……」


「やっぱり勇気がいるんやね。気持ちを伝えるのって」


「……うん。やっぱちゃんと言おう。君がそっぽ向いてくれてる今なら言いやすいし」

 

「私ね、昔も君のことが好きやったけど、高校生になった今でも君のことが大好きです」


「私と付き合ってださい」

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