古戦場ニューロ

デルトゥスの首都デルチア。

 その西隣にニューロと呼ばれる街があった。

 メーベル海に面したこの街は漁業が盛んだった。

 今は工業と貿易の盛んな街で知られている。

 大戦争の折には激しい戦闘があり、語り草となっている。

 三百年前、隣町アロメロが陥落した。

 北方諸国はそこから東に進軍。

 アメル川を越えられれば帝都は陥落する。

 マケルタ諸国側の戦士達は背水の陣をしいた。

 実はこの時、北方諸国は電人に似た兵器を投入した。

 この冷酷な兵器は、マケルタ諸国の血をおおいにすすった。

 その鋼の肉体ゆえ突撃銃などものともしなかった。

 アロメロの陥落は、これを認識させるものであった。

 が、さすがに同じ轍は踏まぬマケルタ陣営である。

 ここに配備された陸軍大将。

 名はエッカネン・ジン・マロゼフ。

 聡明な男だった。

 電人には突撃銃が通じない。

 ならばと貫通力のある狙撃銃に切り替えた。

 重火器、火砲なども用いた。

 多勢による確固撃破を徹底させ、強大なる敵戦力を削いだ。

 燃え上がる太陽の光が降り注ぐ真夏の午後。

 ニューロの街で戦闘の火蓋が切られた。

 アロメロから進軍する電人達は傍若無人。

 小火器も通じぬ鋼の肉体をおごり、我が物顔で進軍した。

 ニューロの手前、ゆかりある古城アポリスの城壁前に展開。

 無機的な瞳をかりかりと動かすさまは本当に冷酷だった。

 人間を狩る為だけに作られた兵器だった。

 北の軍ははじめに空から攻めた。

 無数の爆撃機を飛ばし、過去の城壁に爆雷の雨を降らせた。

 轟音とともに古より美しき城壁は崩れた。

 そして機械の兵どもが一気にここへとなだれ込む。

 「負けるな撃て!」

 はてどこに潜んでいたのであろうか。

 マロゼフの大号令が下った。

 地中より姿を現わしたのは南部マケルタ狙撃兵。

 「五人で一機を」との指示をその通りやった。

 十字の照準に獲物を捕えて狙い撃った。

 親、親友の仇とばかり、引き金を引く指に力がこもる。

 どどと土中より幾百、幾千もの白煙、火花も咲いた。

 ついに無人兵器達の身体に穴が開いた。

 一機、また一機と機械の兵は倒れていった。

 「砲撃開始!」

 獅子王のような野太くもたくましい大号令が響き渡る。

 同時に無数の砲口より放たれる炎の柱。

 大轟音が耳を裂いた。

 彼方に立ち上る土煙は、まるで嵐の海の波しぶきのようだ。

 無人兵器達も腕をもがれ、首も飛んだ。

 五体無き金属の亡骸が次々に横たわり死の山となる。

 あるいは爆炎するものもあった。

 圧倒的に優勢と言われた北方諸国は、かなり損害を出した。

 そこからは一進一退の壮絶な戦いが展開された。

 ニューロの街はもはや紅蓮の炎が休む事がない。

 天は焦げた。砲弾の音に何も聴こえない。

 強風すら立ち込める煙に視界が晴れる事はない。

 美しかった石造りの家々も、ただのがれきの山となった。

 街は死屍累々。

 五臓六腑、四肢肉片、あちこちにぶちまけられていた。

 こうして戦う事、数週間――。

 ついに人間は彼らをアロメロの街へと押し戻した。

 成せばなる。

 人間の意志の強さは、時に機械をも超える。

 人々はそれを語り継いだ。

 またこの街の無冠の英雄達を忘れなかった。

 エッカネン・ジン・マロゼフの名も語り継がれた。

 あれより数百年の時が経った。

 今はその街にも平和な時間のみが流れていた。

 柔らかな春の日差しが降り注いでいる。

 街路樹の新緑も鮮やかに緑の光線を放っていた。

 人々の笑みもこの街に戻っていた。

 かつての面影といえば、崩れ落ちたアポリスの城壁ぐらい。

 今はこのニューロも港を持ち工業地帯ともなった。

 ごみごみとして行き交う人々は労働者が多い。

 また彼らのささやかなる遊び場があった。

 外観は世辞にも褒められなかった。

 町の北の方は閑静な住宅街として生まれ変わっていた。

 美しい赤レンガ造りの建物に石畳の道。

 ガス灯のような街灯がしゃれている。

 あちこちには街路樹が立ち並んでいた。

 三角州からなる小高い丘からの傾斜があった。

 そには小綺麗な家々が並び立っていた。

 裏手には青い山々がそびえ、美しい小川も流れている。

 そしてこの街の学校――。

 それがちょうどその中間にあった。

 きれいなものも汚いものも入り混じったような雰囲気だった。

 女学生の制服のすそがとにかく短い。

 ちょっと跳ねるだけで下着が見えてしまいそうだった。

 それもこの街の流行りらしい。

 が、いつも周囲をどぎまぎさせて仕方がない。

 それもまたこの街が生んだ今時の娘事情というやつだろう。

 そし今日も下校を告げる鐘が青天の彼方に鳴り響いた。

 純白の制服を着た少年、少女達が下校して行く。

 にぎやかに談笑しあいながら。

 「パロラーっ!」

 ひときわ甲高い声が通学路に響き渡った。

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