第4話 凶作

4228年1月


小都市ミストウッドから帰ってきた。

魔導具という地球にはなかった未知なる物。

あれを早く触りたかった。


初めての魔導具。

胸が踊らないわけがない。



俺は、使用しているのが変にバレないよう、夜に試すことを決めていた。




――皆が寝静まった夜。


この体は、夜になるとすごく眠い。驚くほどに。

精神年齢と身体年齢が等しいときは、あまり気ならなかったが、精神年齢は三十路。

こんなに眠いか。



眠い目を擦り、魔導具の試運転を始める。


魔石付きイヤーカフを取り出し、耳につけてみた。


驚くほどに耳にジャストフィットした。

激しく動いたときに外れないか不安だったが、杞憂であった。


付けているのがバレるのではないかと思っていたが今の髪型が、少し長めで耳に髪がかかり、ちょうどこの魔導具を隠してくれる。

それに髪色も明るめの茶色であるため、このシルバーのイヤーカフは見えにくい。



さて、使ってみるか。




これ……どう使うの…?


「メモ」

小声で呟いてみる。


だが何も起こらない。



メモ。

心の中で思っても何も起こらない。



頭にメモ帳を思い浮かべながら、


"レン 4223年10月12日生まれ 転生者"


を書くかのように考えた。

だが、何も起こらない。



どうしようか。


そう思案してる時に、頭の片隅にさっきメモした内容が思い浮かんだ。


ほう。


"ジョン 4200年6月5日 レンの父"

"アンナ 4201年12月21日 レンの母"

"ルネ 4221年7月23日 レンの兄"


これを先程の方法で追加してみた。


そして、また少し意識すると頭の片隅にレンの情報に加えて、ジョン達の情報もでてきた。



なるほどなるほど……。


これは便利だ。

いろんなことに使えるぞこれ。


これが実用性がないと思われ、安くで売っていたのが奇跡だ。

この世界より進んだ文明だった地球生まれの俺だから、この魔導具に実用性を感じるだけなのかもしれない。




4228年4月


この魔導具はチートだ。


あれから、魔導具をいろいろ試してみたが他にも便利な使い方を見つけた。


はじめに使ったように、情報を区切って表のように登録すると、転生前世界の表計算ソフトのように使えることがわかった。

これが何を意味するのかというと、情報を表にできるのだ。

それだけではない。ソートや検索機能も搭載していたのだ。


俺は、商業高校情報処理科を卒業している。

そこで、嫌というほど表計算などのソフトを勉強してきた。

これがあれば何でもできると言っていいほどだ。


こんな最強魔導具350円で売っていていいのか?

デファクトスタンダードの表計算ソフトは2万円弱だった気がするけど……。



驚くことに、便利なのはこれだけではない。


俺はメモに表があるとごちゃごちゃするなと思っていた。

だが、表やメモに名前を付けると呼び出せることに気が付いた。


つまり、情報を分類しメモや表にする。

それに分類名を付ける。

分類名が"魔法"の情報を表全体で思い出したい時、"魔法"の表だけを引き出し、他の情報は見ずに済むのだ。



例えば、人物の情報を書いたメモに"人物"という名前を付ける。

次に、魔法の情報を書いた表に"魔法"という名前を付ける。

そして、人物の情報をメモ全体で引き出すとする。

そうすると頭の片隅に、


"レン 4223年10月12日生まれ 転生者"

"ジョン 4200年6月5日 レンの父"

"アンナ 4201年12月21日 レンの母"

"ルネ 4221年7月23日 レンの兄"


のように頭の片隅に思い浮かぶ。

検索機能で全体ではなく、レンの情報だけを引き出すことも可能である。

頭とは別の領域で記憶、記録されているため、他の事を考えながら並列的に情報を引き出すことが出来る。



このチート魔導具が買えたのって偶然?それとも必然?


それにしても、これは見つからないようにするべきだ。

慎重に扱うことにしよう。



この他に俺は、この世界にゲームのようなスキルという概念がないか調べてみた。

川上龍生の頃に、好んでいた異世界転生系のラノベと同じ方法で。


毎日石を100回投げ、木の棒を100回振った。

俺は、投擲スキルと、剣術スキルの取得を狙ったのだ。


10日試したが、少なくとも回数をこなして経験値を貯める、という取得方法ではないようだ。

1000回しか試していないが、これ以上回数が必要となると、コスパが悪いため諦めた。


果たしてスキルという概念はこの世界にあるのだろうか……?





4230年4月1日


――生まれて7度目の春。


俺は6歳になっていた。



俺とその家族は幸せに暮らしていた。

だが、金銭的にも食料的にもかなり苦しいことになっていた。

これはうちだけではない。村の半数以上がだ。


この村の冬は、作物を育てないため村の男達で近くの森へ狩りに出る。

冬の狩りでどれだけ食料を、獣の皮を確保できるかで、春からの農作業で食料を得られない間しのげるかが決まる。


去年の冬はギリギリであった。鹿やイノシシなどの獣が少なかったのだ。

魔獣がそれら獣を狩っていたからだ。

それが、一昨年から年々増えてきている。


それなら魔獣を狩ればいい。


となるだろうが魔獣は強い。

ただの農民10数人が、束になっても狩れるか五分五分のところだ。

そんな賭けに出るなら、獣を探したほうがいいと考えたのだろう。


更に、去年の春から農作物の方も凶作が続いている。

冬の狩りが上手く行かず、狩りに日を費やしすぎたばっかりに畑の手入れを怠っていたのだ。


それが積み重なり、今年の春からの畑は最悪の状態であった。

この世界には、もちろんのこと重機はないため、成人男性が狩りで日を費やしているとなると完全に手入れすることは難しいだろう。


父ジョンと母アンナは悩んでいた。

そのためか顔がずっと暗い。

食事の際、無理に雰囲気を明るくしようとしてるように感じる。





「あなた〜、ルネ〜、レン〜、夕ご飯にしましょ〜」

アンナが3人を呼ぶ。


「あれ、今日はご飯がいっぱいだ〜!!」

ルネの言う通り、今日の夕食は豪勢だ。


今日は、誰の誕生日でもなかったはずだが?


「今日はいっぱい食べていいんだぞ!」


食事は豪華だが、雰囲気を無理に明るくしようとしてるのは変わらない。

それがたまらなく気味悪く感じた。


夕食は、その気味悪さを残しながら終えた。

沢山食べたためか、すぐさま眠気に襲われたため布団に入ると15分もしないうちに眠ってしまった。




不意に尿意で起きた時だった。

寝室から出ようとした時、リビングでアンナが啜り泣き、ジョンが寄り添っているところが見えた。


「どうしたの?」


「なんでも……ないわ…」


「レン、トイレか?」


「うん」


違和感を覚えたが、俺はトイレを済ませ、また眠りについた。

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