第1章 少年編
第3話 何処
10月12日
この日、俺は誕生日を迎えた。
25歳の誕生日ではない。
川上龍生の誕生日は10月23日だからだ。
――俺は、この日4歳になった。
4223年10月12日俺――レンはこの世に生を享けた。
この世というのは地球ではない。
所謂、異世界転生。
剣と魔法の世界……かは今のところ分からないが。
今は4227年10月12日。
暦は太陽暦、1週間は7日と現代日本と同じであった。
時計がないため、1日が何時間かは分からない。
ここはアルデンティア大陸にある、ヴェルディア王国ドラモンディ領グレンメア村。農民の父ジョンと母のアンナの間に次男として生まれた。
兄の名前は、ルネ。2歳上の兄である。
4人家族で、貧困ではあるが幸せに暮らしていた。
グランメア村には、10世帯ほどある。
この世帯ごとに土地を与えられ、そこで農作物を育てている。
主に、主食である小麦を育てているが、他にもキャベツやトマトなどの野菜も少し育てている。
ありがたいことに植物は地球と似ているようだ。
今のところ。
俺にはわからないことが多すぎる。
自分でも調べてみたりしてるが、なにせ貧困過ぎて家にも、この村にも書物は何もないのだ。
違和感がないように、疑問を父や母に聞いていたりもする。
場所については、それで知ることができた。
「あなた〜、ルネ〜、レン〜、夕ご飯にしましょ〜」
農作業は昼過ぎには終わり、外で遊んでいた3人をアンナが呼ぶ。
今日は誕生日だからか、いつもより数品料理が多い。
「おー!!いつもより豪華だな〜!」
とお腹を擦りながらジョンが言う。
「今日はレンの誕生日だからね。レン。4歳のお誕生日おめでとう。私とジョンの間に生まれてきてくれてありがとう。」
「レン!誕生日おめでとう!!」
とアンナとレンが祝ってくれる。
「レン誕生日おめでとう!いい物はあげられないが俺とアンナからのプレゼントだ。」
ジョンがそう言い俺に本を渡す。初めてこの世界の本を見た。
この前、必要なものを買いに、街に行くと言ってたのはこの事か。
本当に必要なものがあり、そのついでなのかもしれないが。
文字は母が書いていたのを見たことがある。
今度母に教えてもらいながら読むか。
「お父さん、お母さんありがとう!!お母さん今度文字教えてくれない?」
「いいわよ〜」
「お腹すいた〜」
「そうね。さぁ食べましょうか。」
ルネの腹の虫が暴れたのか急かし始めたので、母がくすっと笑いながら言う。
4228年1月
――今は冬。
この世界の季節は全くもって日本と似ている。
正確に何度かは分からないが、体感は関西に住んでいた頃と同じように感じる。
「すごい……いろんな店がある……」
こんなに人が混み合っているのを見るのはいつぶりだろうか……
俺は父のジョンに連れられグランメア村近くにある小都市ミストウッドの露店街に来ていた。
俺は、ジョンに街へ必要なものを買いに行くとき、連れて行ってくれるよう頼んでいたのだ。
俺は、母のアンナに文字を教えてもらい、本を一人で読めるようになっていた。
有難いことに、固有名詞以外の言葉や単語は地球と同じだった。
露店街を歩いている時、俺はある看板が掛かっている店に目が留まった。
「魔導具屋……」
魔導具とはあの魔導具だろうか。
異世界転生系のラノベやアニメで見る、魔力かマナか、そういう地球で言う非科学的な力で動く道具という認識で良いのか……?
「お父さん、魔導具って何?」
「レン、魔導具が気になるのか?魔導具は魔石のマナを使って使う道具だ。例えばあの建物に付いている街灯も魔導具だぞ〜」
建物には、確か街灯が設置されていた。
これは電気で動いているのではなく、マナというもので動いているのか……
「魔導具屋、覗いてみるか?」
「えっ!いいの!?」
「買うことは難しいが時間もあるし見るだけならいいぞ〜」
「わかった!」
有難い申し出だ。俺は二つ返事で了承した。
「お兄さんと坊っちゃん、何かお求めで?」
店に近づくと座っている店主が見上げながら話しかけてきた。
「いや、息子が魔導具を見るのが初めてでな。気になったらしいんだ。」
「そうでございましたか。坊っちゃん、気になるものがあれば聞いてくださいね。」
痩せ型で少し胡散臭そうな店主がそう言う。
俺はそれに頷き魔導具を見ていく。
地面に布を敷いて、そこに大小様々な魔導具をおいている。
座っている店主の後ろにも商品があるが、あれは業務用なのかと思うほどに大きいものが置いてある。
一先ず小さいものを見ていく。
指輪やブレスレットなどのアクセサリー類が多い。
指輪を見てみると宝石のように綺麗な石が付いていたり、石が付いていないものもある。
この綺麗な石が魔石か?
「おじさん、触ってみてもいい?」
「いいですよ。」
許可を得たので遠慮なく触ってみる。
石が付いていないリングを摘み、じっくり見ていく。
全くもって転生前世界のリングと同じだ。
違うところが見当たらない。
「おじさん、この石って何?」
俺は、リングスタンドに置いてある石付きリングを指差す。
「これは魔石ですよ。魔石の大きさによって付与されている魔法が違います。」
これはリングに魔法を付与してるのか、石に魔法を付与してるのかどっちなんだろうか。
魔石が付いてないのは、見えないように組み込んでいるのか?
「これには石が付いてないよ?」
「魔石が付いていないのは装着者のマナを使用し魔法を実行します。」
なるほどなるほど。
リングに魔法を付与してるのか。
「これはどんな魔法が付与されてるの?」
持っている魔石なしリングを指す。
「それには透明になる魔法が付与されています。魔石付きリングには周りを明るくするというような便利な魔法を、魔石なしのリングには身体強化魔法などの実践的な魔法が付与されています。」
えー?透明になれるの?強すぎね?
「これはいくら?」
「これは、金貨15枚になります。」
うはーたかー。
さっき露店街の八百屋でこの世界の貨幣価値を調べたが、これは高い。
銅貨1枚が10円程度になる。だから金貨15枚は150万円程度になる。
銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚、金貨100枚で大金貨1枚になる。
ちなみに、うちの月収は銀貨10枚を上下しているくらいだ。この前、話をしているのたまたま聞いていた。
「一番安いものはどれ?いくらするの?」
「頭とは別の領域で記憶、記録できる魔法が付与されております、この魔石付きのイヤーカフでございます。お値段は銅貨35枚でございます。こちらはあまり実用性がなく不人気なんです。」
え、どこが実用性無いの?めっちゃ実用性あるくない?しかも安い!
イヤーカフなのも目立たなくて良い。
欲しい。
俺の可愛さを駆使してジョンを落とすか。
「お父さん…これ……ほしい……」
「ん〜……」
悩んでいるな。
「おねがい……」
「はぁ……分かったよ…でもアンナとルネには内緒だぞ?」
「うん!!」
「お買い上げありがとうございます。」
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