第13話俺達とこれからの目標
時間にして2分は経過しただろうか。
突然現れた二人組に、俺達は一言も発することが出来ず、その上動揺を隠せずにいた。
いや、正確には二人組のうちの一人。高橋尚也に動揺していたのだ。
数分前まで、十分あり得るとは考えていた。
二つの世界の人物が入れ替わる事無く、片方の世界から人が移動するのみで一つの世界に二人の同様の人物が存在する。
可能性としては十分にありうる。脳内では理解していたつもりだった。
しかし、実際に自分と瓜二つの人間と遭遇すると、人間と言うのは身動きを一切取れなくなる。
そうして、現実とは思えない現実に誰一人として行動を取れずにいると、この中で最も現在の状況に関係ないであろう男が大きく口を開いた。
「いや……いやいやいや!どういうことだよ!なんで尚也が二人!?なんで鈴鹿がここに!?だって……え!?尚也お前……姉弟いたのか?」
「いや、いない事はお前もよく知ってるだろ。……いや、どういうことだよ。だって……俺?……もしかして、ドッペルゲンガー?」
「いや、待て俺。俺はドッペルゲンガーじゃない。俺は……高橋尚也。俺は……俺だ」
「いや、意味が分かんないって。俺は俺って……俺が高橋尚也だぞ。だって……どういうことだよ。まじで」
「いや、だから……どういう事なんだろうな」
混沌と化した状況。
考えてみれば、こうなるのは当然だったのかもしれない。
目の前に自分と完全に同じ姿の人間が現れた時、俺は驚愕を露わにし、その場で騒ぎ立てるだろう。
俺がそう言った行動を取るのならば、別世界の俺である彼も同一の行動を取るのは当然。
その横で最も騒いでいる彼も、幼馴染が突然二人に増えれば、声を荒げてしまうのも分からなくはない。
しかし、この状況は悪状況と言える。
このまま話がまとまらず、騒いでいる所を第三者に見つかれば、必ず状況は悪化する。
最悪、俺達を知っている第三者を巻き込むことになる可能性もある。
そうなれば、様々な最悪な状況へとまっしぐらだ。
そうなる前に、打開策を練らなくてはならないが、この状況で俺が何を言おうとも、状況は悪化するだけ。
隣の彼女も同様の事を察したのか、一歩前に出ると、大きく口を開いた。
「みんな静かに!ここは、この中で一番みんなの事と状況を知ってるあたしから話すよ!」
「いや、鈴鹿お前も……」
「静かに。お願い……聞いて」
真直ぐな瞳で彼らを見つめながら、優しい声で放たれた彼女の願い。
真剣そのものの彼女の様子を目にすると、前方の二人組は口を閉じ、話を聞く姿勢に入った。
それを確認すると、彼女は少し考える仕草をとったのちに、子供に読み聞かせるように話し始めた。
彼女が最初に話したのは、彼女が鳥居を潜った際の出来事。
それから、俺が彼女の正体に気づき、協力を始めた際の出来事。
この世界と並行世界との差を交えながら、実験失敗までの出来事を話し、最後にこの世界に来る際の出来事を分かりやすく説明した。
彼女にしては珍しく、説明が分かりやすく、自然と話に聞き入ることが出来た。
しかし、改めて発端から話を聞くと、現実の出来事とは思えない。
俺達は本当に現実離れの出来事を現在進行形で経験しているのだと、再認識させられた。
問題はこの現実離れの話を彼らが素直に理解してくれるかどうかだが……。
「なるほど。ハッキリ言って信じられないな。……本当にこれドッキリとかじゃないよな」
「本当だって!実際、尚也も二人いるでしょ!お願い……信じてよ」
「……一応、確認を取りたい。おい、俺。二人で話せないか?俺なら、俺しか分からない事を言えるだろ?」
「なるほど。良いよ、ちょっと来い」
軽く話すと、俺達は幼馴染2人から距離を取り、緊張しながらも、精一杯秘密を伝え合う。
初恋の相手や、誰にも話していない趣味。
密かに頑張っている事や、最近気にしている出来事。
更には、確実に俺一人しか知らない事まで、事細かく伝えた。
暫く口を閉じていた彼だったが、俺一人の秘密を暴露していくと、途中で俺の口を抑え、もう良い分かったと、一言放った。
その表情から察するに、彼は俺が俺であるという事を理解してくれたらしい。
話を終え、二人の所へと戻ると、彼の方から口を開いた。
「完璧には信じられないけど……間違いない、こいつは俺だ。話し方とか、俺しか知らない秘密知ってる事とか、そこら辺から分かる。間違いなく俺だわ」
「分かってくれたんだ!さっすが尚也!後は高弘だけど……」
「……それなら俺も信じるよ。てか、尚也が二人いる時点で信じるしかないやん。現実離れの出来事過ぎてごちゃごちゃではあるけどな」
「良かったー!取りあえずは一安心かな?」
「だな。色々あったけど、取りあえず全体的な状況が見えてきたな」
彼らと出会ったことによって、発覚した事がある。
俺達は別世界の俺達と入れ替わりでこの世界に来たのではなく、俺達のみが世界を移動し、この世界にやって来たという事。
これにより、今後解決すべき問題が見えてきた。
俺達が解決すべき問題は、俺と本当の幼馴染の鈴鹿を元の世界に戻すと言うものだけだ。
難解ではあるが、単純になった上、相談可能な人物も増えた。
以前と比べると、状況は多少良くなったと言えるのかもしれない。
「けど、もう一人の俺と鈴鹿はこれからどうするんだ?二人とも行くところないだろ」
「あー、それは確かにそうかもな。家に帰ろうにも、俺が居たら俺が二人になるし問題になっちゃうよな」
「あ、一つ良い場所があるで!中島さん家なんてどうよ!あの人の所なら大丈夫やろ!」
彼の口から出てきた予想外の人物に、思わず反射的に答える。
「中島さん!?えっと……中島さんって、神主の?」
「お、そっちの世界?の尚也も知ってるのか!なら、話は早いな!」
否定しない事から考えるに、神主の中島さんで間違いないようだ。
以前、彼女を元の世界へと戻すための方法を模索していた時期がある。
その際に訪れ、多少ではあるが力になってもらったのが中島さん。
失踪事件や神隠しについて覚えている事を聞き出し、事態の解決には何をすれば良いかを調べるのに一役買ってもらった。
最終的に大きな進歩は得られなかったが、様々な考え方を教えてもらい、それなりに勉強になった。
しかし、お願いしたとして、数日間泊めてくれるだろうか。
悪い人ではないというのは当時の言動で理解出来たが、数日間二人の高校生を泊めるとなると話は別になるだろう。
そもそもとして、彼が住処にしていた家は古い木造建築。
建物に付属している庭には大量の雑草が生え茂っており、外観から察するに、相当昔に建築されたであろう建物だ。
決して広いとは言えない上に、地震一つで壊れてもおかしくない家。
そんな所に更に二人が住み着くことが可能であるとは考えずらい。
「んー、あの家に俺らが住めるとは思わないけどな。てか、そもそもとして、泊めてくれるか?」
「大丈夫やって!良いから行くだけ行ってみようぜ!良い人だから泊めてくれるやろし、あの人ニュースとか見ないから、鈴鹿も大丈夫だと思うぞ!」
「……まあ、高弘がそこまで言うなら行ってみるか」
俺達は一先ず神主の元を訪れる事に決め、来た道を戻る形で歩いて行く。
いつの間にか眩く輝いていた太陽は姿を消し、空は黒く変わりつつあった。
真夏の猛暑も消え去り、少し蒸し暑い、夏夜特有の暑さへと変わっていた。
時間が経過したのもあってか、その時には冷静さを完全に取り戻しており、俺と彼女は普段通りの状態へと戻りつつあった。
まだ騒ぎ続けているのは、もう一人の幼馴染くらいである。
彼は興味本位からか、この世界と俺の世界との違いや、鳥居を潜った際の衝撃。
その他、俺達の経験した事を聞き出すべく、質問を繰り返す。
元より騒がしく、理性が薄い彼だが、余りにも現実離れの出来事に出会うと、ここまで止まらなくなるのか……と考えながら、仕方が無く彼の質問に逐一答えていく。
この時、一つの疑問が脳裏を過ぎった。
彼の口を押えるようにして質問を止めると、過ぎった疑問を口に出す。
疑問とは、俺の本当の幼馴染である鈴鹿の事。
もう一人の彼女が俺の世界で上手くやれていた事を考えると、恐らく彼女も上手くやれている事だろう。
しかし、それでも心配ではある。
念を持って、一番彼女の事を知っているであろう彼らに聞くのが良いだろう。
彼は少し動揺を見せると、止まる事を見せなかった口を閉じ、少し黙り込む。
その後、何かを決めたかの様な表情を見せると、質問に答えるべく口を開く。
それと同時。今度はもう一人の俺が彼の口を覆い、彼の言葉を封じた。
何事かと思っていると、代わりにもう一人の俺が口を開いた。
「鈴鹿も上手くやってるよ。ただ、今あいつインフルエンザにかかっててさ。体調悪くしてるんだ。だから、この場に呼ぶってのは難しいかもな」
「あー、インフルか。それは大変だな。まあ、上手くやれてたなら良かったわ。じゃあ、あいつも交えて話すのはインフル治った後だな」
病気に罹りながらも、彼らが気づかない程度には上手くやれていたのであれば安心だ。
心配が一つ消えたことに安心しながら、再び始まった彼の質問攻めに答えながら、目的地へと歩みを進めていく。
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