第3話もう一人の幼馴染と神社

「……という事で、問1の答えは2xになります!」


 室内なのにも関わらず黒一色の帽子を被った老教師の声が、教室内を響き渡る。

 騒音とも捉えられる大声を適当に耳で受け止めつつ、教室内の男女は無心で板書を写し続ける。

 大声の合間合間には微かにアブラゼミのジリジリという鳴き声が聞こえ、真夏に近づきつつ事ある事を否応なく感じさせられる。


 そう。少しずつではあるが、時期は真夏に近づきつつあるのだ。

 それなのにも関わらず、夏の始まりに気づいた幼馴染の違和感の正体は判明していない。

 約一週間前。幼馴染に疑問に思っている事を告白した。

 彼女は笑顔を浮かべながら、その疑問が事実であると肯定した。

 そこまでは良かった。問題はその後。

 彼女は事実を肯定すると、詳しい話は数日後にすると告げ、その場を後にしたのだ。

 当然、その走力に勝てる事は出来ず、彼女を逃す事となり、話がされる数日後を待つ事となった。

 

 しかし、それから一週間が経っても、彼女から件の話をされる事はなかった。

 それどころか、日常会話すらまともに行っていない。

 そろそろ話をしたい所だが、普通に話しかければ当然の事如く逃げられる確率が高い。

 どうすれば、まともに話を行えるだろうか。


 手を全く動かさず、考えに耽り続ける。

 考え続ける頭を休めると同時に、時間を確認しようと顔を上げる。

 それと同時。背後に回っていた老教師の一撃が、俺の頭に直撃した。

 

「こら、高橋君!しっかり板書を写しなさい!」


「あ……はい」


 集中し過ぎたせいか、近づいていたのに気が付かなかった。

 叱られた事を恥ずかしく思いながらも、文字一つ記入されていない、雪原の様に真っ白な紙へと板書を写し始める。

 その様子を軽く笑いながら、隣に座るもう一人の幼馴染が合図を出してきた。

 内心面倒くさく感じながらも、軽くため息を漏らし、笑みを浮かべた幼馴染へと顔を向ける。


「おいおい、何怒られてんねん!ちゃんと授業は受けなきゃ、駄目やろがー」


「お前には言われたくないわ。笑ってる暇があるなら、一文字でも写せよ」


「俺は後でお前か鈴鹿から写してもらうから良いんだよー。それよりさ、お前何考えこんどったんや?多分やけど……鈴鹿の事やろ」


 一瞬にして図星を指された事により、思わず顔に出して動揺してしまった。

 その様子を軽く笑いながら、彼は再び楽しそうに口を開く。


「お前分かりやすすぎやろ!全く……まあ、最近お前らギクシャクしてそうな雰囲気バチバチやったからなー。んで、何があったん?」


「別に大した事じゃないよ。ただの行き違いみたいなもんだよ」


「なるほどね。結構前に言ってた、鈴鹿に何か感じてるって話か」


 余りにも的確な話に、再び思わず顔に出して動揺してしまった。

 それを目にすると、彼は再び楽しそうに笑みを浮かべる。


「まあ、何だ。色々あるみたいだけど、ゆっくり行こうぜ。長い仲なんだからさー、どうせ解決できるよ。いつも喧嘩しても、いつも仲直りしてたやろ?」


「まあ、確かにそうだな。……ゆっくり行くか」


 全く深く考えずに話す彼だが、その言葉も一理ある。

 長年一緒にいた幼馴染。幾度となく喧嘩もしてきたが、必ず互いに謝る事で仲直りし、より友情を深めてきた。

 確かに、ゆっくり話を待つのも手の一つだろう。しかし、それは彼女が本当の幼馴染ならばだ。


 彼女はあの日。尚也の知ってるあたしじゃないと話していた。

 あの意味を言葉の通り受け取るとするなら、彼女は長年一緒にいた幼馴染とは別人という事になる。

 そうなれば、気長に待つという訳にはいかない。

 今の彼女が誰なのか。鈴鹿はどこにいるのか。

 聞かなければならない事や、判明しなくてはならない謎が大量に出現する。

 そのため、ゆっくり行くという事は極力避けたい。

 とは思ったものの、話をしようにも、逃げられてしまえばどうしようもない。

 結局の所、話が出来ないというのが現状だ。一先ずは、無理矢理にでも気長に待つしかないのだろう。


 内心は気が気じゃない。それでも心を落ち着かせ、再び板書に目をやる。

 大声で説明を行う老教師を横目に、適当に白紙へと文字を記入する。

 最終的に幼馴染から話を切り出すのを待つ事にし、授業へと集中し始める。

 再び待ち続ける時間が続くのかと思うと、多少は面倒くさく感じた。

 しかし、その気持ちは数十分後に消え去る事となった。

 この日の昼休み。鈴鹿から、放課後一緒に帰る事を切り出された。

 当然、話を受け入れ、放課後の約束を交わした。



「いやー、最近また暑くなってきたねー。まだ夏本番じゃないなんて信じられないよ!」


「あー……確かにそうだな。テレビで言ってたけど、今年は去年より暑くなるみたいだぞ」


 太陽が頂点を過ぎ、地平線へと少しずつ進みつつある頃。

 彼女は普段通りの態度で、気軽に言葉を発していた。

 帰路につくまでは、彼女と普通に会話出来るか不安はあった。

 実際に彼女と帰ると、普段通りの彼女の態度に影響されてか、普段と変わらずに言葉を交わすことが出来ていた。


「そう言えば、あたし達ももう二年生だよ!尚也は進路とかちゃんと決めてる?」


「あー、進路か。……俺はまだまだ決めかねてるな。特にやりたい事もないし。まあ、適当に大学行って、適当に就職かな」


「適当にって……そう言うのはちゃんとしないと駄目だよ!進路はしっかり考えてって先生も言ってたじゃん」


「そう言うお前はどうなんだよ」


「あたしはちゃんと決まってるよ!大学行って、ソフトボール続けて、学校の先生になって、学校でソフトボールを教えるの!ずっと前から言ってたでしょー」


 確かに、教師になりたいという話は何度も聞いていた。

 昔から、それこそ小学生の頃から、彼女の夢は教師だった。

 教師となり、子供に様々な事を教える。

 それと同時に、部活を利用し、ソフトボールを教える。

 彼女が長年考えてきた、将来設計。

 長年同じ夢を終える事は尊敬できる。


「……昔からの夢だからねー。昔と言ったら、あたしたちにも色々あったよね!懐かしいなー、小学生の頃。高弘がバカやって、尚也がそれに振り回されて、あたしがそれを笑って見ててさ!」


「あー、確かにそんなのばっかだったな。俺は何にも悪くないのにあいつに振り回されてさ。……てか、お前のせいで酷い目にあった事も何度かあったからな」


「まあまあ、子供の頃の話ですからー。みんなで沢山遊んだりもしたよね!サッカーしたり、鬼ごっこしたり、バレーしたりさ!この三つはずっとやってたよね!」


「あー、確かにな。その三つは……あれ、バレーなんかしてたっけ?全然記憶にないわ」


「え……あ……そっか……」


 深く考えずに放った言葉に、彼女は笑顔を消した。

 直後、思い出したかのように笑顔を取り戻すが、その表情はどこか硬い。

 口元は笑っているが、目元がどこか寂しそうに見える。


 何か悪い事を言ってしまったのだろうか

 古い記憶を探り続けるが、サッカーや鬼ごっこをした記憶はあれど、同様にバレーを行った記憶はない。

 単純に忘れてしまっただけなのか、それとも……。


「……あ!尚也、着いたよ」


 その声に反応し、見上げた先には、一度も訪れた事のない、古びた神社がそびえ立っていた。

 彼女は着いてくるように告げると、石製の階段へと足を掛ける。

 建立されてから長い年月が過ぎているからか、所々が破損しており、合間合間からは土や苔がはみ出ている。

 同様の理由からか、鳥居は色褪せており、半分以上が苔に覆われている。


 階段を登り終え、古びた鳥居の前で足を止めると、彼女は勢い良く振り向いた。

 そして、目一杯の笑顔を浮かると、再び振り向き、地面を強く蹴り上げた。

 数十センチ地面から離れた彼女は鳥居を過ぎるとほぼ同時に、再び地面に足を着いた。


 その時の彼女は、何かのしがらみを振り切った時の様に爽快で、満面の笑みを浮かべていた。

 その笑顔は今まで見てきた彼女のどの笑顔とも違い、全く見た事がない笑顔だった。

 それでも不思議と、その笑顔が心の底からのものであったという事は感じ取れる。


「いやー……やっぱり駄目かー!行けると思ったんだけどなー!」


「知らないけど、そんな勢い良く鳥居潜るのって良いのか?一応神様のなんかだし、良くないだろ。子供じゃあるまいしさ」


「これくらい大丈夫だよ。……ねえ、尚也はここに何か感じる?」


 突然の質問に、困惑しつつ、境内を見渡し始める。

 境内は大部分が古びれており、都会では滅多に見られない自然に満たされている。

 機械的な音は一切せず、周囲に聞こえるのは微風によって揺らされた草木の音のみ。

 幻想的かと言われれば、誰しもが首を縦に振る事間違いなしだろう。

 しかし、幻想的と言っても、実際に何かを感じるかと言われれば、感じない。

 凄い。綺麗。それっぽい。

 考えて出て来るのは、この程度の感情だけだ。


「少し幻想的だとは思うけど、何か感じたりはしないぞ。鈴鹿は何か感じるん?」


「全く何も感じないね!……そっか、尚也も何にも感じないかー。……でもね、実はこの神社には何かがあるんだよ。間違いなくね」


「まあ、神社だしな。何かって、この神社でお参りすると良い事が起こるとか、そういう感じのやつ?」


「そんなんじゃないよ。てか、それならもっと有名になってるでしょ。尚也は分かってないなー。そんなんだからテストの点数悪いんだよ?」

 

 テストは関係ないだろ。

 心の中でそう呟きながらも、それならば何があるのかと彼女へ尋ねる。

 彼女は一瞬口ごもった後、懐かしそうに少し前の出来事を語りだす。


「……尚也は覚えてる?一か月前くらいにやった男女混合の体育。男子対女子で、サッカーやったよね!」


「ああ、確か僅差で男子が勝った奴だよな」


「……違うよ。あたしの記憶では女子が勝ってた。その少し後、高弘も合わせて三人でボウリング行ったじゃん。一番高得点だったの誰だっけ?」


「確か高弘だったっけか。次に鈴鹿で、俺がビリ。てか、サッカーで勝ったのは俺らだったろ。だって……」


「ボウリングで勝ったのは高弘じゃないよ。勝ったのはあたしだったよ」


「……いや、さっきから何言ってんだ?」


 話が噛み合わない。

 彼女が話に出した授業は遊びは確かにあった出来事。

 それに関しては疑う余地もない。しかし、その際の結果が違う。

 彼女の事は何年も見てきたから理解できる。

 彼女は嘘をついていない。全ての結果を本気で行っているのだろう。

 

 しかし、それならばおかしい。

 一か月前のサッカー。その後のボウリング。

 サッカーはクラス内の一大イベントになり、ほぼ全員が全力で挑んだこともあり、記憶に深く残っている。

 授業にも参加しており、その結果は僅差で男子の勝利。

 ボウリングは深い印象はないが、記憶に新しいの出来事という事もあり、その結果自体は正確に覚えている。

 俺の記憶に間違いはない。ならば何故、ここまで話が噛み合わないのか。


「……尚也の言ってることは本当なんだと思う。だけど、あたしの言っている事も本当なの。……矛盾してるって思うかもだけどさ、実は矛盾してないんだよね」


「……は?いや、矛盾してるだろ」


「いーや、してないね!だって……あたしたちが受けた授業と、あたしたちが遊んだボウリングは違うんだもん!」


 はてなマークが三つ、自身の頭上に浮かんでいるのが分かった。

 彼女のその発言を全く理解する事が出来ない。

 理解出来ていない状態なのにも関わらず、彼女は言葉を続けた。


「……言ったでしょ。あたしは尚也の知ってるあたしじゃないって。あたしは……この神社を通してこの世界に来た……別の世界の鈴鹿なの!」


 疑問が限界に達した。理解能力の限界を超えた。

 予想の斜め上を行く彼女の言葉に、一週間前と同様、その場に立ち尽くす事しか出来なくなった。

 余りにも間抜けな顔をしていたのか、彼女は俺の顔を指さすと、お腹を抱えて笑い出した。

 その大袈裟な様子を目にし、ふと我に返ると、脳をフル活用し、彼女の言葉の意味を考える。

 必死に考え続けるが、その言葉の意図が伝わってこない。

 冗談なのか。彼女が狂ってしまったのか。本当の事実なのか。

 様々な選択肢を探り続けるが、答えは出ず。

 その様子を見かねてか、彼女は付近の岩に腰を掛けると、ゆっくりと口を開いた。


「まあ、突然言われても分かんないか!しょうがないから、あたしが簡潔に説明してあげよう!……あたしがこの世界にやって来たのは約二週間前。丁度、前の世界が雨で、この世界が晴れの日かな」


 どこか懐かし気で、寂し気な表情を浮かべながら、彼女は説明を続ける。

 騒音が一切しない、自然の音のみが聞こえる環境だからか、彼女の話は真っ直ぐに耳へと入ってくる。

 彼女の神経な様子を目にすると、全てが本心からの言葉であるように感じる。


「あたしはその日、傘を忘れてさ。雨宿りできる場所を探して、走ってたの。その時に、この神社を見つけたんだ。まあ、この神社より大分綺麗なんだけどね。なんでか分かんないんだけど、初めて来た神社なのに、凄い目を奪われてさ。雨宿り出来るかもって、この神社に入ろうと思ったの。けどこれが、間違いだったんだ……」


 軽く涙ぐみながらも、胸を押さえ、感情を抑えながら説明を続けていく。

 無理はしなくて良いと言葉を掛けるが、それでもやめる事無く言葉を放つ彼女。

 俺は何も言う事が出来なくなり、口を閉じ、真剣に話を聞く。


「……雨も強くなって来たんで、あたしは走って神社に向かったの。そして、神社に入ろうと、鳥居を全力で潜った。その次の瞬間には、雨がやんでいたの。神社の様子も少し違くて、時間もおかしかった。……ここまでで質問はある?」


 突然の彼女の問いかけに、思わず口ごもってしまった。

 落ち着いて、脳内で彼女の話をまとめていく。

 雨が降った日。彼女はこの古びれた神社を見つけた。

 神社の鳥居を潜った次の瞬間。雨は消え、神社の様子も違う。

 

 恐らく、彼女は鳥居を潜った際に、別の世界であるこの世界に来たと考えているのだろう。

 しかし、今までの話を聞いた限りでは、本当にそうだとは考えずらい。

 今までの話は全て、現実であり得なくもない話であるのだ。

 鳥居を潜ると同時に、彼女自身の要因からか、その他の要因からかは不明だが、彼女は気を失った。

 そして、気付けば時間は過ぎ、雨はやんでいた。

 雨の日に見る建物と晴れの日に見る建物のイメージが変わるのは良くある話だ。

 彼女の勘違いだという可能性が最も高いが、全ての情報を聞くまでは、何も言えない。

 深く考えるのをやめると、話を続けるように彼女へ合図を出す。


「……それで家に帰った後、少し違和感があって、いろいろ調べたんだ。そしたら、ちょっとずつ違う事に気が付いたの。あたしの周りから、天皇陛下まで、人間や動物はあたしの記憶と同じ。だけど、数日前にあった事から、数千年前までにあった事まで、本当に少しずつだけど、記憶と違う所があるの。起きた年が違ったり、結果が違ったりさ。そして、考えた結果が……この世界はあたしの世界と違うって事。どうかな、長かったけど分かった?」


 想像以上に現実離れの話。

 真剣な眼差しから察するに、虚言を吐いているわけではないようだ。

 しかし、それならば尚更理解できない。

 鳥居を潜った時に、少し起きたことが違うだけの、殆どが同じ世界に迷い込んだ。

 この出来事が現実で起こったとは思えない。まさにファンタジーの世界だ。

 

「えっと……ハッキリ言って分けわかんないわ。嘘ついてるようには見えないけどさ……なんか疲れてるんじゃないか?」


「信じられないかもだけど、本当に本当なんだって!さっきのサッカーとボウリングの話だって合ったでしょ!それにさ、尚也から言って来たんじゃん。あたしがあたしじゃないってさ!」


 御もっともな意見である。

 如何に現実離れした話であろうが、如何に理解できない話であろうが、俺が彼女に違和感を抱き、ここまで話をさせたのは事実である。

 今まで幼馴染に感じてきた違和感は本物である。

 この事実だけは決して揺るがない。

 そして、揺るがない事実から考えるに、彼女の話が全て事実であると考えるのが、この場で言う真理という物だろう。

 何より、彼女が嘘をつくはずがないし、嘘をついているようには見えない。

 そうなれば、幼馴染である俺は信じる事しか出来ない。


「……信じるよ。けど、そしたら一つの疑問が出来る。……鈴鹿は……本物の鈴鹿はどこにいる?お前が別世界の……そうだな……この場合は並行世界か。並行世界の鈴鹿が、今の鈴鹿なら、俺の知ってる鈴鹿はどこにいる?」


「……分かんないけどさ。きっと、多分、あたしと入れ替わったんだと思うの。だから、あたしのいた世界にいるんだと思う」


「そうか……なら、大丈夫だな」


 彼女の話した事から察するに、この世界と彼女がいた世界とでは大した差は内容だ。

 それならば、俺や高弘や、鈴鹿のお母さんもいる。恐らく向こうでやっていけているはずだ。

 実際、この世界に現れた鈴鹿は、今まで誰にもバレずに鈴鹿を演じてこれた。

 となればだ……。


「それなら……どうする?てか、どうしたいんだ?」


「どうしたいとは?」


「だからさ、この世界から元の世界に戻るのか。戻りたいのかって話だよ」


「あー……ね……」


 彼女は少し悲しそうな表情を浮かべると、考えるような仕草をとった。

 その後、笑顔を浮かべながら口を開いた。


「そんなの、戻りたいに決まってるじゃん!みんな本物みたいだけどさ、この世界はあたしの知ってる世界とは違うしさ!」


 その言葉を発する表情は確かに笑顔だった。

 しかし、どこかその笑顔は引きつっているようにも見える。

 違和感に気づき、彼女の顔を数秒眺めると、照れたのか彼女は恥ずかしそうに顔を逸らした。

 その表情は普段と同じ、表情豊かな彼女だけが出せる、全力の表情だ。

 普段通りのその顔に、気のせいだったと考え、口を開く。


「そうか。なら、協力するよ。事実知っちゃったし、幼馴染だしな。それに、本物の鈴鹿に会いたいし」


「よし、じゃあ、何て言うか……協力よろしく!」


「ああ、こちらこそよろしくな!えっと……別世界鈴鹿?並行鈴鹿?」


「別にあたしはあたしだし、鈴鹿でいいよ!よろしく、尚也!……って、よく考えなくても、今更よろしくって!」


「まあ、変だな」


 冗談交じりに会話を交わすと、強く握手を交わす。

 何度か交わしてきた握手と同じ感覚だが、中身の人格は違う。

 不思議な感覚に襲われながらも、そこで、鈴鹿を元の世界へ戻し、鈴鹿を取り戻そうと覚悟を決めた。

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