王城での一幕③

 アレスとラズリアが雑談すること約二時間。風呂に入ったことでサッパリとした小綺麗な格好をしたニアが二人のもとにやってきた。ニアの後ろから少し離れた距離にいる無表情メイド、ケムはいつもの表情に少し疲れを翳らせている。


「お風呂、気持ちよかった!」

「結構長かったな、久しぶりの風呂で嬉しかったか」

「あのね、身体洗っても全然泡立たないの! お湯も茶色くなって面白かったよ!」

『あら、そんなに汚れていたのね』


 嬉々として語るニアにアレスは苦笑を浮かべ、なぜケムが疲れた表情をしていたのかを理解する。


(ニアは結構汚れてたからな、さぞ大変だっただろうに)


 アレスが心の中でケムに拍手を送っていると、扉が開き沢山使用人が入って来た。

 アレス達の今いる客間はアレスとラズリアの二人が寝泊まりするには広すぎると思うほどだったのだが、その客間の半分を占めるサイズの大きなテーブルが運ばれ、そこに大量の料理が並ぶ。


「……何だこれは」

『沢山あるわね。人間ってこんなに食べたかしら?』


 次々と運ばれテーブルに置かれていく料理を見て、アレスとラズリアは驚愕する。この量は、流石にアレス、ラズリア、ニアの三人――いや、ラズリアはそもそも精霊であり、食事を必要としていないので食べるのはアレスとニアだろうが、どう見ても運ばれる料理は二人で食べきれる量では無い。

 ふざけているのか、という気持ちを込めてアレスはケムを睨むと、その視線を感じたのか「自分何か間違えましたかね」とでもいうかのように首を傾げながらアレスに言う。


「……はて、アレス様はニア様に食事と着替えの前に入浴、と仰ったと思いましたが……私の聞き間違いだったのでしょうか? 申し訳ございません、食事は必要では無かったのでしょうか」

「……いいや、確かに食事は必要だ。だが、この量はおかしいだろうが」

「申し訳ございません、好みを聞くのを忘れていたのでそれでも大丈夫なように豊富に用意いたしました」


 ケムは事前に食事の好みを聞くのを忘れていたので、沢山用意して好きに摘まめるようにすることでそのミスをカバーした、という事だろう。大胆なカバー方法だ。

 そんな事を考えこめかみを押さえるアレスを余所に、ニアは大喜びだった。


「うわぁっ、料理がいっぱい! これ、全部食べていいの⁉」

「えぇ、勿論です。満足いくまで召し上がりください」


 その言葉を聞き、まだ使用人達が運んでいる最中にも関わらずニアは料理に手を伸ばし、掻き込むように口へと運ぶ。

 数日もの間何も食べていなかった状態から、固形の物をあんなにも食べて大丈夫なのか多少心配だが、ニアはそんな事はお構い無しとガツガツと食べる。


「……まぁ、満足そうだし良しとするか」

「アレス様は意外と甘いのですね」

「は?」


 ケムにそんな事を言われ、アレスは再びこめかみを押さえる。そんなアレスを見て、ラズリアは微笑んでいる。

 実際、アレスはニアには甘い。自分の教え子にすると決めたからなのか、それとは別かはアレス本人にはよく分からないのだった。

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