アレスの王都視察-商業ギルド
冒険者ギルドを後にしたアレスとアーデルハイトは、向かいにある商業ギルドへと来ていた。
外観は冒険者ギルドとほぼ同じだが、内観は全然違い清潔で整理された商品棚が並びギルドというか小売店のような印象を感じさせる。しかしながら、並んでいる商品はパッと見では綺麗に陳列されているように見えるが、所々商品が抜けていて、商業ギルドの規模としてはあまり良い品揃えとは言えないだろう。
「ギルドってか、店だな」
「卸した商品をそのまま販売もしてますからね。回復用のポーションなんかも売っているので、冒険者もよく訪れますね」
「たしか、この王都は商業が盛んとか言っていたよな。その割にはなんかショボいよな」
「ショボ……っ! しょ、しょうがないでしょうっ!? 最近は王都周辺に出る魔物のせいで商人が来ないんです!」
「商人が来ない……」
冒険者ギルドでアレスがサイモンと話していた魔物は、やはり王都へと影響をもたらしていた。
王都周辺への魔物の出現から約二ヵ月。その間何度か商人は王都へ入ろうと試みはしたものの、王都は周囲が森や林で囲まれている地形なのでどうしてもそこを通る間に魔物に襲われてしまうのだ。
(商人の運ぶ荷物には食料も多いはずだ。その匂いに釣られて魔物が寄って来たのか? ……いや、それは無いか。魔物は生きた肉と血が好物だ。商品なんて狙わないだろう。考えれば考えるほど奇妙だな)
アレスは魔物が商人を襲う理由を考えるが、しっくりくる考えは思いつかなかった。
「やはり、変だな」
「な、何が変なのですか……? そんなに商業ギルドはおかしくはないと思いますが……」
「違う、魔物の出現だ。そもそも魔物は手を焼くほど群れんぞ」
「……それは、アレス殿達が強すぎるからどれだけ来ようが手を焼くことは無い、って事ですか」
「んなわけあるかよ……さっきの冒険者ギルドでの喧嘩を見ていてある程度冒険者の腕を予想した。……サイモンはワイバーンを単独で倒すほどの実力だ。そしてサイモンに喧嘩を仕掛けたあの白髪、野次馬共の反応を見るからにあいつもそれなりに強いはずだ、サイモンと同等か、それ以上か。そんな奴らがいる冒険者ギルドが手を焼くってのは違和感を感じる。そもそも騎士も魔物討伐に出向いてるんだろ? 数は足りてるはずなのに何故いまだに魔物は出現するのか。まったくもって謎だ」
アレスが言う事は的を得ている。それはアーデルハイトも理解している。しかしながら、何故魔物がここまで王都を狙うのかだけはいくら考えても分からないのだった。
「……なるほど、そういう事か」
「えっ……何か分かったのですかアレス殿っ⁉」
アレスの発言にアーデルハイトは食らいつく。
それを半歩身を引いて遠のけるアレスは、面倒臭そうに彼女の頭を軽く叩いていなした。
「あいたぁっ⁉ 私、一応はこの国の姫なんですからねっ⁉」
「だったら慎め、オヒメサマ。……分かったのは、お前らが
「うっ……」
バツの悪そうな顔を浮かべたアーデルハイトは口をモゴモゴと。言いたいけど、言えない。そんな風に見てとれる。
誰が見ても核心を付かれたと言わざるを得ない彼女を一瞥し、アレスは自分の推測は正解だったと確信する。
「魔物の調査と物資の調達といった所か。以前言っていたことは一応は本当だったというわけだな。どうだ、魔植の森で何かめぼしい物でも見つかったか?」
「……いいえ、特には。王都周辺で出る魔物とは別の魔物が徘徊している事から、魔植の森は今回の王都周辺の魔物騒動の件とは関係が無いと判断します」
「そうか、なら安心だ。だが、魔物騒動は解決していないぞ。今後はどうするつもりだ?」
「っ……」
アーデルハイトは口を閉ざしてしまう。
彼女の反応は当然だろう。魔物発生の原因が分からなければ今できる暫定対応は魔物の討伐程度。根本的な恒久対策にはならないのだ。
「てか、ここって本当に商業ギルドなのか? 商人の行き交うギルドならもう少し情報が入ってきてもおかしくないはずだが」
周囲の商人らしき人達の言葉を耳を澄まして聞き分けるアレス。
魔物について話している商人もいたが、どれも愚痴ばかりだった。噂話すら無いとは、どういう事だろうか。
「どいつもこいつも、愚痴ばかりだ。やれ冒険者は何をやっているだの、騎士は何をやってるだの」
「ここ数ヶ月まともに商いができていないので気が立っているのでしょうね」
「そうか……。ではもう商業ギルドには用はない。正直もう少し期待していたのだがな、残念だ」
「ざ、残念って……では次はどこに行きましょうか。王都は観光業も盛んなので観光スポットを巡ってみましょうか?」
「あぁ、そうだな。人混みは嫌いだがもう少し見て回る」
人混みを嫌うアレスを気にしながら、なるべく人気の少ない名所はあっただろうか、と思考を巡らせるアーデルハイト。
そんな彼女を見てアレスは小さく呟く。
「面倒な生き方をしているな、女騎士。姫だからか、騎士だからなのか。……やはり人間とは面倒な生物だ」
「えっ? 何か言いましたかアレス殿?」
アレスの呟きはアーデルハイトの耳には届かず。彼なりの温情というやつだったのだが、それを聞き逃したアーデルハイトは勿体無い事をした。
「何でもない。それより図書館に案内してくれ、人間の本が読みたい」
「あっ、待ってくださいアレス殿っ!」
図書館の場所もわからないにも関わらず一人で進んでしまうアレスを追って、アーデルハイトが急いでギルド出口へと掛けて行く。
アレスの心境は、まだ王都に来て二日目にも関わらず変化が見えてきた。
彼は、そんな心境に少し戸惑っている。今まで話だけに聞き嫌っていた人間は、初めてできた友人サイモンの登場、それなりに話しやすく感じてきたアーデルハイトの影響によって、そこまで人間は悪者では無いのかもしれないと思いだしてきたのだ。
ただアレスがチョロいのか、はたまたアーデルハイトの頑張りか。どちらかは分からないものの、少なくともアレスに変化が見えてきた事は確かなのであった。
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