アレスの王都視察-冒険者ギルド②

 冒険者ギルド内に併設された食事処に移動したアレスとアーデルハイトは、適当につまめるものを注文して椅子に腰かける。

 注文をしてからは無言だった。

 アレスは何かを考えこむかのように眉間に皺を寄せ、アーデルハイトは先程アレスが言った事を整理するために頭を抱え込んでいる。


(権能ギフトが無くても魔法が使える? そんなはずがない、もしそうなのであれば、魔法使いの存在意義が無くなってしまう……でも、アレス殿が言うのだから……あぁもう、一体どういう事っ⁉)


 アーデルハイトがそんな事を考えていると、注文していた料理が運ばれてきた。

 まだ午前中なので酒類ではなくサッパリとした飲み物と軽くつまめる干し肉を少々。

 冷えた飲み物は、思考で熱くなった顔を冷やすのに丁度よいだろう。

 アーデルハイトは飲み物を一息で飲み干し、アレスの顔を真っすぐ見据えて口を開く。


「それでっ! 先程仰っていた権能ギフトが無くても魔法が使えるとは、どういう事でしょうかっ!」

「……言葉の通りだよ。俺の権能ギフトは《植物使い》で魔法とは一切関係ないが、それでも魔法は使える。《魔法使い》と比べれば習得できるまでに時間は掛かるがな」

「《植物使い》……聞いたことが無いですね。それに、魔法は時間が掛かるけど習得はできる……やはり貴方達は私達が有していない知識を持っているようですね」


 アレスはテーブルに備え付けてあるチリ紙を一枚取り、軽く魔力を流して陣を焼き付けてアーデルハイトに見せる。


「これが火属性の下位魔法、ファイアーボールの魔法陣だ。これくらいは見たことがあるだろう?」

「えぇ、見たことは。ですが、私には理解及びません」

「だろうな。陣に描かれている文字はルーン文字――精霊が作り出した文字だ。そして、この図形も精霊が作ったものだ。これらを組み合わせる事で魔法を発動できる」


 アレスはチリ紙に描かれた陣に魔力を流すと、チリ紙は火球へと変わる。

 アーデルハイトはそれを見て驚愕する。


「つまり……陣があれば、誰でも魔法を使える……?」

「惜しいが、違う。陣の意味を理解していないと無理だ。因みにさっきのファイアーボールの場合、陣にはルーン文字で火が発生する原理が書いてある。……それ以外も書いてあるがな。つまりは、それが理解できていなければ陣があった所で無意味だ」

「なるほど……?」


 きっと、アーデルハイトは今の説明を理解できていないだろう。なるほど、とは言いつつも首を傾げていた。


「……勉強さえすりゃ魔法なんて誰でも使えるって事だよ」

「えぇえ、でも魔法の勉強なんて王都には魔法学院くらいでしかできませんよ?」

「んな人間側の事情なんて知らねぇよ……ひとまず俺が教えるのはここまでだ。ここから先は自分で勝手に調べろ」


 人間の魔法に対する知識の少なさに驚愕し、つい魔法について教えてしまったアレスだったが、アーデルハイトがあまり理解できていないようで安堵する。


(そう易々と知識を教えるわけにはいかんからな。次からはしっかりと人間について調べた上で決めていこう)


「んだオラァッ! 喧嘩売ってんのか⁉」

「ハッ、魔物の血を頭から被ったクセェ野郎に売る喧嘩なんて無ぇんだよっ!」


 突然、ギルド受付の方から怒声が聞こえてくる。

 二人は目を向けてみると、魔物の血を頭から浴びて真っ赤な大男と、腰に片手用直剣を携えた二十代前半くらいの白髪男が言い合いをしていた。

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