アレスの王都視察-冒険者ギルド①

 アレス達がフォレスティエ王国に到着した翌日。

 早速この日からアレスの人間に興味を持つための試みが始まった。


「女騎士、この王都を案内しろ」

「えっ、別に構いませんが……人混みを見て、気持ち悪いとか言わないでくださいよ?」


 アーデルハイトは昨日のアレスの発言を思い返し言う。


「……善処しよう」

「お、お願いしますね……では、最初は城を出てすぐにある冒険者ギルドと商業ギルドから参りましょうか」


 アーデルハイトの案内のもと、アレスは冒険者ギルドに赴いた。

 今日のアーデルハイトは騎士甲冑ではなく、動きやすいラフな格好――とはいっても、ズボンで腰には片手剣を携え、緊急時には戦闘も可能な服装で出歩いていた。

 冒険者ギルドの外観はパッと見では少し大きめな酒場なような見てくれ。剣と盾の模様が模られた看板が無ければ冒険者ギルドだとは少し分かりにくいだろう。

 アレスはその看板を見上げつつ、ギルドから出入りする人達を確認する。


「ここがその冒険者ギルドとやらか」

「えぇ、冒険者ギルドは国内外問わず様々な依頼が集まる場所です。魔物の討伐から薬草の採取、商人の護衛や簡単なものでは迷い猫の捜索とかも。簡単に言ってしまえば、何でも屋集団の集会所といったところでしょうか」

「なるほどな……」


 冒険者は稼ぎが良いので人気の職業だ。しかしながら危険性の高い依頼が多いので死傷者も多く、他の職業とは比べ命の軽い職業だ。

 最近では王都周辺で魔物の出現が多くなっている事もあり、怪我を負い魔物の血を浴びた冒険者が今もなおギルドに出入りしていた。


「怪我人が多いようだが」

「最近はどうも王都周辺で魔物の発生が頻繁していまして。下位の魔物であれば冒険者でも問題無いのですが、発生しているのは中位の魔物が多いらしくて。並の冒険者ではどうにも手に負えていないのが現状です」


 冒険者では手に負えず魔物の討伐に騎士が駆り出される機会も増え、森から帰ったばかりのアーデルハイトにもその報告は入って来ていた。

 アーデルハイトの率いる第三小隊はまだ王都に帰還していないので出動要請は出ていないが、隊員が帰還次第、要請されることだろう。


「中位というと、貴様らはどの程度の魔物を指しているのだ」

「えぇとそうですね……森で遭遇したジャイアントウルフや、オーガ、ゴブリンキング、ワイバーンなどですね。最近王都周辺で出現しているのはオーガとワイバーンです」

「その程度の魔物に苦戦しているのか? ……はぁ、話に聞く以上に人間という生き物は脆弱なのだな」

「ぐぬぬ……アレス殿が規格外なだけですよ……」


 アレスは大きく溜息を吐き、アーデルハイトはそんなアレスを見て顔を引きつらせる。

 事実、アレスにとって先程あげられた中位の魔物は取るに足らない存在だ。そんな魔物に苦戦する人間は、相当弱いと思われてもしょうがないだろう。


「そもそも貴様ら人間は、魔物が有する魔法耐性の存在を知っているのか? 知っていればその逆属性の魔法を当てるだけで簡単に倒せるだろうが」

「魔法耐性、ですか……。知ってはいるんですよ、知っては。ただ、魔法を得意とする権能ギフトを持っている人が少ないんですよ」


 この王都に魔法を得意とする権能ギフトを持っている人は極めて少ない。王都の人口十三万に対して、三百いるかいないか、といった所だろう。

 そしてその魔法が使える者の中でも、得意とする魔法は個々で異なる。出現する魔物に対して弱点属性の魔法が使える者を宛がうのは難しいのだ。


「……お前は何を言っているんだ? 権能ギフトが無くとも魔法は発動するのだからわざわざ魔法使いを用意する必要なんて無いだろうが。何故そんな非効率的な事をしているんだよ」


 アレスは片手で顔を覆いながら言う。

 そして、アーデルハイトはアレスの言う事が理解できないかのように目を丸くしていた。


権能ギフトが無くても、魔法が使える……?」

「……は? まさか、そんな事も知らないのかっ⁉」


 アレスは天を仰ぎ見る。あぁ、人間はなんて愚かなのだろう。とでも思っているかのように。

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