閑話-精霊に拾われた忌み子②
金属で囲われた部屋に、ラズリア、ヴィータ、ペトラの三人は静かに入る。
部屋の中央では金属製の揺り籠に揺られ、赤子が静かに寝息を立てている。
三人はお互いに話すことは無く、目だけで合図を送る。
ペトラはまともに魔法は使えないので体内の
基本的に魔法は無詠唱や陣無しでも発動可能だ。そもそも、戦闘中に詠唱や陣の構築なんてしている余裕が無いというのもある。
しかしながら、今回のような大魔法は陣を構築した後に魔法を使う事で威力や安定性が向上する。裏を返してしまえば、今回の場合は陣を構築しなければ安定性は皆無であり魔法は発動することなく魔力は空間内に霧散するか、魔法使用中に爆発――
莫大な魔力を必要とする今回の
床一面に蒼い光を放ちながら陣が展開されていく。
「っ! ラズリア様、あの子が目を覚ましてます!」
魔力を感知したのか赤子は目を覚まし、ラズリアの事を見つめていた。
泣くことは無く目を爛々と輝かせている。
『どうやら泣きはしないようですね。構築はほぼ終わりました、発動、しますよ』
部屋中に拡散している魔力は陣へと収束し、蒼白い光は部屋を包み込まれていく。
『母上っ! 次は⁉』
ヴィータはラズリアの補佐で魔力制御をしているが、表情を見るからに辛そうに見える。
ヴィータはそのガサツさ故に細かい魔力の制御は苦手としている。
『ヴィータはそのまま制御を続けなさい。ペトラもそのまま。さて、この子は……』
ラズリアは赤子を見つめ、少し考える。
『何が良いでしょう。カレン、リォル、ランカ……色々と思いつきますね。ですが――っ!』
ラズリアが楽しそうに赤子の名前を考えていると、突然部屋内の魔力が暴走する。
『母上、これはっ⁉』
「うぅぅ、圧し潰されそう……」
ヴィータとペトラも異変に気が付いたようだ。ペトラに至っては暴走する魔力に圧されながらもギリギリで正気を保っているくらいだ。この暴走が続いてしまえばその内気を失ってしまうだろう。
暴走の原因は赤子。キャッキャと笑いながら三人を真似て、内に秘めたる魔力を放出していた。
赤子の魔力は凄まじく、ラズリアでさえ制御するので精一杯。ラズリアは赤子が忌み子と恐れられた所以を改めて感じたのだった。
『くふふ……あははっ! 素晴らしい、素晴らしいっ! これ程の魔力! まだ粗削りですが生まれてばかりでこれっ! しっかりと教育すれば私以上になることでしょうっ!』
ラズリアは赤子の魔力に驚愕しつつも興奮する。そんな興奮下に於いても暴走する魔力を上手く制御し、契約魔法へと纏める。
「ラズリア様、はやく……っ!」
『えぇ、分かっていますとも! さあいきますよっ!』
更に魔力を高め、陣へと向けていた魔力を赤子へ向ける。
すると、赤子は陣のように蒼く光だす。
『……さぁ、共に参りましょう。"アレス"』
先程までむせ返りそうなほどそこかしこに充満していた魔力はアレスに収束する。
魔力が突風のようにアレスに収束したせいか、ヴィータとペトラは床に伏せていた。
「お、終わったの……?」
『……あぁ、終わったようだな』
ヴィータとペトラは疲れ切ったような表情を浮かべ、額に浮かぶ玉の汗をを拭う。
『二人とも、お疲れ様です。魔法は無事、付与完了ですよ』
――もう一回見せて!
「っ⁉」
心の内から声が聞こえる。
ペトラはラズリアとヴィータを見るが、二人も同様に聞こえたのか頷いていた。
『なるほど、これが意思共有ですか。驚くほどハッキリと伝わってくるものなのですね』
『へぇ、面白ぇな』
「これって、僕達の思ってることってどう伝わってるるんですかね……?」
『簡単な事ですよ。思い、念じる。ただそれだけです』
意思共有。その名の通り意思、思っている事や真意を伝える事ができる。
便利な反面、もちろん不便な部分もある。伝わってほしくないことまで共有してしまう事があるのだ。
『これで私達は、アレスに対して隠し事は出来なくなってしまいましたね』
『そうですね……って、このガキの名前はアレスにしたんすか』
『えぇ、良い名でしょう?』
「ほえぇー、アレスくんかぁ。良い名前を付けましたね、ラズリア様!」
因みに、ラズリア、ヴィータ、ペトラ間での意思共有は行われない。
陣を構築する際にひと手間加えてそのようにしたのだ。
――もう一回やってよ!
「びえぇえぇぇぇぇぇ!」
辛抱堪らず、アレスは泣き出してしまう。
『おやおや、泣いてしまいましたね。では私はここまでです。ヴィータ、ペトラ。アレスの思う事を叶えてあげなさい』
『ちょっ、もう一回ってあたし達じゃ出来ないんすから! 母上ぇぇぇぇっ!』
「ま、待って僕服着て……あぁぁ下着がぁぁぁぁっ!」
アレスに振り回される二人を置いて、部屋から立ち去るラズリア。
『結局二人は
ラズリアは意味深な事を呟きながら去っていくのだった。
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