閑話-精霊に拾われた忌み子①
両親から忌み子として捨てられた赤子を胸に抱き、ラズリアは里へと帰還した。
まだ深夜だというにも関わらず、里の住人は人間の気配を感じて家から出てきていた。鼻の良い亜人達にとって人間の匂いは嫌悪感を感じるのかもしれない。
赤子であろうと人間は人間。人間に対して思うところのある亜人達は皆良い顔はしていなかった。
『なっ……母上、そいつは人間……?』
人間の赤子の存在を察知したのか、ヴィータがラズリアの前に姿を現す。
『えぇ、そうですよ。この赤子はここで育てる事に決めました』
『なっ⁉ 本気か母上! いくらガキだろうと人間は人間だっ!』
『……確かに、人間です。しかしながらこの子は――"忌み子"です』
『っ⁉』
忌み子と聞き、ヴィータは驚愕の色に顔を染める。
――忌み子。生まれながらに身体能力が高く、人間に仇なす
しかしながら、忌み子はあくまでも人間が人間の裁量で決めたただの呼び方に過ぎない。
そして、その忌み子とは――裏を返してしまえば、人間の脅威たりえる存在になる。上手く育てる事が出来れば、対人間用の兵器とも成り得る、という事だ。
『なるほど……忌み子。こりゃまた面白いガキを拾ってきたもんですね』
『えぇ、どうなるか興味があります。しかしながら、私は赤子を育てた経験がありません。どうしたものでしょうか』
『だったら、エルフに任せりゃ良いんじゃないすかね。エルフはあたしら精霊と違って子を産みますし、長命だから子を育てた経験も豊富でしょうし』
ヴィータの言う事は一理ある。
エルフは、長命故に種族柄妊娠率が極めて低く、生涯で子を設けない者もいたりもする。しかしながら、エルフの中で子を産んだ者がいれば、一族総出で育児に取り組む。それ故に子育てに関するノウハウを一族で共有していたりと、エルフは子育てのプロなのである。
『では、エルフ達に任せてしまいましょうか。ヴィータ、エルフ族の族長を呼んできてください』
『はいはい、分かりましたよ……』
面倒そうに返事をしたヴィータは姿を消し、族長を呼びに行った。
『名前はどうしましょうか。……あぁ、楽しみです。この子は、どのように育つのでしょうか』
待っている間、ラズリアは赤子の頬を指でなぞりながら誰にも分からないように笑みを浮かべのだった。
◇
エルフに赤子の子育てを任せてから一週間が経過した。
その過程で、赤子は何度か
「ラズリア様ぁ、この子の
赤子の子育てを手伝っていたペトラがラズリアへと愚痴をこぼす。
『確かにこの
ラズリアは赤子の持つ
――『植物使い』。植物に意思を通わせ、思うがままに操る事ができる、という
言葉で説明を聞くだけでは弱そうに聞こえるだろう。しかしながらこの
最初に
エルフ族がラズリアから事情を聞き引き取ってから、エルフ住居内で揺り籠に乗せ大勢のエルフに周りを囲まれている時だった。
それまでは寝息を立てていた赤子であったが、大勢に囲まれていたせいか雑音が立ち、起きてしまった。
起きてすぐに目に映るのは自分より大きい知らない者が複数。そんな状況では怖がるのも当然で、泣き出してしまう。そして、
最初に異変が起こったのは赤子の乗る揺り籠。木製だったその揺り籠は、加工されていえど"植物"だ。
揺り籠の木製部分は急成長し、部屋に収まらない程に巨大な樹へと変貌する。そして、部屋を壊しながらグングンと成長し続けたのだ。
これが、最初の
そして一週間経った今では赤子の乗る揺り籠は金属製の物へと変更され、部屋も金属製の檻に。赤子の目に見える場所に植物を置かないことでどうにか育児をすることができるようになった。
しかしながら、それだけでは足りなかったのだ。服の木綿ですら『植物使い』の対象になり得たのだ。
「この里の肌着は全て木綿製ですから、今じゃあの子に近づく時は裸ですよ……」
ペトラは赤面しながらラズリアに報告する。
『確かに、このままでは些か不便ですね。それに我らの里では金属類は希少品。あの赤子がある程度思考できるまでに大きくなれば使用した金属は鋳潰して再利用は出来ますが、いつになる事やら。……ふふっ、これもまた母の役目でしょう』
何かを思いついたラズリアは、ヴィータを呼びペトラ含む三人で思いついた事を話し出す。
『ヴィータ、ペトラ。貴方達二人はこの里の中でも私に次いで保有する
『なんだよ母上……いったい、何をするってんだ?』
「えぇぇ、僕って
ペトラは自分の
『貴方達には私と共にあの赤子と、
『なっ……⁉』
ヴィータは
『
ラズリアは
「ほえぇ、仲良く……うんっ、分かりましたぁ!」
『あ、アホかペトラ!
「……えぇっ⁉ 何その変な魔法っ⁉」
契約魔法の最上位である
『まだまだですね、ヴィータ。もう少し魔法について学びなさい』
『……んだよ、言いたい事があるならハッキリ言えってんですよ』
『
『じゃあ、なんだってんだよ』
ラズリアは笑みを浮かばせながらこの契約魔法についての説明を続ける。
『
『なんだと⁉』
ヴィータは声を荒げる。赤子にそんなにも莫大な
『あのガキは母上より
『ふふふ、なので死なせないように頑張りましょう。ですが、死なせる事無く育て上げる事ができた場合……最強の矛となりえる。どうです、面白いでしょう?』
――ゾッとした。ラズリアが、一体何を考えてこの赤子を拾ってきたのかが分からなかったヴィータはラズリアの真意を知り、悪寒が止まらなかった。
『……ハハッ、面白ぇ、やってやろうじゃねぇか!』
ヴィータの悪寒で震えていた身体は、次第に武者震いへと変わっていく。ヴィータも、この赤子がどのように成長していくのが気になってしまった。もしかしたらラズリアを越える化け物になるやもしれない。そんなの、楽しみでしょうがないじゃないか。
『さて、ヴィータはこの通りやる気ですが、ペトラはどうしますか?』
先ほどから頭を左右に振りながら「ムムム」と唸りながらラズリア達の会話を聞いていたペトラは完全に会話の内容を理解していないように見える。
「うぅむ……僕は魔法にはあまり詳しくないのでさっきラズリア様が言っていたことの大半は理解できませんでしたよ。でも、その魔法を使う事であの子が思っている事が分かるようになるって事ですよね?」
『えぇ、そうですよ。当然こちらが思っている事も赤子には伝わってしまいますがね』
「では、大丈夫です! あの子のお世話が今よりも楽になるなら喜んでやりますよ!」
アッサリと承諾するペトラ。よほど赤子を気にかけていたという事が分かる。
その返事を聞きラズリアは満足そうに頷く。
『では、さっそく実行しましょうか。行きますよ、二人とも』
三人は赤子の居る金属の檻の中へと入っていった。
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