配達員としての仕事



俺は配達員である。

前回の配達は猩々による襲撃によって失敗して、経歴に傷が付いてしまったが、それでもまだゴールドデリバリーである。

この荷物の中身は既に分かっていて、その荷物のお届け先へと俺は住所を知っていた。

だから、荷物が無くても、その場所へと向かえば何かしら収穫があると思った。


無論、宛先に書かれている住所の元へ向かった所で意味は無いだろう。

何せ、薬の輸送だ、中身は別のモノとして偽装して送っているに違いない。

そうなれば、ある程度のリスク回避をしている、例えば、住所先の建物は仮拠点であり、時間が経過すると共に撤収している可能性もある。

そのまま、情報も無いまま無駄足が増えるだけだろうが、それでも戦いが無い方が良い。


「住所の元に行くんだろ?その間、俺はお前さんの妹を鍛えておくぜ」


無幽玄は天麗妃を捕まえてそう言った。


「鍛えるって一体…」


俺が聞き返すと、無幽玄は答えてくれる。


「俺たち廻業には、前世の力を引き出す為の術式って奴が存在する、『臨界術儀』と呼ばれる代物でな、お前にも後で覚えて貰う、つぅワケで、クドを連れていけ」


そう言って、無幽玄は俺に一人の少女を紹介した。

灰色の髪をした、犬耳を生やす少女である。


「戍亥クドリャフカだ、当然、臨界術儀を習得している、もしも廻業との戦いに至った時には必要になるだろう」


先程まで眠っていたのか、彼女は目を手の甲で擦りながら、大きく口を開けて欠伸をしていた。


「はぅ…お名前、なあに?」


そう戍亥が聞いて来るので、俺は自分の名前を口にする。


「東儀宗十郎、呼び方は好きにしてくれ」


俺がそう告げると、小指を一本、戍亥が立てる。

そして、その小指を自らの口元に近付けて、下唇を抑えていた。


「…そうじゅろ?」


そして、愛称とも下の名前とも言い難い、中途半端な略称で俺の名前を呼んだ。

なんともむず痒い呼び方だが、特に気にする事でもないので、俺はその呼び方を許容する。


「取り敢えず、宜しく頼む、戍亥」


俺が彼女の名前を呼ぶと、目を瞑って再び頷く。

どうしても、眠たいらしい、なんなら、このまま俺一人でも住所の元へ向かおうと思うが…。


「だいじょうぶ、私は、なんとか出来る」


随分と頼りない言い方である。

俺はそう思いながらも、早速、住所の元へと向かう事にする。

俺は、無幽玄から渡された新しい携帯端末を所持して、その足で住所を調べながら向かう事にした。


住所は蛮原地区である。

治安が悪い事で有名だが、最初に言った時よりかは恐怖が恐れている。

実際に殺される様な思いをしたし、刃で内側から切り刻まれる思いすらしたのだ、当然ながら恐怖感が薄まっているのが自分でもわかる。


近くで一緒に歩いてくれる戍亥クドリャフカはリラックスした状態で、蛮原地区に不安すら覚えていない様子だった。


「おなか」


すると、戍亥クドリャフカは立ち止まって、一言口にする、その言葉に俺は彼女の方を見て聞く。


「どうした?」


おなか、と言う言葉が聞こえた、だとすれば、お腹が痛いのだろうか、しかし、彼女の視線は飲食店の方に向けられている。


「…空いたねぇ」


自らの腹部に手を添えて、戍亥クドリャフカは再び歩き出す、口の中をもぎゅもぎゅさせながら、まるで何事も無かったかの様に再び歩き出した。


「腹が減ったのか?」


戍亥クドリャフカは、口の中に何かを咥えている様子で、口を動かしながら頷いた。

彼女のポケットには、コンビニで買えるビーフジャーキーが忍ばせてあった、それを手に取って口に放り込んで食べているらしい。


「美味しい、たべる?」


そう言って、俺に向けて、赤赤しい乾燥した肉を向ける。

俺は首を左右に振って、貰わない事にすると、そのまま彼女は、手に持っているビーフジャーキーを口に近付けて噛んでいる。

かじかじと、肉を前歯で噛みながら唾液を含ませてビーフジャーキーを柔らかくさせながら食べている。


「おいおい、デートですかぁ!?」


俺たちが歩いていると、前から複数の人間がやって来る。

タンクトップだったり、パーカーフードを着込んでいる男たちだ。

ガラが悪くて、俺たちの方を見ながらポケットに忍ばせた何かしらの道具を構えている。


「調子乗ってるねぇ、ムカつくわ」

「はいはい、それ以上歩くなよ、歩いたら歩行代払って貰うから」

「金が無かったらその衣服で払っても良いぜ?」


面倒臭い奴らが現れたな。

何時もの俺なら、構われる事自体が嫌だから踵を返してその場から逃走をする。

だが、今の俺は感覚が麻痺していて、コイツらの言う事に苛立ちを感じている。


「チッ…面倒臭ェ」


だが、此処で騒ぎを起こす様な馬鹿な真似はしない。

チンピラ共を無視して歩き出すと、チンピラの一人が俺に向けてナイフを振るう。

頬を斬られて、俺の頬に一線の赤い筋が浮かび上がり、其処から血が流れ出す。


「お前、ムカつくなぁ、無視しやがったよ、はい、もう我慢できません、ブチ殺し確定です」


俺は指を伸ばして、頬に触れる、まさかここまで倫理観が消え去った奴等だとは思わなかった。

俺が握り拳を作って相手を睨んだと同時、戍亥が地面を蹴って跳躍すると、細い足を伸ばしてチンピラの顎を蹴り上げる。


「ぶばらッ!?」


一人倒れて、そのまま戍亥クドリャフカが素早く動いてチンピラたちを薙ぎ倒す。


「勝手に動いてんじゃねぇよ、ぶち殺すぞッ!!」


叫び、チンピラが戍亥クドリャフカにナイフを向けたと同時。

俺はチンピラの持つナイフを刃の部分を掴んで握り締める。

大量の血を痛みが生まれるがどうでもいい、それ以上に俺は怒りを覚えている。


「女にナイフを向けてんじゃねぇよ」


ドスの効いた声と共に、俺はチンピラの顔に思い切り拳を叩き付けた。

一撃で意識を失うチンピラは、地面に倒れてしまう、俺は掌を振るって血を払った。


「畜生、痛ぇな」


ナイフの傷が掌に刻まれていた。


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転生者が現代に転生する世界で、地獄の剣たる転生者を宿す主人公は己の精神で転生者を征す。転生者のヒロインもまた、その精神性に魅了されている。現代バトル、ヤンデレ、ハーレム、現代ファンタジー 三流木青二斎無一門 @itisyou

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