転生者との出会い

私の夢の中。

そこには、私と、もう一人が居た。 

その場にいたのは小さな女の子。

黒髪で童顔で、戦国時代とかの、お姫様が着ていそうな衣服を着ている、小学生くらいの小さい女性。

けど、胸部は膨らんでいる、着物が開けて谷間が見えている。


その女の子を見て、私は少なからず、誰であるかを察した。


「貴方は…廻業の…」


私の体に宿る、もう一人の人格。

私の目を見て、彼女は気軽に手を挙げる。


「よう、キサラ」


私の名前を呼ぶ彼女は、やはり、私に宿る転生者だった。


「それが、貴方の本当の姿?」


私とは違う、別の姿。

そして、その姿は何とも可愛らしい。

言葉遣いが男に近かったから、てっきり男性に近しい筋肉が隆々とした女性かと思っていた。

だけど、その姿は真逆だったので、驚く他無かった。


「これがオレだ、本当の名前も、天麗妃てんれいひって名乗るぜ」


そうして、彼女は自分の名前を教えてくれた。

ここまで、彼女が私に歩み寄ってくれたのは初めてだった。

しかし分からない、どうして急に顔を出してきたのかが。


「私の前に現れて、何かあったの?」


悪い事でもあるのかと勘ぐってしまう。

そう聞くと、彼女はふは、と笑みを浮かべて笑い出した。


「警戒してんじゃねぇよ、別に何もしやしねぇよ、ただ単に歩み寄りって奴だ、世間話でもしようぜってだけ」


世間話。

だから、今まで、私の体を乗っ取っておいて、急に世間話なんて裏があるとしか思えない。


「何が目的なの?」


きっと、彼女には何かがある。

そう、えぇと、天麗妃に、私は目的を聞くと、彼女は視線を私から逸らして言った。


「オレは別に、お前に協力してやろうと思っただけだぜ?」


協力?

何を言っているの?

私と貴方で、何をしようとしているの?

私の方に近づく彼女は私の耳に耳打ちしようとしている。

だから私は、膝を落として彼女の目線にまで近づいて耳を添えた。


「二人で協力して、お兄ちゃんに犯されようぜ?」


…急に変な事を言って来た。

やっぱりろくな内容じゃない。

私は彼女から遠ざかる。


「そんなはしたない事、私はしたくない」


彼女を拒否するが、しかし天麗妃は私の顔を見て歯を見せながら笑う。


「はしたない、から嫌なのか、兄妹だから嫌じゃないんだな」


…最悪。

言い方を間違えてしまった事に後悔してしまう。

お兄ちゃんは大好きで、確かに人として好意を私は持っている。

だけどそれは許されない事、兄妹が結ばれるなんて、そんな事は世間が許されないし、何よりも、お兄ちゃんはそれを嫌う。



「兄妹での繋がりが禁忌なのは分かるが、オレには関係ない、欲しいモノは手に入れるだけだ。俺は今、お前のお兄ちゃんがどうしようも無く欲しいんだよ」


だけど、やっぱり、この人には関係が無いみたい。

どんな手を使っても、お兄ちゃんを手に入れたいと言っている。


「…どうして、其処までお兄ちゃんに執着するの?」


荒っぽい動向。

それでも、何故かこの人は、お兄ちゃんを求めている。

私の質問に、彼女は遠く空を見つめながら答えてくれる。


「オレは昔、国の王だった、乞食として生まれ、武器を纏い、国を滅ぼして新たな王になった」


それは、天麗妃としての過去の話。

自分が行った事や、出会い、別れを淡々と語り出す。


「あの頃は楽しかったぜ、戦に継ぐ戦、一騎打ちや裏切り、ありとあらゆる欲が渦巻く戦に投じて、欲しいモノは全て手に入った、だけど、結果的に国は滅び、敵国の慰み者にまで落ちちまった」


自らの胸に手を添える。

戦争に負けたら、その勝った国に従属しなければならないのは世の常。

それでも、彼女の言葉は辛い過去ではなかった。


「最終的に苦痛に負けちまった、それを受け入れた以上は、気が狂う程に気持ち良かったぜ、拷問も凌辱もな」


身をよじらせて興奮している。

まるで、痛みと苦しみを恋人の様に見つめている。

国の崩壊によって、彼女の趣向は大きく変わってしまったらしい。

それは、私にとってはどうでもいいこと。

けれど、その語りの先には、私のお兄ちゃんの名前を出した。


「だけど…お兄ちゃんは、体中から刃を噴き出しても、自分の精神を貫いた、オレには出来なかった、痛みに屈服しなかった」


それは恐らく、お兄ちゃんが、転生者と言う存在に体を乗っ取られた時。

お兄ちゃんは激痛の末に自らの肉体を取り戻した、その姿に、彼女は憧憬を抱いてしまったのか。


「…別に、オレは自分の過去を悔やんではいない、今でも痛みも苦しみも、脳が狂う程に大好きだ、だけど…」


お兄ちゃんを想っている。

彼女の表情は恋をする乙女の様に綺麗に見えた。


「オレよりも、精神性に優るお兄ちゃんには、敬意と好意を抱いちまったんだよ」


自分よりも上の存在が居る。

その人間に憧れ、理想を抱いてしまう。

天麗妃は、お兄ちゃんに恋をしている。


「あの人に犯されてみたいし、殴られても蹴られても貶されてもみたい、それ以上に、あの人の役に立ちたいと、思っただけだ」


それがどういう意味か。

私にはよくわかる。


「まあ、ようするに惚れちまったわけだ」


私の大好きなお兄ちゃんを大好きな人は。

私にとって邪魔な存在でしかない。


「お兄ちゃんは、渡さない、絶対に…」


黒く、闇の様な感情が渦巻く。

私の言葉に反応する天麗妃は口を開けて笑みを浮かべる。


「じゃあ、オレよりも早く、結ばれる事だな…禁忌に恐れている様じゃ、無理かも知れないけどな」


そう煽る彼女。

そうして、私と天麗妃の話は其処で断ち切られた。


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