二つの人格、妃紗愛視点
再びオレの視界へと戻る。
このメスが、オレの意識を奪おうとして躍起になってやがる。
それもそうだろう、このメスは、あの男に惚れこんでいる、惚れた男の為ならばどんな事でもするって言う感じだな。
全く気に入らない話だ、コイツは…。
『貴方は、何者ですか?』
おいおい、まさか、このオレに話しかけてくるのかよ、このメスは。
『私は、そんなはしたない、名前じゃありません、私は、東儀妃紗愛です』
意思疎通も出来るのか、おいおい、マジで、こいつ、主導権の奪い合いが出来そうな領域に居るじゃねえかよ、ふざけんなよ。
『貴方は誰ですか?どうして、私の体を奪ったんですか?』
おいおい、人聞きの悪い事を言うなよな。
確かに、オレはお前の肉体を奪ったが、…元々、オレの魂を上書きしようとしてたのはお前の方だろうが。
『何を言っているんですか?』
知らないのか?魂って言う概念、肉体が滅びたら、その肉体に込められた魂が昇天する。
そして、輪廻の渦って言う前世の記憶や体験を浄化する行いの末に、新しい肉体に、洗濯した魂が入るんだよ。
その魂は時間の経過、自我が生まれて、経験と体験によって前世の情報を塗り潰す。
それが上書きって言う行為でな、…詰まる話、前世のお前が、オレって事になる。
『そんな…私は、貴方の様なはしたない人間じゃありません』
ひ、ひひッ、何を言ってんだよ。
オレとお前は、記憶が結びついてんだ、その感情も同じなんだよ。
常日頃から、自分の兄で慰めている女が、はしたないワケないだろうが。
『やめ、ッやめて、下さい、そんな事、…恨みますよッ!?』
恨めば良いだろ、まったく、自分の兄を性的に見ている妹なんてお笑いだな。
まあ、オレにとっちゃ、お兄ちゃんは他人だし、全然、ありだけどなぁ。
『お兄ちゃん、に、手を出さないで下さいッ!!』
そんな約束、オレがするワケないだろ?
と言うか、先ずそれよりも…お前のお兄ちゃんも、どうやら転生者として覚醒したみたいだぜ?
『え?お、お兄ちゃんが、転生者…?』
見て見ろよ、肉体をぶっ壊して、体から武器が出てやがる。
あれは刀剣類か?と言う事は、オレと同じ修羅道の人間かあ?いいや、違うな、それだと、より濃い親近感が感じられない。
と言う事は…あれは、別の世界の住人って事になるな。
「が、…ァッ!!」
『お兄ちゃん、意識が…なんとか、しないと』
何言ってんだよ。
もうあれはお前のお兄ちゃんじゃないだろ。
転生しちまった、そうなっちまうと、その意識も転生者のものになっちまう。
まあ、オレとお前みたいに、こうして二つの意識が共存するなんて事もありえるがな。
『なんとか、しないと、私が、なんとか、お兄ちゃんを…ッ』
おいおい、まさか、主導権を握るつもりか?やめとけよ、お前じゃあ、あの転生者に殺されちまうぞ?
『それでも…あの人は、私のお兄ちゃんだから…お兄ちゃんが、別の人になるのなら…』
…『私が、殺さないと…』
…ひ、ひひ。
おいおい、兄が歪んでいるかと思っていたら、なんだよ、妹の方も歪んでいるじゃねえかよ。
まったく面白いなぁ、お前らは、どうやったらそんな思考に行き付くのか見てみたいぜ。
まあ、オレにしたらどっちでもいいけどな。
お兄ちゃんの心じゃなくて、体の方が良いと思っているし。
折角だ、あの転生者を半殺しにして服従させるか、そして、オレの為の性欲処理に使ってやるよ。
『お兄ちゃんに、そんな真似をさせない』
まあ待てよ。
流石に、お前が出張っちゃ不味い。
あくまでもオレとお前の魂は同じなんだ、肉体もな。
折角受肉したんだから、このままお前が出て来て死ぬなんて真似は御免だ。
だから、お前は黙ってろ、少なくとも、お兄ちゃんは死なない未来をくれてやる。
それどころか、お前の大好きなお兄ちゃんと子作り出来るかも知れないんだぞ?都合が良くて感謝しか出来ないだろ。
『ふざけないで下さいッ!』
きひ、ひひひ。
さあて、どうやって楽しもうとするかね。
取り合えず、武器を使うとするか。
「『
オレが生前使用していた武器の名前を口にする。
どういった原理かは知らないが、オレに縁のある武器は出す事が出来るらしい。
鞭を握って、オレはお兄ちゃんの方に顔を向ける。
「調教してやるよ、オレの首を絞めて腰を振れる様になぁ!!」
お兄ちゃんは、俺の方を睨みながら、腕から伸ばす一振りの太刀を構えた。
「が…ァ…」
腕を真横に伸ばすお兄ちゃん。
かと思えば…お兄ちゃんの腕から、更に肉を突き破って刀が出てくる。
一振りとは言わず、二振り、三つ、四つ…最大で十二の刃が、樹木から生える枝の様に無造作に生えていた。
「おいおい…お兄ちゃん、痛くないのか?」
それで切り刻まれたら、どれほど気持ち良いかを考える。
オレは生前では、異国の人間に拷問に近い凌辱をされた末に快楽を見出した人間だ。
だから、痛みを痛みとは思わない、快楽へと変える事が出来る技能を所持している。
それで腹部を貫かれたら、さぞかし脳が蕩けるだろうが、ここは我慢してやる。
昔の肉体とは違って、脆弱な体だ。
オレの魂の強度によって肉体もそれに応じて強化されているが、限界がある。
あまり無理な事は出来ないと言う事を重々承知したうえで、お兄ちゃんと戦うする事にした。
オレは早速、お兄ちゃんに向けて鞭を振るう。
傾世禁鞭はオレが生前から使用して来た武具。
使用者の意思によって、細く長く伸びる性質を持つ。
本来ならばそれだけの性能だが、しかし、オレが使えばそれは縦横無尽の刃へと変わる。
「喰らえよ、お兄ちゃん、思い切り吹き飛べやッ」
オレの鞭の先端の太さを維持したまま、鞭の腹部の部分だけを細く伸ばして距離を稼ぐ。
傾世禁鞭は細く長くなればなる程に加速していき威力が増加していく。
鞭の先端をお兄ちゃんに向けて叩き付ける。
「が…あッ、あああああッ!!」
「おいおい…お兄ちゃんッ!」
とんでもねえ。
お兄ちゃん、自分の肉体から新たに刃を噴出させて、その刃で鞭を斬りやがった。
なんてこった、意識なんて無い筈なのに、その斬れ筋は一流の剣士よりも太刀筋が良い。
褒めている場合じゃねえか、そりゃあそうだな。
「きゃあッ!!」
上から女の叫び声が聞こえてくる。
その声はマンションからだった、視線を向けると、男やら女やら、そのマンションの住人が顔を出して声を荒げていた、喧しくて苛立つぜまったく。
「の、能力者ッ!」
「早く、能力者対策機関に連絡をッ」
「警察も呼ぶんだッ!!」
あー、面倒臭ェ真似をするんじゃねぇぞ有象無象ども。
警察やら能力者対策機関やらが来ちまったら、いよいよオレの凶悪性を見抜いて捕まえてくるだろうが。
先に警察にチクられる前に殺しちまうかッ。
『それは、ダメ…ッ絶対にッ!!』
うぐぉッ、クソ、またかよ、お兄ちゃん性的に大好きっ子・妃紗愛あ。
『そんな変なあだ名で呼ばないで下さい…それよりも、人を傷つけないで下さいッ』
ああ?何を馬鹿な事を言ってんだよ、このまま野放しにしてたら警察呼ばれるだろうが。
そうなりゃ、お前の大好きなお兄ちゃんだって能力者として扱われて殺されちまうぞ?
いや、殺されるかどうかは知らないけどな、けど、暴走状態で今にでも多くの人間を殺しそうな程に殺意がダダ漏れだからな、きっとそんな状態だとその場で射殺されちまうぜ?
『それなら、それで…仕方がない、です。人間として道を踏み外したのなら、そうなる運命なのです…ですが、その運命に、他人の命を懸けるなど、許しません』
う、ぐぐ。
クソ、拒否反応が出てやがる。
人間を殺そうとしたら、筋肉の動きが鈍くなっちまうな、…あぁクソ、面倒な転生体だぜ。
だったら、殺さなきゃ良いんだろうが。
警察が来る前に、さっさと片付けろって意味だろ、じゃあ、やってやるよッ。
鞭を振るう。
鞭が一瞬で地面を何度も叩き、アスファルトを粉砕する。
粉砕したアスファルトの瓦礫が弾けて宙に浮かぶと共に、更に鞭で瓦礫の破片の尻を弾いて礫として射出する。
「瓦礫の雨だ、存分に受けちまえッ!!」
瓦礫の雨が、お兄ちゃんに向かって飛んでいく。
鞭の一撃によって射出された瓦礫は、人間の頭部を軽く砕く程に強力。
それに従い、その投石速度も、弓矢には劣るが人間が避けるには数が多すぎる。
手足や内臓が潰れちまうかも知れないが、その辺は御愛嬌だ、オレは精々、お兄ちゃんの男性器が潰れない事を祈るぜ。
だが。
「し、ィ、はああああッ!!」
なんだとッ、我を失っている筈なのにッ!!
お兄ちゃん、コイツ…礫の弾丸を直感で回避しやがった。
なんて芸当だよ、意識なんて無い癖に…まるで獣だ。
もしや…お兄ちゃんの転生は、獣に関係するのか?だとしたら、畜生道の住人って事になるな。
だけど、畜生道の住人になったって事は、その肉体も変異して、獣になる筈だ。
けど、その片鱗が見られないところを見るに、お兄ちゃんは畜生道の住人じゃない事が分かる。
…まあ、考えた所で意味なんてないか。
無駄な時間を過ごしたかと思えば、直進して俺の方に接近してくるお兄ちゃん。
体中から刀剣類を出していると言う事は、その攻撃もまた近接戦に限られてくる。
だからと言って、オレがわざわざ、相手の攻撃を安く受けるつもりもねぇ。
鞭を振るう、先端が切断された鞭でも、先端を細く伸ばせばリーチに問題は無い。
そもそも、この傾世禁鞭はリーチに際限がない事で有名な武器だ、だから事、距離に関しては心配する事も無い。
鞭を伸ばして、近くの街灯へと鞭を絡ませる、そして、鞭を引っ張ると、細長い鞭が縮小していき、オレの意思によって高速で街灯の方へと移動する。
身体能力は其処まで高くないが、それでもこれくらいの芸当は出来るんだよ。
だが、お兄ちゃんはその行動ですら見抜いていた。
まるで、動くもの全てが敵であるかの様に、直進していたお兄ちゃんは足を無理やり動かして直角に曲がると共に、オレに向けて、刃を噴き出したままタックルしてきやがった。
「い、あッ!」
刃が体に突き刺さり、真っ白な肌を突き破って血が流れ出す。
痛い、痛い、痛い、けれど…あぁ、蕩ける、興奮する、熱を帯びる。
どうしようも無く、痛みと言うものは、オレにとっては性的興奮を煽るスパイスでしかない。
「は、ははッ、ああぁ、痛い、痛いぃ…けど、きもち、いい、は、あはッ」
俺は地面に倒れて、体を引き摺る。
お兄ちゃんは意識を失ったまま、体中に刃を出してオレに近づいて来る。
おいおい、もしも、そのまま俺を抱き締めたら…死に迫る激痛を受けるだろう。
あぁ、それは、極上だ、オレは、先ずそう確信した。
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