妹の体を使い誘惑する転生者

 何とか人に見つからずに自宅へ到着した。部屋の中に入ると共に、俺は腰を下ろした。


「はぁ…あぁ…人間一人、運ぶのはキツい…」


ベッドの上で眠る妃紗愛を見て、これからどうなるのかを考える。


あいつら犯罪者たちの事を警察に話すかどうか。

だが、今では妃紗愛は能力者に目覚めてしまった。

この状態で警察に会えば、能力者対策組織がやって来て、妹は隔離地区へと送られる。

能力者になり、人格が凶悪に変貌、能力を使用して人を殺す、この三つでもう、妹は元の生活には戻れない。

しかし、妹が元に戻ってくれたのならば、まだ幾らか罪は軽くなるかも知れない。

そんな事を考えていた時、血だらけの妹がゆっくりと目を開いた。


「…妃紗愛?」


俺が、目を開いた妹に声を掛ける。

ゆっくりと口を開く妹は、自らの喉に手を添えて、恍惚の笑みを浮かべながら言い放つ。


「実の妹だってのに、絞め殺す気だったのかよアンタ、怖いねぇ、マジで」


その声に、俺は絶望した。

妹は元に戻っていない、人格が変貌したままだった。


「…クソ」


俺は、覚悟をする他無い。

この悪魔を殺して、妹を解放させる他無い。

殺す事だけが妹にとっての救済なのだと思った。


「おっと、待ちなよ、結構殺す気だろ?いいのかよ、妹はまだ元に戻る可能性があるんだぜ?」


その悪魔の言葉に、俺は足を止める。

妹が元に戻る、だと?


「魂が解放されたから、今はこうして、この肉体はオレのもんだが、だけど人格はまだ残ってる、元の人格の方は、まだ消え去って無いんだよ」


悪魔の言葉に、俺は信じるかどうか迷った。

しかし、俺が信用するべきは、俺が見たものだ。

クラブで妹の首を絞めた時に見た、あの表情と声、一瞬でも妹は元に戻っていた。

ならば、妹は元に戻る可能性があると言うのは嘘ではないだろう。


「どうしたら元に戻る?お前はどうしたら死んでくれる?」


単刀直入に聞く。

無論、この悪魔が真面に話をするとは到底思えない。

案の定、憎たらしい笑みを浮かべて、奴は首を左右に振った。


「知った所で教えるかよ、折角のシャバだ、存分に楽しまねぇとな」


けらけらと笑いながらベッドの上に座り直す。

自らの血だらけになった衣服の上から、妹は自分の体を触り始めた。

それは楽しそうに、腹部から胸部に向けて手を滑らせる。


「けど、久々に良い体に転生したもんだ、若い体で、結構発育も良い」


妃紗愛の胸を服の上から揉みだした。

見兼ねた俺は不愉快な気分になると共に、俺は奴の傍へと近づく。

すると、奴は邪悪な笑みを浮かべた、楽しそうに俺の方を見ると、指で輪っかを作り、舌を出してジェスチャーを加える。


「どうせなら一発抜いてやろうか?前世の時から色んな奴を抱いてきたから、それなりに楽しめるぜ?」


妃紗愛の顔を淫靡な表情に変えた。

性欲的欲求よりも、生理的嫌悪が勝る、俺は腕を伸ばして妃紗愛の首を強く掴んだ。

怒りの赴くままに、力任せに首を強く握り締めて、俺は凄みながら言い放つ。


「俺の妹をキズモノにしてみろ、妃紗愛を盾にしようが殺してやる」


喉を圧迫された妃紗愛は顔を真っ赤にさせていた。

涙を浮かべて苦しむ表情は、次第に白目を向いて失神しそうになっていた。

確実に殺す気は無い、だから俺は首を離して自由にさせる。

呼吸が出来るようになり、荒く息をする妃紗愛、涙を流している顔は邪気がなく、妹と同じように見えた。

罪悪感が過るが、それを押し殺して妃紗愛を睨み続ける。


「ぜぁ…かはッ…お、お前…自分の妹だぞ、手に掛けるなんて…ッ」


喉元に手を添えている奴の手首を掴んで、後ろに回す。

そして俺は自らの腰に巻いているベルトを外しながら、妃紗愛の手首に巻き付けた。


「通用しないと思ったか、そんな戯言を、妹の尊厳の為を考えれば、今、殺しても良いんだ」


だが今は殺さない。

少なくとも、妹が元に戻る可能性があるのならば、殺す事は延期する他ない。

だが、手筈がなくなれば、俺は妹の為にこの怪物ごと殺して、そして俺も死ぬ。

それが、兄としての役目であり、責任の取り方だ。


「はぁ…はぁ…」


妃紗愛は息を荒げている。

だらしなく涎を垂らして、気分が沈んでいる様に見えたが、違った。

奴は、何かしらのスイッチが入ったのか、硬骨な笑みを浮かべて俺を見つめている。


「ひ、ひひっ…あぁ、首を絞められるなんて、何年ぶりだよ、気持ち良いなぁ、つい興奮しちまったよ」


顔を赤くしながら醜く笑う妃紗愛、体をくねらせていた。


「こんなに手を縛りやがって…動かせない様にして犯すつもりか?おかげで濡れちまったよ、なあ、ほら?」


その証拠を見せるかのように、ベッドに横になると、ゆっくりと股を開きだす。

下着が露出されると、証拠というものを見せつけてきた。

やつは、俺の反応を待ちわびていて、舌なめずりをしている。

被虐趣味でもあるのだろうか。

その表情と仕草が、どうしても俺にとっては不愉快でしかなかった。


「いいねぇ、凄く気に入ったよ、あんたになら抱かれても良いって程だ、なあ、


妹と同じ顔で妹と同じ声で、妹と同じ呼び方をするな。

そう言おうと思ったが、言った所でこいつは図に乗るだけだと、俺は察した。

だから、これ以上、こいつと相手をする気はなく、部屋を後にする事にした。



どうする。このまま、あのクソみたいな女のままにさせるわけにはいかない。

何とか、妃紗愛に戻さないとならない、俺は必死になって考える。

何か情報を集めようにも、ネットに接続していたのは携帯端末だけだ。

誰かに、能力者の治し方でも聞くか?そんな事をした所で待ち受けているのは能力者対策組織への密告、そして妹は捕らえられてしまう。


手詰まりだった、まるで片足を泥に突っ込んだような気分だ。

八方塞がりで、どこにも出口など無いと思えてしまう。


俺は何気なく外へ出ようとして靴を履く。

外に出て一体何をしようと言うのだろうか。

どうにも、行動が可笑しい方面に向かっていく。

俺は冷静になる事を徹底する。

玄関の前で腰を下ろして頭を下ろす。

何度も呼吸を繰り返しながら落ち着け、落ち着けと言葉を繰り返す。


何か良い案が思い浮かぶ筈だ。

きっと幸せになれる様な、神のお導きの様な天啓が降りてくる筈。

そうでもしなければ、割に合わないだろう、俺の人生は一体、何の為にあるのか。


「…ッ」


声を抑える。

夜中の時間帯。

唐突に、インターホンが鳴った為だ。

こんな時間に来客など訪れない、宅配便もデリバリーも頼んでいない。

だとすれば、この時間帯に来る輩は一体何者か。


もしかして、血だらけの状態で外に出た所を、誰かに見られた可能性がある。

そして、警察に連絡をして、住所を突き留めてこんな所に来たのだろうか。

だとすれば、何と言う運の悪さだろうか、俺はこれ以上、状況を悪くしないでくれと願う。

此処には誰も居ない、俺は存在しない。

声を殺して存在を殺して、相手に悟られず相手に気付かれずやり過ごす事にする。


居留守がどれ程、この状況下で有効なのかは知らない。

だけど、そうする他無いのだ、これ以上の名案は何処にも無い。


インターホンはたったの一度だけ。

鳴った後は十数秒の沈黙が訪れる。


…もしかすれば、間違いでインターホンを押したのだろうか。

だとすれば、まだ俺のツキは底をついていない。

これから挽回出来る、と、俺は都合の良い方に解釈をした。

だが、即座に頭の中で別の事が思い浮かぶ。

果たして、このインターホンは本当に間違いで押してしまったのか。


居留守である事を悟り、状況を確かめる為に気配を消しているのでは無いのか。

すぐ扉の前でスタンバイをしていて、物音が聞こえたら突入でもしようとしているのではないのだろうか。

不安が体中を包み込む、なんとかして、この思考を振り切りたい。

俺は声を殺したまま、ゆっくりと立ち上がり、扉の前に立つ。


心拍、心臓の音が高鳴っている。

誰も居ない事を願い、俺はドアスコープから外の状況を確認した。

それと同時、ドアスコープの先には、大きく腕を振り上げているコートを着込んだ毛深い男が立っていた。

その直後、大男が扉に向けて拳を突き立てる。

強い衝撃と共に扉がくの字に曲がると、蝶番を破壊して玄関の奥へと吹き飛ぶ。

当然、扉の前に居た俺は、扉の下敷きにされた。


「が、なッ」


一体、何が起こったのか。

いや、そんな疑問はどうでもいい。

大きな男が、拳で扉を一撃で破壊してみせた。

それだけの情報で十分、それ以外の情報など意味がない。


「く、そっ」


俺は扉を押し退けて立ち上がる。

大きな男がゆっくりと玄関から入って来る。

身長が二メートル程ありそうな男は、ゆっくりと俺の方を見つめていた。


「先の、廃工場に居たな、配達員」


先の?…あ。

俺は、この怪物に見覚えがあった。

俺の配達を邪魔して、荷物を奪った男だ。

確か、既に殺された連中からは、この男の事を猩々、と呼んでいたか。


「荷物は何処にやった?…あれを出して貰おうか」


そう言いながら、猩々が俺を睨んでいる。


「それを答えたら、お前は大人しく帰ってくれるのか?」


俺は冷静に、この状況を打破する為に質問をする。

荷物をこの男に返せば、このまま見逃してくれるのか、と淡い期待を込めた。

だが、左右に首を振った後に、片手の五指を大きく開き指を鳴らす。


「無理な相談だ、お前は荷物の中身を見ただろう、助かる道は何処にも無い」


だろうな。

荷物の中身がなんであろうとも、人を躊躇なく暴力で解決しようとした連中だ。

俺が死んだ所でこいつらは何も思わないだろうし、そもそも、こいつらは目的の為に人の命を奪える人間なのだろう。


「情報を吐いて楽に死ぬか、情報を吐くまで惨たらしく拷されるか、選べるのは今だけだぞ」


俺は後退する。

この男の凄みに気圧された。

それ以上に、この男には何かしらの力と言うモノを感じていた。

それは言うなれば…人格の変わってしまった妃紗愛と同じものを、この男に感じていたのだ。


俺は拳を固める。

最早、この男と話した所で俺の命が助かる見込みはない。

命乞いも逃走も無駄だろう、どの行動も生存確率がゼロならば、せめて、相手にも痛みを被る道を選ぶ。

戦う選択を選んだ時、猩々は憐れんだ目を俺に向けた。


「実に無意味だ、自分が余程、高潔な存在であると勘違いしているらしい、人はプライドでは生きていけない、痛みには耐え切れない、それを、お前の肉体で証明してやる」


そう言い放ち、俺の方に近づく猩々。

その直後、廊下の奥から、鋭い鞭の切っ先が、俺の横を通って猩々を突き刺した。


「ぐぉッ!」


声を荒げながら猩々は玄関から弾き出される。


「…あ?」


こんな事、出来る人間など限られている。

俺は後ろを振り向いた。


「…ぶっちゃけさぁ、オレに拘束なんて意味ねぇんだよ、わざわざ縛られてやったのは、その気があったからで、…あーあ、せっかく処女をくれてやるつもりだったのによぉ、もうチャンスはねぇぞ、お兄ちゃん」


妹には似つかわしくない言葉を吐きながら、…悪魔、妃紗愛が鞭を構えながらやって来た。


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