連作短歌「現役時代」

虹岡思惟造(にじおか しいぞう)

連作短歌「現役時代」

冷房の効いた高層ビルを出で初夏の日差しにほっと息つく


プレゼンを終えて我一人残りたる会議室より東京を見る


本棟に続く通路に立ち止まり挨拶の言葉確認をする


ガラス張りビルに映りし白い雲しばし眺めて次の顧客へ


昼時のビジネス街は忙し気なランチ難民足早に行く

  

相性の悪い上司とのやり取りに嫌気がさして蕎麦食いに出る


真夏日の出張帰りの新幹線顰蹙覚悟で靴を先ず脱ぐ


懸案の企画の採用メール見るアカシア並木のオープンカフェ


気難しい役員への説明をせねばならない午後の憂鬱


先方の了解取り付けられたとの電話ありたり梅雨晴れの朝


梅雨に入り社内に密かに広がりぬ吸収合併されるとの噂


暇あれば転職サイトを開くのがいつの間にやら日常となる


転職の書類を書く手が止まりたり己の長所を記入する欄


転職が決まりましたと嬉し気にかっての部下は伝えくれたり


定例の会議は君の横顔が見える位置にいつも座りぬ


尻込みする君を誘って踊りたり記念パーティのスローバラード


転職した企業風土に慣れぬまま夢中で過ごして夏は過ぎたり


ゴミ袋いつものように運びたり月曜日退職する日の朝


職場にて使用していたマグカップ花束と共に袋に入れぬ









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連作短歌「現役時代」 虹岡思惟造(にじおか しいぞう) @nijioka

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